第4話 革命家エム

 扉をくぐり、ふたたび小さな世界へと帰ってきた。

 手には麻袋。中にはジャガイモが30個入っている。


 革命だ。俺は農業界に革命をおこす。

 俺の考えではこうだ。

 この小さな世界は元の世界と時間の流れはかわらない。

 ただ、作物が驚異的なスピードで育つんだ。

 理由は精霊だ。大地の精霊が生長をそくしんしている。

 精霊召喚士の俺にはわかる。この世界は精霊でみちあふれている。

 その巨大すぎる大地の精霊力がジャガイモを短時間で芽吹かせたのだ。


 俺はこれからジャガイモを植える。

 ジャガイモは収穫まで60日ぐらい……だったハズ。

 この世界では一時間で四日分の生長速度なんだから――えっと、えっと……

 まあいい、植えてみたら分かんだろ!


 テクテクと歩き、よさげな場所へ。

 木があまり生えておらず、砂利がすくないところ。そして、川の近くを選んだ。

 そうなんだ。この世界、小さいくせに山もあれば川もある。草原は言わずものがな森だってある。

 今回は鍋も持ってきた。煮沸すれば水だって飲み放題なのだ。


 ここでいいかと荷物をおろす。

 麻袋は近くの木にひっかけた。地面において芽が出てもこまるからだ。

 使うジャガイモは15個。残りの半分は木にひっかけたままにしておくつもりだ。

 これで俺の考えが正しいかどうか分かるだろう。


 あごを手で触る。ショリショリと剃りたての感触がかえってくる。

 いいぞ、伸びてない。時間の経過はいつもどおりだ。

 というか、そもそも四日も水飲んでなければ倒れてる。ビックリしすぎてその程度も頭がまわらんかった。


 いよいよ、植え付けへととりかかる。

 ほんとうならば雑草を抜き、土をほりかえし、石をとりのぞく。それからうねを作ってやっとスタートだ。

 だが、俺は精霊召喚士。そんなもんは精霊の力でズバっとやっておしまいだ。


 大地に手をかざす。

『地霊ノームよその力を我に!!』


 こころの中で呪文をとなえると、地面は少しだけウネる。が、それきり何もおこらなかった。


「あれ?」


 おかしい。もっとぶわ~っと大地が脈動するはずだ。

 ここは精霊力でみちあふれている。こんなショボイ動きではないはずだ。


 ふたたび試みる。しかし、結果は同じ。貧乏ゆすりに少し毛がはえた程度にしか、地面はウネらない。

 おかしいな。なんでだ?

 火はたしかについたしなー。

 よし、今度は火の精霊でためしてみるか。


「いでよ、サラマンデル!!」


 次はちゃんと口に出して言った。火の精霊サラマンダーだ。なんかカッコイイのでサラマンデルと呼んでいる。

 俺の契約した中では一番位が高い精霊だ。


 手のひらに炎が灯る。それはロウソクほどのか細い炎で、風に押されてゆらゆら揺れると、あっさりと消えてしまった。


「あれぇ~。最初んときより小さいじゃん」 


 あまりに不可解な現象に首をかしげる。

 おかしいな。苦労して、くろうして、契約したお気に入りの精霊だったのに。


 う~ん……契約……契約……。

 あっ! もしかして契約切れてんの?




 なんたることだ。

 精霊が世界から去ってしまったあの日、俺が契約していた幾多いくたの精霊たちとのつながりも切れてしまったのだ。

 契約書は白紙。金品や魔石、はてはおのれの血肉まで捧げ、苦労して結んだのがぜんぶパア。

 あまりの出来事に膝から崩れ落ちそうになる。


 クゥ~。

 ――だが、俺は負けん。負けてなるものか!!


 グッと歯を食いしばると、ガクガク震える膝にコブシを落とす。

 そうだ、契約が切れたのならまた結べばいい。幸いここには精霊がみちあふれている。

 いままでより強力な精霊すらシモベにできる可能性だってあるのだ。


 それにはまず金だ。

 精霊によって求めるものはまちまちだ。だが、金さえあれば融通がきく。街で交換すればたいていのものは手に入るからだ。

 だから、なにがなんでもこのジャガイモ栽培を成功させなければならない。

 これで元手を稼ぎ、より利益率の高いものに切り替えてゆくのだ!


 腰を落とすと、生えた雑草を抜く。

 抜く、抜く、抜く。みどりの草原に茶色の区画ができあがった。

 近くにあった枝で地面をほりかえす。耕すのだ。

 石がゴロゴロと出てきた。スッゲェーメンドクサイ。でも頑張る。

 ほじほじ、ポイッ。ほじほじ、ポイッ。

 するとやがて、小さいながらもウネのある畑らしきものが完成した。

 

 よーし、いよいよ植え付けだ。

 ジャガイモを四等分し、切り口に灰をつけ……

 灰がなかった。

 どうしよう。たしか灰をつけないと腐りやすくなるはずだ。しまった、さきに火をおこしとくべきだった。

 後悔さきにたたず。まあ、しかたがない。

 今回はまるごと植える。理論が構築されるまではいらんことをしないにかぎる。

 失敗の原因が特定しづらくなるからだ。

 

 ほじほじ、埋め埋め。ほじほじ、うめうめ。

 十五個のジャガイモを植え付けた。あとは鍋をつかって水やりだ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る