第48話 冒険者を募る

 とはいえ、信じてなにもしないのは怠慢たいまんでしかない。

 仕入れ先を突き止めようとするかぐらいは見ておくべきだ。

 ピクシールディーにGOサインをだすと、彼女はトレンドのもとへと飛んでいった。

 彼にピタリと張り付き、不審な動きがないか監視するのだ。


 俺が出発しても、動きがなければ信じていいだろう。

 頃合いを見て、召喚でルディーを呼び寄せればいい。


 んじゃま、行商の仕入れといきますか。

 とりあえず買うのは水を入れるための樽。

 行商中は農地へ帰れない。冒険者と馬のぶんも、水はしっかり確保しとかねばならない。

 つぎに干し肉とパンだ。これも俺たちだけでなく冒険者の分も必要だ。

 道中、狩りができれば肉には困らないが、そんな不確かなものに頼る気にはならない。

 余れば売ればいい。魔物のひとつでも出てくれれば、立派な食料になる。

 野生動物は人を見たら逃げるが、あいつら、こちらの数が少ないと積極的に襲いかかってくるからな。

 なんなんだろうな、あのアグレッシブさは。

 よくあれでしゅえないものだ。


 あとは、日用品、農具、衣類、酒などを買っていく。

 基本は消耗品だ。一度きりの単価の高いものではなく、継続して売れそうなものを中心に選んでいく。



 よし、こんなもんか。

 見上げれば太陽はすでに真上にきていた。

 約束の時間だ。

 馬車を館に戻すと、冒険者ギルドへ向けて歩きだした。



――――――



 冒険者ギルドの裏手にまわると、ひとでごった返していた。

 剣の握りを確かめる者、ヨロイの留め金を調節する者、盾を磨いて見栄えみばえをよくしようとする者。

 まさに冒険者といった風体ふうていのゴロツキどもが、ダンゴ状にかたまって、やいのやいのと騒いでいる。


 珍しいな。冒険者はたいてい朝にギルドへ向かう。依頼書の張りだしが多いのが朝だからだ。

 こんな昼間に混んでることはあまりない。

 それともここじゃ、これが普通なのか?


 見れば若いヤツが多い。元気があってよろしいのだが、なんでこいつらフル装備なんだろう? これから冒険にでかけるのか?


 ふと、ポツンとひとり毛色のちがう者がいることに気づいた。

 黒くやけた肌にやぼったい服。年も少々いっている。そして、腕にひかるのは銀のブレスレットだ。

 あ、なんかみたことあるぞ。

 ――村長やんけ!!


 あーなるほど。

 ゴブリンの討伐隊か。こいつらゴブリンを退治すべく集まったんだ。

 村長、よかったな。ちと遅い気がしないでもないが、これだけいればゴブリンに負けることなどないだろう。


 て、いうかさ。

 なんで冒険者が村の危機を救うワケ?

 軍をだせよ軍を。

 税金、徴収してんだろ?

 こんなときおかみが動かなくて、いつ動くんだよ。

 村がなくなったら、税金だれが払うんだよ。


 そんなツッコミを入れていると、シュタタと走りよってくる者がいる。

 あ、こいつも見たことがある。

 黒髪、ポニーテールの女だ。

 目元のホクロがなかなかエロい。

 ――こないだの受付嬢だな。


 そうそう、彼女と約束してたんだっけ。

 冒険者の面接するからって。

 でも、たしかギルドの中で待ち合わせだったよな。

 酒場の一角で面接だったはず。

 なんでここに?


「サモナイトさん!」


 受付嬢はハアハアと息を切らせながら、つぎの言葉を飲み込んだ。

 呼吸が整わず、喋りたいけど声がでない感じだ。

 まあまあ、落ち着いて。時間はあるから。


 ……しかし、スカート短いね。ついつい太ももに目がいってしまうよ。

 周囲の冒険者の視線もこちらに集まってきてる。

 そりゃそうだ。大半が若い男なんだ。

 見るなつーほうがムリってもんですよ。


「ハッ、ハッ、面接の件なんですけど」

「はい、はい」


 なんかイヤだな。こんなに焦ってるってことは集まらなかったんかな?

 でも、そんなことで表まででてくるワケないしな。

 緊急事態か? ツイてないなぁ。


「思いのほか集まりまして」


 え? そうなの? よかった。


「ギルドの酒場だと手狭てぜまになりまして」

「はいはい」


「ここに集まっていただきました」

「へ~、ここに」


 ……ん?

 んん?


「みな鉄級冒険者です。この中からお選びください」


 え? まさか……こいつら全部?

 ちらりと視線をうつすと、冒険者の団体はギラギラした目で俺のことを見ていた。



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