第9話 エム、家をたてる

 地霊の力も得たし、そろそろ家をたてようと思う。

 ぽかぽか陽気の農場だけども、宿なし家なし野宿生活はやっぱツラいのだ。

 明るいとあんま寝れねーし。


 というわけで畑の近くを整地する。

 場所はテキトー。なんとなく畑のひろがりを予想して真ん中あたりになるように、とだけ。

 場所がきまると、さっさと行動する。まずは地霊の力をかりて5センチほど地面を掘りおこした。

 そこへ畑からでてきた石を敷きつめる。これで水はけバッチリ……なはず。

 でもって土をうすく戻してギュギュギュっと固める。ここまで全部オート。俺は念じるだけ、なんとすばらしい。


 つぎにいちおう水平を測ってみる。

 ナベの内側に炭でしるしをつけるのだ。ぐるっと円を描くように。そこに水をためて地面におく。これで傾きがわかる。オレ頭いい。

 ナベを持って、えっちらほっちら。

 数か所の水平を確認してしていく。

 こっちがちょっと低いな。いや、そうすると今度はこっちが低くなる。などと、何度も微調整して完全に平らになったら、壁の建設へとりかかる。

 壁材は土だ。果樹園けんせつ予定地をザクっと深ぼり、粘土質の地層をみつけると、土塊をバイーンと採取する。

 そう、まさにバイーンだ。きょだいな茶色のかたまりがバイーン、バイーンと建設予定地まで飛んでいくのだ。さすが地霊の力。


 つぎは人力。鍋でうんしょ、うんしょと何度も水を運んで粘土にぶっかける。

 メンドクサイ。水の精霊がいればなあ。

 それからコーネコネ。練って練ってねりまくるとネチョネチョした粘土壁材の完成だー。


 ふたたび念じる。すると粘土はモコモコと盛り上がり、空洞のドーム型住居に早変わり。

 早い、はやすぎる。

 あとは素焼き。内側で火を焚いて乾燥、硬化させるのだ。

 これでちょっと小さいけど立派な我が家のできあがり。

 う~んすばらしい。


 おなじ要領でもう一個建設した。こちらは食料の貯蔵庫だ。

 ノームさんにはここへ収穫した作物を運んでもらう。じぶんの食糧庫でもあるのだ。きっちり管理してくれるだろう。



 さて、家ができたとなると家具が欲しくなる。とくに欲しいのはベッドだ。

 床は固くて寝心地が悪い。背中が痛いのはイヤなのだ。


 さっそく材料調達に出発……といきたいがその前に入手した作物を植えつけなければならない。

 すでに畑の準備は万端だ。家の建設と並行して作っていたためあっというまに植えつけが終わる。整地でつかう石が足りなかったんだよねー。ナイス一石二鳥。

 これでノームに渡す食料はじゅうぶん確保できるだろう。もちろん売りにだす分も。

 というか、あのジャガイモの勢いだと採れすぎるんじゃないか?

 運搬がたいへんだぞ。こっちもさっさと手を打たないとなー。


 では改めて出発。

 斧をかついで散策する。

 手にいれるべきはカゴを編むためのツタ、つぎに樹皮だ。入れ物に敷き物となんやかんやと樹皮は役に立つのだ。

 そして、いちばん欲しいのが家具として使える木だ。できれば軽くて加工しやすいやつ。

 地面をバイーン、バイーンとバウンドさせれば重くとも運べなくはないが、加工は人力だ。

 軽いにこしたことはない。

 あとは焚き付けにつかう木だが……まあそれは近場でいいか。

 いずれ本格的な家もほしい。建築材かくほのついでに薪にしよう。なんなら木炭作りに挑戦してもいい。

 いや~、夢がひろがリング。

 ほんといい場所を見つけたもんだ。


 そうこうしているうちに、面白い木を発見した。

 軽そうな木材を求めてコツン、コツンと木を叩いていたときのこと、ポクンポクンといかにも軽薄そうな音で返事してくれるものがあったのだ。

 この木、周囲のものとは明らかに違っていて、幹の色は真っ白。枝も少なく、すらりと空へ伸びている。これはなかなか面白そうだ。期待の一本だ。


 さっそく斧をふるう。

 カポコーン。カポコーン。打撃音も軽い。

 もしや空洞になっている? そんな思いも頭によぎったが、そんなことはなく中身はギッシリと詰まっていた。

 木が柔らかいのか?


 カポコーン。カポコーン。

 そうでもない。音とはうらはらになかなか斧ははいっていかない。粘りと強度にすぐれた木なのだろう。

 そろそろいいか。おおきな切り口ができたところで反対側から斧をふるう。

 これで安全に切り倒せる。木は切り口のある方向に倒れるだろう。

 どんな軽い木であろうと倒木に挟まれてはタダではすまない。最後の瞬間まで気を緩めてはいけない。


 カポコーン。カポコーン。

 もうすこし。両側からえぐられた木は、いまにも倒れそうだ。


 カポコーン。カポコーン。

 メリッ、メリメリメリ。ついにきた、このときが。

 木はおおきな音をたてるとともに、地面へ倒れ――なかった。なぜか上空・・へと舞い上がっていったのだ。


「は?」


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