追放された召喚術士、しかたがないので農業をはじめる

第45話 商人からみた冒険者ギルド

　どれだっつっても『通常窓口』にきまってるんだが。

　が、ここは慎重に。早とちりでハジをかくのはイヤでござる。

　他人の動向を探るべく、長イスに座って聞き耳をたてる。

　すると、聞こえてきたのは男の声。

「――早くしてくれ。ゴブリンがワシらの村を……」

　見れば正面、緊急窓口のカウンターから身を乗りだして、まくしたてるように訴える者がいる。

　年齢はオッサンとおじいちゃんの間ぐらい。身なりは汚くもなくキレイでもなく、着ている服はどこか時代遅れを感じさせるファッションである。

　ザ・村人って感じ。ただ、腕にはブレスレットをしており、銀製品だろうかそこだけ裕福な印象をうける。

　なるほど。村長か。

　どうやらゴブリンの襲撃にあったもよう。

　そら緊急事態だわな。大変やね。がんばって。

　つぎはべつの声に耳を傾けてみる。

　『専属窓口』と書かれたところだ。

「……いつもの……四人ほど……」

「ゴブリンがあ～、ゴブリンがぁ～」

　だめだ、村長うるさすぎ。

　ほかの声がまったく聞こえないよ。

　まあいいや。専属ってことはお得意様、他のギルドなどの大手専用なんだろ。

　てことで、自信をもって『通常窓口』へ。

　受付嬢に、商人ですが行商の護衛を雇いたいんですとつげる。

「ご依頼ありがとうございます。失礼ですが、初めての方でしょうか？」

　そう答えたのは、黒髪を後ろで束ねた二十歳ぐらいの女性。

　右目の下にあるホクロが、なかなかチャーミングだ。

「そっすね、初めてです」

　俺がそう言うと、受付嬢はニコリと微笑み、一枚の紙を取り出した。

「ではこちらに目を通してください」

　見ればなにやら文字が書かれている。

　なになに。

～冒険者を雇うには、一日につき以下の金額を支払わなければならない。～

　階級を問わない……銅貨１０

　鉄級冒険者…………銅貨２０

　銅級冒険者…………銅貨５０

　銀級冒険者…………銀貨１

　金級冒険者…………金貨１

　ただし、金銭にかわる何かを提供できる場合、相手の了承のもと減額してもかまわない。

　あー、料金表だ。冒険者の日当（にっとう）がわかりやすく書いてある。

　銀級なら銀貨一枚。金級なら金貨一枚だ。もともと冒険者の階級もここからきてるんだよな。

　依頼の大半は内容で金額が決まるけど、護衛みたいなのは単純に日割り計算。

　俺がいた冒険者ギルドと同じだ。

　国が変わっても、こういうのは変わらないんだなー。

　でも、この「ただし、金銭にかわる何かを提供できる場合――」ってなんだろう？

　受付嬢に尋ねてみる。

「はい。たとえば、食料の提供がこれにあたります。いわゆる、三食まかないつきですね。冒険者によっては多少報酬が下がっても食事がついているほうが好まれたりします」

　あー、たしかに。メシつきはありがたいな。

　とくに階級が低いときには報酬の大半が、その日のメシ代に消えたりするんだ。

　結果、手元に残る金額はこちらのほうが多くなるかもしれない。

　それに事前に買いこむ食料代がないことだってありうる。冒険者はその日ぐらしも多い。たくわえのあるものばかりではないんだ。

　あとは持ち運びの手間もあるか。荷物は軽ければ軽いほどいいし。

　――あ、てことは。

「馬車がある、ナシで金額がかわったりする？」

「そうですね。本人ないし荷物を馬車に乗せるかわりに報酬を下げるといった依頼主も多いです。ですが、下げすぎると冒険者のモチベーションにも影響しますし、条件がよければよいほど依頼に志願する者も増えるでしょう」

　なるほどなあ。

　なるべく多くの人から選びたいんならケチるなってことか。

「ほかになにかご不明な点はありますでしょうか？」

　受付嬢の言葉にしばし考える。

　ん～。あ、そうだ。報酬の支払いはどうするんだろう？

　普通の依頼の場合、冒険者は任務完了後ギルドから受け取る。

　依頼側は冒険者ギルドに先払いってことだ。

　でも行商はここに戻ってくるとはかぎらない。それにかかる日数だって天候にさゆうされるから、金額が確定しないんだ。

　だったら事前にギルドに支払うことができないよね。

「一個質問。報酬なんだけど、誰にいつ支払えばいいの？」

「はい。まずは冒険者ギルドに仲介料を払っていただきます。雇う冒険者の日当と同じ額ですね。銀級冒険者を二人雇えば、日数にかかわらず仲介料は銀貨二まいになります」

　ほうほう、なるほど。

　それがギルドの儲けになるわけか。

「つぎに報酬ですが、冒険者に直接支払っていただきます。払いかたは自由です。ですが、当ギルドとしては、一日ごとに払うのをおすすめします。まとめて後払いですと、冒険者の不安をあおりますし、見込み金額の先払いなら無用のトラブルを招いたりします」

　無用のトラブルね。

　金だけ受けとってトンズラってことか。

　まあ考えられるわな。それに日払いだと働きに応じて報酬に色をつけることもできる。

　つぎの日の冒険者のやる気もアップしそうだしな。

「ほかになにかございますでしょうか？」

　ん～。とくに思いつかないなあ。

「いまのところはないですね」

「では、依頼書の作成に入りますので、いくつか質問にお答え願います。また疑問点がありましたら、そのつどおっしゃってください」

　いえっさー！

　よーし、いよいよ初依頼。

　商人としての第一歩だ。楽しみだな！！