第15話 商品名ジェイク
時刻は夕方。ぶたたびメンドリ亭にやってきた。
新商品の販売だ。今日は行ったり来たりと忙しい。
だが朝と違い、今度は扉を開かない。
「ねえ、ねえ、ここで待ってたら会えるの? すてきなおじさまに」
そう、今回俺が取り扱うのは人間だ。商品名ジェイク。本人の知らぬところで勝手に売りにだしてやるのだ。もちろん顧客は横にいるシルフだ。
「たぶん会えるよ」
とびっきりの笑顔でシルフにそう伝えると、ジェイクが来るのを待つ。
俺の勘ではジェイクは来る。なぜかわからないが、確信してるといっていい。
それも来るなら
――きた!
ポケットに手をつっこみ、肩で風をきって歩いてくる男がいる。
ジェイクだ。あいかわらず奥ゆかしさのカケラもない歩き方だ。
自分とはまったくカテゴリーのちがう人間だと再確認できる。
「あれだよ。どう? 気に入った?」
となりにいるシルフに問いかける。が、返事を聞くまでもないようだ。すでに目がハートマークになっていたからだ。
「ステキ! ほんとにあれ、もらっていいの?」
「もちろんだとも。アイツは尽くしてくれる女が好きらしい。猛アタックするといい」
そう言って親指を立てると、シルフを送り出す。ついでに「多少強引でも大丈夫だぞ」と付け加えておいた。
「うん!」
シルフは疾風のごとく駆けると、あれよという間にジェイクにまとわりついた。
するとジェイクは一瞬たちどまり、ん? といった表情をみせたが、なにごともなかったかのようにすぐに歩き始めた。
それもそのはず、ジェイクにはシルフの姿が見えていないのだ。
精霊召喚士の俺でも、集中していないとみえないのだ。戦士のジェイクにみえるハズもない。
「ねえ、ねえ、わたしフウリンっていうの。よろしくね」
ジェイクの顔をベタベタとさわるシルフはそう言った。もちろん声は聞こえていない。つむじ風がおこす風切り音としか思っていないだろう。
しかし、まとわりつく風は本物だ。なんかヘンだなーとジェイクは顔をさすっている。
やべー、もうすでに面白い。
だが、まだだ。まだだよジェイクくん、きみの苦難はこれからなのだよ!
「んー、もう!」
シルフがちらりとこちらを見た。ジェイクの反応がお気に召さないらしい。
あたりまえやん。見えてないんだもの。
が、そんなものはささいなことだ。愛は障害があるほど燃え上がるものなのだ!
俺は首を横にふる。そんなものではダメだと。
パッションがたりない。パッションが!
生ぬるい。もっと行けとジェスチャーでシルフに合図する。
まあ、情熱なんてあったところでどうにもならないんだけどな。見えてないんだから。
でもそんなの俺の知ったこっちゃない。シルフとジェイクの問題だ。ふたりで勝手に乗り越えればよかろうなのだ!
おっと、ここでシルフが勝負をかけた。
ふんすと鼻息を荒くすると、ジェイクの唇をうばったのだ。
おお~、すごい。両手で頭をわしづかみ。スッポンのようにくらいついて離さない。
ブッチュ~という音がここまで聞こえてきそうだ。
……しかし、ちょっとうらやましいな。
見た目は幼いとはいえ、かなりの美少女。あんな猛烈にアプローチされれば悪い気はしない。
「ん?」
なにやらジェイクの様子がおかしい。
みるみるうちに顔が真っ赤になり、じたばたと両手で顔をかきむしりだしたのだ。
なにやってんだ、アイツ?
やがてジェイクは膝をつくと、声もださずに口をパクパク動かしだした。
なんだ、アレ? みずあげされた魚みてーだ。超オモシロイ。
ん? さかな? さかな……。
――あ、そうか。息ができないのか。
やっとのことで、解放されるジェイク。
けっこうギリギリだったみたいだ。ゼハー、ゼハーと大きく息を吸っている。
そんな彼をよこで見るシルフは
ぶははは。面白い、おもしろいよ君たち。
ジェイクのヤロウざまーみろだ。
やがてジェイクは肩で息をしながら斧をかまえた。それから「誰だ!」とわめきながらあたりをキョロキョロ見回している。
フハハ、「誰だ」て。目の前におるやん。
魔法つかいのしわざとでも思っているのか?
ざんねん、精霊でした。
もちろん犯人なんか見つかるハズもない。
首をかしげるジェイクはメンドリ亭の扉へと向かった。
中に入ろうというのだろう。
スゲーなアイツ。この状況で行こうとするかね?
まあいい。それならステージ2だ。
コサックさんには根回し済みだ。おもしろいもんが見られるぞ。
なんか俺、スゲーワクワクしてきた!
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