第44話 売れた

「トマトが銀貨三、パパイヤは五、他は全部二だ」


 仲買人のオッサンに声をかけたところ、そう答えが返ってきた。

 査定金額だ。俺が持ってきた作物を手に取り、傷、ツヤ、味見などして出した結果だ。


 ん~、コレ妥当なのか?

 相場がわからないから判断つかん。

 前に住んでいたとこならジャガイモ二個で銅貨一枚。今回渡したのが四百個ちょいだから……まあこんなもんか。

 ちなみに銅貨百枚で銀貨一枚だ。計算すると、だいたい同じ金額に落ち着いたのがわかる。


 ここは流通が盛んな都市だ。出入りで荷をあらためられることもない。

 だから商品は豊富。そのぶん、単価は下がると思われる。

 てことはだ。品質を考えて、通常より高めに買取り金額を提示してくれてるんじゃなかろうか。

 まあ、満足のいく取引だと思う。

 

 あとは、トマトとパパイヤの買取が高いのが気になった。

 たぶん、日持ちしないからだろう。

 いかに流通が盛んだとしても、馬車でトコトコ運ぶんだ。それなりに日数がかかる。

 となると、熟す前に収穫するしかない。精霊の加護を得た、わが完熟ヤサイに勝てる道理などないのだ!

 

「売りまぁす!」

「そうか。支払いは銀貨でいいか?」


 買取金額は銀貨十枚。金貨ならちょうど一枚になる。

 まあ、銀貨の方が使い勝手はいい。


「銀貨で」

「よし。――オイ! このあんちゃんにギジュウだ」


 ギジュウ?

 買取人のオッサンがそう言うと、ちょい若めのゴリラ似の男がやってきた。

 手には銀貨。

 あ、なるほど。銀貨十枚だからギジュウね。


「あんちゃん、また来るかい? 来るんならオレんとこに来いよ。この品質でコンスタントに出荷できるなら専属買取人になるぜ。買い取り額もアップする」


 若ゴリラから銀貨を受け取りつつ、オッサンの話に耳を傾ける。

 なるほど。専属買取人か。

 オッサンやるやないけ。俺の作物のよさを見抜いて、さっそく囲いにきたか。


 まあ、俺としてもありがたい。

 ゆくゆくは販売を誰かに任せたいのだ。固定化したルートは早めに確保しておくにかぎる。


 それに俺にとっては値段以上に口が堅いのが望ましい。

 だから、たくさんの買取人の中で、一番口数が少なそうなこのオッサンを選んだのだ。

 職人気質なんだろう。銀貨を渡してくれた若ゴリラもまったく無駄口をきいてない。


「わかった。これからもアンタに買取りを頼もう」

「よしきた。俺はトレンドだ。で、こっちの若いのがヘンリーだ」


 ヘンリー? なんかイメージと違うな。

 オッサンがトレンドなのはいいとして、このゴリラ似はゴリンゴとかがふさわしいと思うんだが。


「市場が開いてるときは、必ずどちらかはいるようにはしてる」

「わかった。俺はサモナイト。出荷のときは声をかけるようにしよう」


 ふたりと握手をかわすと、その場をあとにした。



※ 金貨1=銀貨10

  銀貨1=銅貨100


  専属買取人――俺だけの買取人ってワケではない。買取人はいろんな人から品物を買う。

 こちらは基本あなたにしか売らないので、便宜をはかってくださいってだけ。

 ただ、相談に乗ってもらえるし、耳寄りな情報をもらえたりする。一方で、競争が働かず、相手によっては損をするかもしれない。一長一短がある。



――――――



 次にやってきたのは冒険者ギルド。

 もちろん、冒険者としてではなく商人としてだ。行商には護衛がつきもの。冒険者を護衛として雇い、アゴで使ってやるのだ。


 冒険者を雇うにはふたつ方法がある。

 商人ギルドを通すか、直接冒険者ギルドに依頼するかだ。


 商人ギルドを通すなら話は簡単だ。仕事内容、報酬を提示すれば、ギルドでてきとうに見繕みつくろってくれる。

 商人ギルドおかかえの冒険者をよこすか、そのまま冒険者ギルドに丸投げするかってところだろう。

 正直言って、商人ギルドを通したほうがいいにきまっている。

 商人ギルドが依頼主なら、冒険者ギルドも人員の選別に慎重になるはずだから。


 しかし、俺は直接冒険者ギルドに依頼する方を選んだ。

 なぜなら自分の目で見たかったから。はっきりいって冒険者の戦闘能力などどうでもいいのだ。

 俺には精霊がいる。空飛ぶ船がある。運ぶだけなら護衛などいらないのだ。

 やりたいのは人材確保。俺なしでも勝手に荷を運び、売り買いしてくれる人物を見つけたい。

 ものになりそうなら、ヘッドハンティングだ。

 それには商人ギルドのヒモ付きでは困るのだ。


 さっそく突入。

 入るのは表玄関。依頼を申し込む窓口があるほうだ。

 ちなみに裏口は冒険者専用。酒場が併設へいせつされており、のんだくれどもが、だされた依頼をうばいあう戦場コエダメだ。


 なかは簡素かんそなつくりになっていた。

 中央に長イスとテーブルがいくつかあり、奥にはたくさんの窓口がある。

 また、窓口には看板がかかげられ、そこには『緊急窓口』『通常窓口』『専属窓口』と書かれている。


 ん~、どれだ?

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