第31話 流通かくめい

 持って帰った苗木は、敷地のど真ん中に植えることにした。

 シンボルツリーだ。いまはまだ小さくとも、いずれ大きく育つと信じて。


 もちろん、それだけじゃない。日時計としての役割も担ってもらう。

 木を中心として、北が俺の家、西が畑と果樹園、南が庭とビクシーのすみかとなっている。

 できた影が俺の家をしめせば夜明け、畑を経由して庭へと向かえば日の入りとなり、また家へと戻ってくれば新たな一日の始まりだ。


 よくあさ目覚めると、苗木に水をやる。


「おはよう。いごこちはどうだい?」


 話かけるも、もちろん返事などない。だが、たしかにドライアドの息づかいを感じた。


 さてと。今日は作った扉の設置と検証をやりたいと思う。

 目の前にあるのは二枚の扉。黒と茶のしま模様が、じつに美しい。


 そのうちの一枚を、うんとこしょうんとこしょと、空に浮く船にのせた。

 クッソ重い。こくたんは丈夫で見た目がよいが、とにかく重いのだ。最終的に土魔法で地面をはねさせ、風魔法で押し込むといった強引な手口でのせた。

 魔法って便利。


 さて、いよいよ運搬。

 空をスイ~、スイ~、と進み俺のいた世界へとつながる扉の前へ。

 

「そりゃ」


 船を傾けてケリ落とすと、のせていた扉はズンと音をたててキレイにそそりたった。

 かんぺき!


 扉に近づきナイフで文字を掘る。

 『シンボルツリー』と。

 そして念じる。

 すると扉は輝きだし、黒と茶のこくたん色から光沢のある銀色へと変化した。


「おおー」


 さっそく扉をくぐる。

 地面にかわいらしい苗木がちょこんとはえている。目をこらすと、ちいさなドライアドの姿も確認できた。


「うえ~い! せいこう!!」


 これで色んなところへ商品を運搬できる。

 腐りやすいものだってへっちゃらだ。

 流通じゃ、流通かくめいじゃ~。


 扉はふたつでひと組。

 おなじ文字が書かれたもの同士がつながる。

 だから、向こうにある扉に『シンボルツリー』、苗木のそばにある扉にも『シンボルツリー』とほってある。

 こんかいは仮り置きだ。設置ばしょが決まれば文字をつけ足せばいい。

 『シンボルツリー ←→ なんとか城の地下金庫』といったぐあいだ。


 いや~、金持ち街道まっしぐらだな。

 

 ちなみに銀の扉は押そうが引こうが魔法をつかおうが、一ミリたりとも動くことはなかった。

 移動? しるか! 断固拒否!! って感じだな。

 どうやら、銀色になった瞬間に空間に固定されるらしく、再び念じてこくたん色にもどせば動かせた。

 銀は頑固。覚えておこう。


 しかしこれ、もしかしたら空中とかにも設置できんのかね?

 今度試してみよう。


 あ、そうだ。こちらの世界の扉の設置場所だけど、シンボルツリーの周りに並べるのはどうだろうか? 文字通りここが世界の中心となる。

 それがドライアドにとってもいいかもしれない。同じ景色ばかりだと退屈だろうしな。

 扉を開けばさまざまな情景が見れる。ステキじゃないか。


 え? なになに。オマエについていくからどうでもいいって?

 そっか、そっか。それもいいかもな。


 ……あれ? なんだいまの?

 心の中に声が響いたような。


 ふと苗木をみると、小さなドライアドがこちらをジッと見つめていた。

 もしかして……


「力を貸してくれるのか?」


 そうだ、と返事がかえってくる。


「わかった。俺の力の限り、この木を守ると誓おう。わが名はエム。汝ドライアドとの契約完了を、ここに宣言する」


 苗木と俺の体が光ると、奥底から湧いてくる不思議な力を感じた。


 

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