夜に浸かる

義仁雄二

第1話

 最終列車に乗って、都会から田舎にある実家に帰ってきた。

 各駅停車の空虚な車内。

 乗っているのは私だけ。

 このまま何処か知らない場所に連れてかれるかもとちょっと不安。車窓に映る私は何か知っているの?

 穏やかに揺れる電車は揺りかごのようで、心地よさを思い出す。

 降りるのは終点。

 寂れた駅だけど、電灯の周りで虫が賑やかに騒いでいる。

 改札機だけが新しくて、ちぐはぐしてて、感慨に耽る。

 駅を出ると一面田んぼがお出迎え。

 月と星がたわわに実る稲穂を魅せている。

 両親は寝ているから歩いて帰る。

 煩忙な人々も、匆匆とした日々もここにない。

 空間も時間も悠々として、静謐さが涅槃物のように横たわっていた。

 舗装されていない道が柔らかく足を押す。

 自ずと足が前に出えた。

 爽涼な空気も背中を押す。

 色なき風が都会で染みついた喧騒を優しく洒掃してくれている。

 歩歩足取りが軽くなっていく。

 街灯は無い。

 しかし暗澹とした闇夜という訳でもない。

 頭上に輝く満天の星と銀色の月が照らす、澄んだ夜闇だった。

 意味もなく畦道を行く。

 案山子のように両手を広げてバランスを取って落ちないように。

 縁石の上を歩いてはしゃぐ子供そのものだ。

 凸凹に足を取られて転びそうになるのも楽しかった。

 ああ、ずっと夜に浸かっていられたらいいのに。

 暗いからこそ見えるものがあるのに。

 あそこはまるで不夜城のようで、常に明るくいることを求められているようで……。

 願いを受け止め過ぎた星が落ちたりはしないだろうか。

 一人ぼっちでいることも、素でいることも許してくれる夜がずっと終わらなければいいのに。

 そうすれば、月だっでずっと輝いていられるのに。

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