真夜中の派手な訓練

八五三(はちごさん)

狩人と智者。

『げぇ。ぁ、アルテミス』

『ごきげんよう。バステト』

『ご、ごきげんよう。アルテミス』

『バステトに、お礼を云っておかないと』

『お、れ、い』

『そう。例の件では、かみが大変お世話になったみたいで。ありがとう、バステト』

『世話になっとらん。それどころか、話をややこしくした張本人だ。礼など言う必要ない』

『あら、あら、あら。そんなこと云っちゃダメ、よ――真神。猫は三年のおんを三日で忘れるんだから。もう一度、云っておいてあげないと――――忘れちゃっているわ、よ。きっと』

『アルテミス。売っているのかしら、喧嘩をあたしに』

貴方あなたから買うこと、あったとしても。わたくしから売ること。は、なくてよ。バステト』


(管理職のルーチンワークが多忙なのは、慎重に判断を要する案件に対しての試案でもなく。隙きとう名の予期せぬイレギュラーに対しての解決思案でもなく。各機関の関係改善にあると私案している。バステトとアルテミスは、猫と犬という動物学的に別種のはずなのに。性格が同類であるため、会えば――同族嫌悪どうぞくけんおからこの陰湿な罵り合いを始めてしまう。最終的に被害に遭うのは――ワタシ……)




 二人の少女が真っ黒いライダースーツを纏っていました。

 

 一人の少女の真っ黒いライダースーツから、浮き上がっては消え、浮き上がっては消えるくだのなかには、青白い光の粒子が血液のように一定の間隔で流れていた。

 少女が着用している真っ黒いライダースーツは、生体強化スーツ――狩人ライラプス

 もう、

 一人の少女の真っ黒いライダースーツからも、浮き上がっては消え、浮き上がっては消える管があった。管に流れているのは、青白い光の粒子ではなく――黄金の光の粒子が、青白い光の粒子同様に一定の間隔で、流れていた血液のように。

 青白い光を放っている生体強化スーツ、ライラプスを着た少女。に、対峙している少女が着ているのは、生体強化スーツ――智者ヴァイシュラヴァナ




 もはや幾度いくど、目、に、なるのか定かでない。息を整えながら、果てしなく続く戦いの勝敗を決める運命の鍵を探し出す作業。

 互いの身体のわずかな重心移動や目線。から、つつしみ深く、相手の次の一手を読んでいく。

 ゆっくりと静かな足運びで、仕とめる絶妙の間合い。と、タイミングを見計らう。

 緊張で張り詰めた大気を切り裂いたのは――ライラプスを着た少女だった!

 青白い光の粒子が疾風の如き勢いで、黄金の光の粒子に詰め寄る。唸り声と共に人体のウィークポイントの一つであるあごに向かって、右拳を振り抜く。

 対して、ヴァイシュラヴァナを着た少女は、おくすることなく一歩前に踏み込みながらライラプスを着た少女に――自身の頭を相手の頭に叩き込んだ。

 頭突きを喰らった、ライラプスを着た少女は後ろに倒れていく。

 そのとき!

 ヴァイシュラヴァナを着た少女の死角から、青白い光の粒子が跳ね上がってきた。それは、ライラプスを着た少女――起死回生きしかいせいのサマーソルトキック。が、顎を襲う。

 ライラプスを着た少女と同じように、ヴァイシュラヴァナを着た少女も後方へと身体が倒れていくのだった。

 



『わたしとしては、飛躍的に性能が上がったのはいい。が、あの、光るのはなんとかならんのか? 目立って仕方ない。改善を要求する』

『わたくしは、いいと思います。あの、光るの! 最高にかっこいい、わ。変身ヒーローみたいで!!』

『アルテミス! 分かってるじゃない!!』


(上役をちょっと脅して。真夜中の樹海、利用許可させた収穫しゅうかくが――同族嫌悪イコール類は友を呼ぶ。ということだった…………。二度と呼ばん! からなコイツ!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中の派手な訓練 八五三(はちごさん) @futatsume358

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ