彼女

やっぱりピンク

彼女

彼女の手はひんやりしている。皮膚に水分を多く含んでいるからかもしれないが、心地よく冷たいのだ。専門学校への進学を決め、バイトに頑張って通っている美緒は、どうやら厳しいらしい店長の愚痴を僕の相槌を待ちながら言った後、寝てしまった。もう少し声を聞かせてほしかったなぁ、と寂しく思った。夜に電話が来て呼び出されると、いつものようにお母さんが、いらっしゃい、と言って迎えてくれた。そのまま寝転んでいた美緒に誘われてベッドに入った。寝返りのせいで背中を向けられたが、毛布に包まれた体はとてもぬくもりがあった。手と体がリンクしないのも、なんとなく美緒っぽいと感じて、手を少し強く握ると、同じ力で返事が返ってきたような気がした。自分はというと、2月の末に試験を控えているのに、大した努力もせずにダラダラしている。毎日不器用ながらに立派に生きている美緒の側にいると、愛らしさを感じつつも、自分がどれだけ弱い人間かということに目を向けてしまうのだ。しかし、美緒は小さい頭でこの悩み事を見抜いたのか、「律くんって優しいね。手が冷たかったら、あったかくなるまで握っててくれるんだから。実は強い系のおとこなのかもねー。」と言ってきたことがある。こんな自分との時間に、自然に幸せを見つけてくれる美緒に、何かを与えられなくても、何も奪わないような彼氏でいようと最近思うようになった。いつもは美緒にからかわれるからしないが、変なキャラクターがプリントされた細い背中に鼻をつけて抱きしめてみた。シャンプーの良い匂いがしたし、腕もサラサラしていた。できることならこのままがいいなと思ったけど、起きた時に冷静でいるために離れようとしたら、美緒に捕まった。

「へんたい」

少し声がかすれていた。僕を変態扱いしたくせに、美緒はさらに腕を体に引き寄せた。

「やっぱり律くんは優しいね」

美緒の手はあったかかった。

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