第48話 献帝激怒「董旻をとらえて処刑せよ! 」
「謀反を起こした董旻を捕らえたという報告を朕はまだ受けていない。その後どうなっているのか? 」
献帝はキッと李傕を睨み付けた。
献帝としては、李傕を威嚇したつもりだったのであるが、李傕は、鼻で笑うと、拱手した。
「残念ながら、董旻は逃亡しており、未だ、足取りを掴めておりません」
「長安の城門は、閉鎖し、何人の通行も許していないのではなかったのか。何故、未だに、董旻を捕らえていないのか」
献帝の再度の問いに、李傕は、
「董旻は、長安城内に協力者が多数おりまして、彼らが巧みに匿っているために、捕えることができないのです。もしやすると、董旻は既に長安城の外に脱しており、兄の董卓と合流しているのやもしれません」
その時、宦官司馬懿が口を挟んだ。
「李傕殿。皇上は、事実のみお訊ねになっております。あなたの憶測を交えず、事実のみお答えくださいますよう」
李傕は、お前こそ、余計な口出しをするなとばかりに、司馬懿を睨み付けた。
司馬懿は、逆臣と言う設定になっている董旻が董卓と合流したことにより、董卓をも逆臣とみなし、その征伐のための勅書を献帝に書かせるという流れに持ち込まれることを未然に防ごうとしたのである。
賢明な献帝も、司馬懿の意図を察している。
すると、李傕の隣に立つ郭汜が口を開いた。
「我らは、董旻と通じていたとみられる王允、盧植、蔡邕の屋敷を捜索しておりません。つきましては、この三名の逮捕と屋敷の捜索をお命じになりますよう。さすれば、董旻の行方はつかめましょう」
「郭汜殿。皇上は、事実のみお訊ねになっております。あなたの憶測を交えず、事実のみお答えくださいますよう」
「お前は黙っておれ! 」
郭汜が怒鳴りつける。
献帝は、ここぞとばかりに、机をドンと叩いた。
「司馬懿は、朕の代言人だ! 司馬懿に黙れということは、朕に黙れというに等しい! お前は朕に黙れというのか! 」
「バカ野郎! 」
と声を発したのは、李傕だった。同時に、李傕は郭汜の顔を拳で殴りつけている。
郭汜がよろめいて、床にうずくまった。
「皇上。申し訳ありません。この郭汜は、田舎者でして、礼儀と言うものを心得ておりません。棒罰を食らわせておきますゆえ、それをもって、郭汜の罪をお許しくださいますよう」
献帝としては、棒罰など手ぬるく、斬首を命じたいところであったが、さすがに、李傕もそれには同意しないだろう。
「そのようにせよ」
と命じるしかなかったのである。
もちろん、棒罰など形だけで、実際には、郭汜が叩かれることはないことを献帝も承知していた。
郭汜は、衛兵に引きずられていく間、恥をかかせやがってとばかりに、司馬懿を睨み付けていたが、司馬懿は涼しい眼差しで献帝の側に立つばかりだった。
李傕の要求は、まだ、続いた。
「相国の董卓が不在。さらに、軍務政務を委任されていた皇甫嵩、王允、盧植、蔡邕は罷免されました。現在、朝廷のトップは不在で、群臣は、誰の指示を仰ぐべきか分からない状態にあります。つきましては、臨時の丞相を任じられますよう」
これは裁可すべきだろうか。と迷った献帝は、司馬懿を見やった。
司馬懿は軽くうなずいた。それを見た献帝は口を開く。
「では、お前は誰を丞相に任ずるべきと思うのか? 」
「はっ。恐れながら、申し上げます。極めて優れた能力を有しながら、これまで、董卓によって虐げられていた者がいることを皇上もご存じでしょう。張温殿です。私は、張温殿を新たな丞相と仰ぎ、朝政を一新すべきと考えます」
李傕の言葉に、群臣の間からも、張温を推す声が次々に出される。彼らの多くは、李傕の軍事力を恐れて、李傕に同調しているにすぎないことが一目瞭然であったが、それでも、張温は、ご満悦と言った様子。
反対の声は上がらなかった。
献帝は、張温なんて、董卓に難癖をつけるだけの佞臣だと思っていたが、こうなっては、李傕の推薦を受け入れるしかない。
「では、張温よ。お前を丞相に任ずる。当面の間、朝政を指導せよ」
張温が、進み出て、拱手した。
「丞相の任、拝命いたします」
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