追放された召喚術士、しかたがないので農業をはじめる

第118話 装置とは

「で、イフリート。けっきょく装置はどこなんだ」

　まずは門を閉めんとな。装置を壊して門を閉じる。これが元々の目的だし。

　俺の問いに対してイフリートは軽くうなずくと、口を開いた。

「装置はすでに目にしている」

「ほう！」

　目にしているってことは近くにあるってことか。

　よかった。「ここからはるか先に～」とか言われなくて。

　こんなクソ暑い中、長旅なんかしてられねえからな。

　サクッと終わらせて、サクッと帰ろう。

　しかし、すでに目にしてるってどこだろうな……

　ん？

　チラッと横をみると、ルディーがヘチマみたいな顔をしていた。

　わかる、わかるぞ。

　イフリート、コイツかぶせてきたな、みたいに思っているんだろう。

　さっき俺が「王にはすでに会っている」って言ったばかりだからな。

　だがな、ルディー。イフリートはそういう冗談を言わないと思うぞ。

　見落としていただけで、実際に目にしたどこかにあるんだろうさ。

「で、どこだ」

「この大地そのものだ」

　大地？　いや、よ～わからん。

　もうちょっと説明してたも。

「人間界への門がある島があっただろう」

「うん」

　この魔界ではマグマの海のなかに島が点在している。

　門がある島もそのひとつだ。

「その島を中心として五芒星（ごぼうせい）を描くように他の島がある」

　は～

　そういうことか。

　島の配置そのものが術になっていて、門が閉まるのをジャマしとるワケか。

　これ、教えてもらわないとムリじゃね？

　自力じゃ絶対見つけられんよ。

「その島をひとつでも破壊すれば、門はたちどころに閉まるだろう」

　ちからワザ！

　島を壊すのかよ。

　島っつってもデッケーぞ。

　そうホイホイ壊せるもんじゃねえだろう。

　地道に削っていけってか？

　――いや、いけるか？

　さらに契約者が増えたしな。

　フルパワーでやれば島の一個や二個破壊できるかもしらん。

　とりあえずやってみっか！

――――――

　やってきました元の場所。

　楕円形の出入り口があり、設置したこくたんのトビラもある。

　ここを中心に五芒星か。

　五芒星といってもズラ―っと島が並んでいるわけではない。

　それぞれの島を頂点として線で結ぶと、そんな図形になるってこった。

　ん～、どれがいいかな。

　なるべく壊しやすいのがいいんだけど。

　そう思って見るも、どれも大差ない。ズッシリガッシリ立派な島ばかりだ。

　う～ん、どうしよう。

　それに、魔法はなにを使おう。

　風じゃだめだし、水もいまいち、電撃ならいけるか？

　いや、岩をも砕く落雷ってのはあるだろうが、大地そのものを破壊できるか？

　となると火か。ドロドロに溶かしてマグマにしちまおう。――いや、まてよ。マグマの中に島はあるよな。

　やってできないことはなさそうだが、けっこう苦労しそうだぞ。

　……

　よし！　あの手でいくか！！

　目をつけたのは、そらに浮かぶ島。

　巨大なクサリでつながれたアイツ。

「いけい！　メッチャライトニング！！」

　手のひらより紫電が走る。それは大木よりもはるかに太く、ヒビ割れた折れ線を描く。

　パアアン。

　巨大なクサリは砕け散った。

　おお！　すげえ。さすがメッチャライトニングだ。見た目も威力もケタはずれ。

　よし、つぎは念動力だ。

　動け、動け、動け。

　しばりつけるもののなくなった浮島は、念動力を受け、ゆっくりと天にのぼっていく。

　いいぞ、いいぞ、もっと高く。

　けっこう高くなった。これ以上は念動力の射程がヤバイ。

　よ～し、つぎは下だ。

　落ちろ、落ちろ、おちろ～。

　ゴゴゴゴゴ。

　浮島はゆっくりと落下し始める。

　それは、時間と共に加速していく。

　ふおおおおお。フルパワー！！！

　やがて浮島は五芒星をつなぐ島のひとつに超接近、そして衝突した。

　ドブッ！！

　音は意外と地味だった。

　しかし、威力は超ド級。島とおのれを粉砕しながらマグマの海へと沈んでいく。

「おおー！」

　一同よりどよめきがおこる。

　俺自身も達成感でいっぱいだ。

　父ちゃん、かあちゃん。やったよ。おれ、やってやったよ。

「ん？」

　沈んだ浮島より波紋が起こる。それは周囲に広がっていく。

　――いや、波紋（はもん）なんてものじゃない。そんな生易（なまやさ）しいものではなかった。

　津波だ。マグマでできた大津波が衝撃によってうみだされたのだ。

「やっばっ！」

　マグマの津波はものすごい勢いでこちらに迫ってくる。

　いまいる島をザッパリ飲み込むことうけあいだ。

　これ、マジやばいやつだ。このままだとオダブツだ。

「みんな逃げて～」

　右往左往（うおうさおう）する。

　飛んで逃げようとするルディー。それにつかまるウンディーネ。

「ちょっと！　重い！！」

　ルディーの小さな体ではウンディーネを支えきれなかった。

　あっというまに引きずり降ろされる。

「離しなさいよ！　このスライムおんな！」

「いやよ！！」

　醜いなあ。

　オメーらマジマグマに飲まれちまうぞ。

「門だ、門へ逃げ込め！」

　前方を指さす。

　だが、楕円形の出入り口は急速にせばまっていく。

　島を破壊したからだ。門を維持する術が解けてしまったのだ。

「お～、ちゃんと門が閉じたか。これであと五個だな」

「ちょっと、なんでそんな冷静なの？　逃げないとみんな死んじゃうよ」

　たしかに。

　イフリート以外は溶けて骨すら残らないだろうしなー。

　――だがまあ、こくたんのトビラがあるからな。あそこに逃げ込めば大丈夫。

　つーか、忘れたのか？

　最初からそういう話だっただろ。

　人間テンパると頭まわらないっていうけど、妖精でもおんなじなんやな。

「おい！　みんなトビラへ急げ、ここからでるぞ！」

　さすがにこれ以上のんびりしてられない。

　みな、われ先にとトビラへ向かう。

　振り向けばマグマの津波はもうすぐそこ。

「きゃああ」

「急げ！」

　なんとかトビラへ到着、押し合いへしあい中へと滑り込む。

「トビラをしめろ～」

　バタン。

　静寂がわれらを包む。

　やわらかな日差しが降り注ぎ、足元をくすぐる青草のにおいが鼻を刺激した。

　農場だ。農場へと帰ってきたのだ。

「ふ～、ドキドキだったな！」

　緊張と緩和、そして達成感。なんか生きてるって感じがした。

　それにウンディーネの意外な一面も見れたし。

　本性ってのは土壇場（どたんば）で現れるっていうけど、なかなか面白い体験であった。

「はははは」

「ちょっと、なに笑ってんの！　死ぬところだったのよ！！」

　まあ、まあ。

　終わりよければすべてよし。

　みんな無事だったんだからそれでいいじゃないか。

　さっ、メシでも食うか。たしかシチューだったよな。

　販路の拡大、門の破壊とやることはいっぱいあるけど、とりあえずは腹を満たそうじゃないか。

　ふわりと風が吹く。

　耳をすませば遠くでチチチと鳥が鳴いていた。

※フォローと評価ありがとうございます。

　次回からいよいよ復讐＆乗っ取り編です。

　強大な力をバックに、いろいろと手を広げていきます。

　よろしくね。