第32話 街へいく

 本日の作業はカマドづくり。

 今まで焚き木で調理していたが、薪の消費がバカにならない。ちょっとでも節約しようと、効率をも求めることとしたのだ。


 まずは石を円筒形に積み上げていく。

 上部はナベが乗る大きさの穴を残し、横も薪をくべる穴を開けておく。

 つぎに隙間をうめる。積み上げた石に粘土質の土をベタベタとぬっていくと、なんとなくそれっぽいものができあがった。

 あとは焼き入れ。

 薪をくべ火をたき、土を乾燥させ固めていくのだ。

 よし、こんなもんか。


 火はそのままにしておき、街へとくりだすことにした。

 買い出しだ。

 かまどが出来ると、次にしたくなるのがパンづくり。

 本格的な窯をつくるのは、おいおいするとして、材料となる小麦は手にいれておきたいところ。

 あとは街の様子を見ておきたい。

 ピクシーひとりを派遣することも考えたんだけど、心配だからヤメた。

 彼女が信用できないってワケじゃない。セバスチャンがいるからだ。

 なにせあの執事、精霊が見えるようなのだ。


 じゃ、いくか。

 ドライアドをふところに入れ、ピクシーを肩に乗せる。

 出発進行!

 といっても扉を開くだけだが。

 シンボルツリー横の扉を開いた先にあるのは、また扉。さらに開くと、うっそうと茂った森にでた。

 もとの世界だ。


 ふふ、すべてはここから始まったんだよな。

 ここで扉を見つけてから世界が変わった。

 そんな感慨にふけっていると、何度も通った森もいつもと違って見えてくる。


「どうしたの? マスター」


 ピクシールディーが問いかけてくる。

 

「いや、なんでもない」


 ふうと息をつくと街へと向かった。




――――――




 街は閑散かんさんとしていた。

 通りを行きかう人の姿はまばらで、どこか早足はやあしに見えた。

 普段なら開け放たれている商店の扉も、かたく閉じられている。


「これは……」


 どうもただ事ではない。

 すこしためらいながらもメンドリ亭へと足を向けた。



「なにがあった……」


 着いてみて驚いた。メンドリ亭の戸という戸は木の板でふさがれ、中に入ることはできない。

 周囲に散乱しているのは割れたガラスやビンだ。

 また、地面に残る黒ずみは血だろうか? 大きなものや小さなものが、まばらにシミをつくっている。

 さらに気になるのは、壁についた赤黒い手形だ。どうもここで大規模な戦闘があったようだ。


 たぶん戦ったのはコサックさんたちだ。

 そして負けた。外側から打ちつけられた木の板が、それを物語っている。


 しかし、なぜ。

 俺の予想が正しいならば、コサックさんたちは盗賊ギルドの一員だ。それも過激派組織の銀のバラ。

 そんじょそこらの相手に負けるハズがないのだ。


「やあ、ずいぶん待ったよエム君」


 不意に誰かに話しかけられる。

 この声は――

 建物の後ろから姿を見せたのは、シルクハットをかぶった細身の男。

 高そうなステッキを持ち、伸びた口ひげの先端はクルリと丸まっている。

 男爵だ。リール・ド・コモン男爵。


 なんで男爵がここに。


 ガシャガシャガシャと金属のすれる音が響く。

 男爵の後ろから、そして俺の後方の建物からと、いくにんもヨロイで身を固めた者たちが現れた。

 半分は衛兵。もう半分は冒険者だ。


 そうか、男爵は冒険者ギルドを動かしたのか。


 盗賊ギルド対衛兵。そこに冒険者ギルドが加わる。

 これでは盗賊ギルドいえども歯がたたない。


 もちろん、盗賊ギルドの後ろ盾も貴族だろう。

 だが、その性質上、名乗り出てくることはない。

 

「エム君。ちょっと話を聞きたいんだがいいかね?」


 男爵がそう言った。


「話し合いにしてはずいぶんと人の数が多いようですね」

「なに、わたしはハデ好きでね。人が多いほうが会話も弾むというものだよ」


 よく言うよ。

 はいそうですかと捕まろうものなら、二度と解放されないだろう。

 なんで俺なんかに貴族が動くかはわからないが、ここまでしたんだ。

 勘違いや、ただ話を聞くだけで、すむハズがないのだ。


「なぜ、一介の冒険者でしかない私にここまで?」


 問いかけながら逃げ道を探る。

 この人数に太刀打たちうちできるハズもない。

 撤退だ撤退。逃げてしまえば、あとはどうにでもなる。


「ふふ、まったく。盗賊というのは、とぼけるのがうまい」


 はあ? 盗賊?

 俺が?


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