週に一度の真夜中の祭典

風見☆渚

i-1 グランプリ開催

週に一度だけ、日曜の真夜中に行われる祭典。

華やかに、そして賑やかに大盛り上がりのお祭り騒ぎが週に一度行われている。

しかし、それだけの大きな祭典にも関わらず、誰一人として行われている事すら知る人はいない。そもそも、人間はその大会に絶対に参加出来ないのだ。

何故なら、その大会は虫だけが参加出来る祭典なのだから。


パッポーっパッポーっ


――バタンっ


大きなソファーが置ける程度には少し広めなリビングに飾られている昔ながらの鳩時計が、静けさを妨げるように深夜の2時を知らせた。

外は真っ暗な深夜。

リビングには灯りがなく、月明かりが微かに窓から差し込む程度の明るさと暗さで満たされている。

草木も眠る丑三つ時。


そう、時は満ちた・・・


『さぁ!

おぅ前らぁ!今宵もパァーリィーのはぁ~じまりだぁ!!!!!』

「「「ひゃっはー!!」」」


威勢の良いかけ声を皮切りに、人には聞こえない虫同士のドンチャン騒ぎが始まった。

虫かごに閉じ込められている昆虫だけでなく、寝息を立てる猫の背中から飛び放って来る害虫やらソファーの隅に潜む謎の生物などなど。

リビング中のありとあらゆる場所から虫達が集まり、今宵の祭典も大盛り上がり。

ある者はお互いを讃え合い、ある者は豪華な食事に舌鼓。そしてある者は、求愛アピールで民衆から喝采を受けている。


想像しないで頂こう。

これだけの虫という虫がリビングを席巻していたら・・・

気分が悪くなること必須だろう。


そんな人間目線は置いといて、祭典は大盛り上がり。

そして、盛り上がりゲージを更に高めるビックイベントが催されようとしていた。

祭典1番の目玉イベントであり、月に1度しか行われない最も人気のイベント。

それが


『さぁ!おぅ前らぁ!

今日がなんの日かわかってるかぁ!!!!!』

「「「 i-1グランプリ!!! 」」」

『月に一度のぉ!』

「「「 i-1グランプリ!!! 」」」

『準備は良いようだなぁ!

じゃぁ、今宵のi-1グランプリ・・・

か・い・さ・い だぁぁーーーーーー!!!』

「「「 うぅおぉ=====!!!!! 」」」


虫達の熱気が会場中に轟き、その注目を浴びる選手達が次々に入場し、そして大きな歓声と拍手に包まれた。


―――


「さぁ皆様、お待たせ致しました。今宵のi-1グランプリ、開催致します。

実況は私、いつかTVやコラボで大人気の某有名な彼の様になりたいと夢見るハムスター“ゲンゴロウ”と、解説はカメムシの“うさぴょん”さんでお送りいたします。

お馴染みこのi-1グランプリはリビングを1周し、且つ各所に仕込まれたトラップを回避しながらゴールを目指すシンプルなレース。

なんと言っても、毎回飛び入り参加のジャマー達による妨害行為をどう回避するのかがこのレースの一番の盛り上がりポイントとなっています。

解説のうさぴょんさん、今回のレースどうなると思われますか?」

「・・・は~・・・い~・・・こ~・・・ん~・・・か~・・・い~・・・の~・・・」

「では、本日の走者が出そろったようです。

第①コースから順番にご紹介致します。

第①コース、ダニのダニエルさん

私としては、小さなゲージの中でいつも話し相手になってくれているダニエルさんには是非頑張ってもらいたいです。

第②コース、蚊のブン太さん

第③コース、ハエのすねかじりさん

第④コース、カメムシのミドリマックイーンさん

ミドリマックイーンさんはうさぴょんさんのご親族との事ですが?」

「・・・み~・・・ん~・・・な~・・・が~・・・」

続きまして、

第⑤コース、幽霊の神田さん

神田さんは幽霊ですが、何故か虫唾が走る存在という理由で今回参加を認められたようです。姿形も自由に変えられるとの事ですが、そのままの本体を虫並の大きさにしての参加となります。

第⑥コース、クワガタのガタックさん

虫かごから脱獄しての参戦です。

第⑦コース、この種族は毎回ぶっちぎりのゴールを飾る大本命。その中でも今回は若者ながら歴代最高レコードをたたき出したゴキブリ界のニュースター、茶プリンさんです。

以上、選手達がスタートラインに到着しました。

そろそろ、レースが始まるようです。」


バサっバサっバサっ!!


「スタートフラッグがふられました!!

走者一斉にスタート!!

スタートと同時、一番手に飛び出したのは、これは想定外。

なんとミドリマックイーンだ!

カメムシだけに動きがゆっくりかと思いきや、羽を広げてのスタートダッシュは誰よりも早かった!

先頭のマックイーンを追うように、ハエのすねかじり、クワガタのガタック、蚊のブン太、ダニのダニエルと続きます。一番最後尾で追いかけるのはコレも意外、ゴキブリの茶プリンです。どうやら、最後尾からレースの様子を覗っているようだ。コレも戦略か?!

レースはさっそく最初の難関に差し掛かります。

猫の頭越えです。

猫は敏感な動物で動くモノを常に追いかけます。もし羽音や振動で寝ている猫を起こしてしまったら大惨事どころか悲劇が目撃されてしまいます。

おっと、ここでブン太さんが先頭に出た。

ラストスパートを思わせる猛スピード。

これでは最後まで持たないのではないか?

ブン太が猫の頭上、耳の側を通り抜ける。

おっと!ここで猫のひげがピクピク動き、先頭争いをしていたマックイーンとすねかじりが猫のひげにぶつかった!

これはヤバい。猫の目が開いた!

標的は・・・マックイーンだ!

マックイーン、猫にロックオンされてしまいました。

さすが暗闇でも目が利く猫。輝く緑色のマックイーンが一番目立ってしまったか?!

そのままマックイーン、コースアウト!

猫と共にリビング場外へと消えていった!

ミドリマックイーンさん、ご冥福お祈り致します。

うさぴょんさん、マックイーンさんが早速の退場となってしまいましたが、いかがでしょう?」

「・・・そ~・・・れ~・・・が~・・・」

「レースはまだまだ続きます。

先頭にいたはずのブン太。やはり先ほどの猛走行で体力を使い果たしたか。

現在ガタックさんを先頭に順位の入れ替えが激しく行われています。

しかし、レースは序盤。目つきが怖い茶プリン。

どうやら、最後尾からじっくりとチャンスの機会を狙っているようだ。

次の障害は観葉植物からのカーテン登り!

本来虫である以上、大抵の場合羽で空を飛ぶことが出来ます。しかし、その高度は種族によって異なり、精々2m程度が限界。

観葉植物からのカーテン登りとなると、その高さを軽く超える高さとなります。

さぁ各選手、どんな手段で頂上まで辿り着くか!

先頭だったガタック。クワガタは垂直上昇には向いていない。

地道に昇一歩一歩昇っています!

他の羽虫達も体力を持っていかれたか!?

皆バテてながらも少しずつ飛び、頂上を目指しています!

おーっと!ここで、まさかのダニエルさんリード!

飛び跳ねるだけならダニの右に出る選手はいない。

その超跳躍力で一気に頂上を目指す!

うさぴょんさん、今回のレースも熱い展開が繰り広げられていますがいかがでしょう?」

「・・・が~・・・ん~・・・ば~・・・」

「さぁレースも終盤。

数々の障害を乗り越え、選手達はラストの直線へ近づいてきました。

各選手体力の限界なのか、若干スピードが落ちているようだ。

きたきたきたーーー!

レース大本命、茶プリン!

今まで温存していたのはこのためか!

一気に先頭に飛び出した!

誰も茶プリンに付いていくことが出来ない!

ラスト直線独走状態だ!」


にゃ~ーー!!!


「おっと!ここでまさかの猫お帰りなさいトラップ発動だ!

それと一緒に、なんとミドリマックイーンも帰ってきたーー!!

さぁ、ここでなんと!

レース最終、先頭を独走していたはずの茶プリンに猫がロックオン!

ゴキブリの動きはある意味猫の弱点!

茶プリン選手レースどころではなくなってしまった!

再び消えた猫と共に、茶プリンさん場外へ行ってしまった!

さぁ、各選手ゴールは目前!

ここで最後のデッドヒートは、まさかのマックイーンVS神田さんだーー!!

神田さん今までどこに行っていたのか。幽霊だけに存在が全く感じられなかった!

あと少し!もう少し!

2匹と言っていいのか。ミドリムシVS幽霊という勝負を誰が予想していたでしょうか!

さぁ、もうもうもうもうーーー!!

ゴーーーーーール!!!

しかし、両者同着のように見えました。

ここで、ビデオ判定入ります。

こちらが、リビングに置き忘れていたスマホで撮影したゴール直前の映像を写した動画です。それではゴール直前の映像をご覧下さい。

・・・!!

コレは規格外!想定外!ある意味予想通り!

こんな結末で良いのか!!!

幽霊の神田さん!

幽霊だからなのか、動画に全く写っていません!

もし写真だったら心霊写真で写っていたかも・・・ある?

あるそうです!

ではもう一度、写真判定で。

これは・・・若干神田さんがゴールに指先が届いている。

優勝は、かんd・・・?下?下を見ろ?

えー・・・んっ!!なんと!

目線が宙を舞う2匹に注目するあまり気が付きませんでした。

なんとさらに先を行くクワガタのガタックさんの先端がゴールラインを誰よりも先に入り込んでいます!

今回の優勝は、クワガタのガタックさん、ガタックさんが優勝です!!

おめでとうございまーーーす!!」


――――


「てな事があったらどうする?」

「いや、マジ勘弁。」

「俺も夢で良かったよ。ちなみに俺、夢の中じゃハエのすねかじりって呼ばれてた。」

「今も十分すねかじりだろ?」

「ちゃんとバイトして稼いでるよ。」

「虫の世界かぁ。興味なくはないかな。」

「そういえば、昨日リビングにスマホ置きっぱなしだった。

え?・・・まじ?」

「どうした?」

「いや、この写真・・・」

「なんだよ、そんな真っ青な顔して。」

「いや、ちょっとこれ・・・」

「え・・・コレ、やばくね?」

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週に一度の真夜中の祭典 風見☆渚 @kazami_nagisa

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