後編

『これが最近の状況です』


 通信魔法を使って、最近の様子を里長に報告した。

 ラミル王子に求愛されているということは伏せているが。


『そうか、では引き続き、情報収集に務めるのだ』


『承知しました』


 通信魔法を終えた瞬間、胸に痛みが走った。

 私は思わず壁にもたれかかる。

 

 私は里もラミル王子も裏切っている。

 良心の呵責で心が引き裂かれそうだ。

 

 いっそ、里を裏切って、このままラミル王子と幸せに暮らせたら。

 そんな思いが、一瞬、脳裏を過ぎる。


 しかし、それは叶わない願い。

 私の心臓には里長の魔法、死の契約魔法がかけられている。


 もし、私が裏切った場合、里長は躊躇なく私を殺すだろう。

 里の暗殺部隊がラミル王子の命を狙って襲撃する日は、そう遠くはない。

 

 その時、私は、自分の命とラミル王子の命、どちらを選択するのか迫られることになる。


 ◇


「ユラーナ、どうして!?」


 ラミル王子が駆けつけた時には、私の命の灯は残りわずかだった。

 ラミル王子を暗殺する計画が実行されたが、ラミル王子に変装をして私を襲わせるように暗殺部隊を誘導した。


「すみません、ラミル王子、実は私は敵国のスパイだったのです。今まで騙していて、すみませんでした」


「ユラーナがスパイだってことは分かっていた。それでも、僕は君のことを愛してしまったんだよ」


 まさか、スパイだと知られていた?

 それでも私は愛されていたの?


「ラミル王子、私もあなたを愛していました」


「それは嬉しいけど、今は喋らなくていい。今、魔法で傷を治しているから」


 ラミル王子が、必死に回復魔法を私にかけている。


「無駄です。もう回復魔法では回復できないほどの傷を負ってしまっています」


「いや、君は治る」


「え?」


 そういえば、何かがおかしい。

 もう、死を迎えるだけの時間は経っているはずなのに……


「ラミル王子!! まさかこの魔法は!?」


「そう、王族だけが使える蘇生魔法!!」


「いけません、蘇生魔法は自分の寿命を引き換えにする魔法!! 私なんかのために使わないでください!!」


「違う、ユラーナだから使いたいんだ!! 君なしの人生なんて考えられないし、そもそも君が繋いでくれた命だろ?」 


「ラミル王子……」


「それに手遅れだよ。君の傷はもう治ってしまった」


 王子はそう言いながら、私の胸の上に倒れ込んだ。


「ハハ、でも、ちょっと疲れたみたい。膝枕でもしてくれたら嬉しいな、なんて」


「本当に、ラミル王子はバカですね。膝枕くらい、この先、何回でもしますよ」


 死の淵から蘇ったことで、私に心臓にかけられていた死の契約魔法は解かれていた。


「ほんと? 言質(げんち)とったよ」


「はいはい、ラミル王子は王子なのに、時々、子供っぽいところありますよね」


「ハハ、子供っぽくなるのは、ユラーナの前だけだよ」


「ふふ、それもそうですね」


 そう言って、私達は笑った。


「これは、私からのお礼です」


「え?」


 私はそう言って、ラミル王子に口づけをした。


 ……でも、もう私のために無理はしないでくださいね……


 口づけを交わしながら、私は心の中でそう祈っていた。

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スパイとして王子の従者になったのに、王子に求愛され過ぎて困っています 夜炎 伯空 @YaenHaku

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