第50話 賈詡曰く「呂布の飛龍騎など簡単に全滅させることができる」
「子午道だと? 秦嶺山脈を横切る山道のことか? 」
李傕の問いに賈詡はうなずく。
「そうだ。子午道は、桟道が張魯によって切り落とされたことで、不通になっていたが、李儒が修理して通じるようにしておいたそうだ。今回の漢中攻略戦でも、呂布の軍勢が子午道から漢中を奇襲したと聞いている」
「子午道が通れるなら、董卓軍が引き返してくるとしたら、子午道を通ってくるんじゃねえのか? 」
郭汜の言葉に賈詡もうなずく。
「もとより、その可能性が高い。しかも、その道を最初に引き返してくるのは、おそらく、呂布が率いる『飛龍騎』だ」
『飛龍騎』の語が出たことで、李傕と郭汜の目に畏怖の色が浮かんだ。
「呂布の飛龍騎が来たら、俺たちの軍勢で太刀打ちできるのか? 」
「無理に決まっているだろ。呂布は何とかして、俺たちの味方に引きずり込まないとな」
しかし、賈詡は、二人の言葉を鼻で笑った。
「呂布の飛龍騎など恐れるに足りない」
と。李傕は訝る。
「賈詡よ。本気で言っているのか? 呂布一人でさえ、ヤバすぎるというのに、飛龍騎も一緒になって攻め込んで来たら、中途半端な軍勢では勝てんぞ」
「もとより、呂布の飛龍騎と戦うことも想定したうえで、我らは、事を起こしたのだ」
「どう戦うというんだい? あの呂布の飛龍騎と」
郭汜の問いかけに、賈詡は言葉を続ける。
「呂布が飛龍騎を率いて、子午道から長安に攻め込んできたのならば、それこそ、呂布と飛龍騎を殲滅する千載一遇のチャンスだ。子午道の狭い山道では、どのような軍勢であろうと一列にしか進めない。そこに大量の伏兵をひそめておき、奇襲する。そうすれば、呂布と飛龍騎がいくら精鋭であろうと、なすすべもなく壊滅する」
「なるほど、それなら、呂布の飛龍騎など恐れるに足りないわけか」
李傕の言葉に賈詡はうなずく。
「それゆえ、我が軍は、これより、総力を挙げて、子午道の長安側に出兵し伏兵となる。呂布と飛龍騎が来るのを待ち受けるのだ」
「ちょっと待て。全軍を子午道に送り込むというのか? 」
郭汜が目を丸くすると、賈詡は当然だとうなずく。
「呂布の飛龍騎だけでも総勢一万の軍勢になる。兵力を小出しにしては、これを殲滅することはできん。我らの総勢二万でも足りるかどうかというところだ」
「それじゃあ、せっかく制圧した長安ががら空きになるだろ。もしも、陽平関から進軍して来たら、どうするつもりだ」
郭汜がなおも食い下がると賈詡は言う。
「陽平関方面には物見の兵を置く。郭汜、あなたに信頼できる配下を出してもらおう。そちらから攻めてきたのであれば、すぐにわかるようにするのだ。そうすれば、仮に呂布と飛龍騎が破竹の勢いで進軍してきたとしても、我らが子午道から引き返して長安の守りを固めることができるようにな」
賈詡の言葉に、李傕はなるほどとうなずく。そして、口を開いた。
「それから、もう一つの懸念は、弘農に入った皇甫嵩と朱儁が、俺たちが長安を離れた隙に、攻め寄せるのではないかということだが……」
「言うまでもなく、そのような懸念はない。もしも、そのような動きを見せようものなら、その時は、皇甫嵩と朱儁の首と胴体が離れているだろう」
賈詡の言葉の言葉に、李傕はゲラゲラと笑った。
「さすが、賈詡先生の深謀遠慮。恐れ入る」
郭汜も、賈詡の計画に破綻のないことを理解したらしく、つられてゲラゲラと笑い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます