第5話 えっ、俺が!?

 ぶじ水やりも終わり、一服することにした。

 枯れ葉をあつめ、魔法で火をつける。そこへ枯れ木をくべていく。

 火はあっというまに、焚き火へと成長した。

 楽だ。

 魔法とはなんと素敵なものなのだろう。

 たとえロウソクほどの火だとしても、あるのとないのでは違いすぎる。

 もう火打石ひうちいしをつかわなくていいんだ。地味に感動。


 小川から鍋に水をくむと火にかける。近くにあったパムの木の葉っぱを浮かべる。

 う~ん、いい匂いだ。パムの葉っぱには疲れをとって、気持ちを落ち着けてくれる作用があるんだ。


 ズズズ、ズビ~。

 あつあつのパム茶をすする。

 うるおいが体のすみずみにまで浸透する。

 フワッと一陣の風がふいた。

 火照った体にここちいい。


 なんか、しあわせだな……

 木に背中をあずけて座っていると、まぶたが徐々に落ちていくのを感じた。




――――――

 


 霧。霧だ。

 なにもない空間に濃い霧がかかっている。

 ――あ、コレ夢だ。

 夢の中なのに不思議と夢だと理解できた。


「……」


 遠くで人らしき声がする。

 なんだろう? とても小さな声で、聞き取りづらい。

 耳をすましてみる。


「……やっと……」


 それは意識を傾けると、次第に鮮明になってきた。

 しわがれた老人のような声で、なにかを訴えているようだった。


「……エム。エムよ」

「誰だ。俺の名を呼ぶのは」


 何者であろうか? 姿はまるで見えないが、たしかに俺の名を呼んでいる。


「ワシは管理者じゃ」

「管理者? ここの?」


「そうじゃ、だからこうして夢をつかっておぬしに語りかけておる」

「管理者……もしかして勝手につかったから怒ってる?」


「いいや、怒っとらん。それどころか、おぬしのような者を待っておった」

「待ってた? じゃあ、土地を使ったり住んでもいいの?」


「もちろんじゃ。じゃが、おぬしにはすべきことがある」

「すべきこと?」


「おぬしはこれから世界を救わねばならん。英雄として」

「英雄! 世界を? 俺が!?」


「そうじゃ、それにはいくたの試練が待ち受けているであろう。しかし――」

「あ、そういうの間に合ってますんで」


「え?」

「じゃあ」


「ちょ、オマ――」


 老人の声は急速に薄れていった。


 知らんがな。世界とか。

 植えたジャガイモの方が何倍も気になるわ。



――――――



 スッキリとした目覚めだった。

 肩に乗せた重しが取れたかのよう。

 やはりパムの葉の癒し効果が効いたのだろう。

 立ち上がり、大きく背伸びすると、つくりたての畑をみた。


「ごっつ芽が伸びとる!!」


 超おどろいた。

 もはや芽なんてものではなく、枝は伸び葉っぱは茂り、われジャガイモここに在りけりといったたたずまいだった。


 スゲーぞこれ。

 ワクワクが止まらない。

 収穫にはまだ早いが、この分だとその時はすぐにおとずれるだろう。


 待つあいだにもすることがある。

 まずは水まき。せっせこと小川と畑を往復する。

 つぎに植えてない木にひっかけたジャガイモの確認だ。

 よし! 予想通り。芽もでてなければ、根ものびてない。

 

 あとは……おっと、忘れるところだった。太陽の動きの記録をしとかないと。

 畑からすこし離れたところに突き刺した棒、その棒がつくりだす影を確かめる。


「一周したな」


 じつは畑の作業中もちょくちょく記録していた。

 影がどう動いていくかを地面にえがく。右にずれれば右に、上にずれれば上にと、影の先端がある場所にしるしをつけるのだ。

 これで太陽の動きがわかる。

 で、結果は円。影はなが~く伸びることなく円を描いてかえってきたわけだ。


 てことはだ……ここには夜がないってことだな。

 

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