第46話 陽平関の誓い

 董卓軍は、陽平関を制圧した後で、その守備と修理、整備のために、馬超、龐徳らを中心とする部隊を残していたのだ。

 彼らは、この後、陰平に向かい、軍を休ませた後で、韓遂配下の成公英らの部隊と合流して、大巴山脈に分け入り、成都攻略を目指すことになる。

 呂布もその部隊に飛龍騎を率いて加わることを所望していたが、李儒の意向によって、漢中の守備に回されたことは先に述べた通りである。

 呂布は、陽平関を一望して感心した。

 漢中側には、関の前に宿舎が整然と立ち並んでいる。董卓軍との戦いによって、破壊された建物もあるようだが、既に修理が始まっており、数千規模の兵ならばすぐにでも駐屯させることができる。

 陽平関は、山の谷間に三つの城壁が連続する形になっていたが、損傷が激しいのは、漢中側の城壁である。

「董卓様が、霹靂車を持ち出したからですよ。岩がぶつかって、崩れたところがいくつもあるのです」

 馬超はそう言うが、城壁は完全に破壊されたわけではなく、十分に修理可能で、現に、たくさんの工兵が動き回って修理が行われていた。

「函谷関に劣らない大した堅牢さだ。この関を落としたお前の実力も大したものだな」

 呂布はそう言って馬超をほめる。馬超は、

「俺は一武将としてやることをやっただけです。董卓様が攻城兵器を用意しなければ、俺たちの騎兵部隊の力だけでは落とせませんでした」

 と謙遜する。

 一通り、陽平関を視察した後で、呂布と貂蝉は、宿舎に案内されて、宴会となった。

 馬超の紹介で龐徳とも引き合わされた。

 呂布も馬超、龐徳も騎兵部隊を指揮することを得意とすることから、自然に意気投合する。

 呂布は、盃の酒をぐいと飲み干すと、

「いやあ。馬弟、龐弟よ。お前たちと一緒に、成都を落とす戦いに参加できないのが残念だ」

 馬超もぐいと盃の酒を飲み干すと、

「俺もです。俺たちが一緒に手を組めば、益州など、手の平を返すようにたやすく落とせように」

 龐徳も、

「今回の戦では一緒に戦えなくても、次の戦では必ず、一緒に戦いましょうぞ」

「うむ。益州の次は、荊州だ。俺の飛龍騎が漢中から上庸へ打って出るから、馬弟、龐弟は、益州の西の都市、永安から、江陵に打って出る。そして、襄陽にて、合流して戦おうではないか」

 呂布の言葉に、馬超、龐徳の二人も「愉快だ愉快だ」と喝采する。

 ついには、呂布は、

「馬弟、龐弟よ。俺は、お前たちと義兄弟の契りを結ぼうと思う。どうだ? 」

 馬超は、

「俺もそう願っていたところです。呂兄のような義兄弟がいれば、心強い」

 龐徳も、

「呂兄と義兄弟になれるとは光栄です」

 こうして、呂布、馬超、龐徳の三人は、陽平関において、義兄弟の契りをかわしたのだった。

 生まれが早い順に、呂布が長兄、龐徳が二兄、馬超が末弟となった。

 即日祭壇を設けると、香を焚いて、三人は誓った。

「我ら、呂布、龐徳、馬超の三人は、生まれた時は違えど、願わくは、同年同月同日に死せんことを! 」

 これが、後世、真の歴史を知る者の間で語り継がれることになる陽平関の誓いであった。


 翌日には、馬超、龐徳の二人は、陰平に向かうために、軍勢を率いて、陽平関を発った。

 呂布は、陽平関を出て、谷間が途切れるところまで、二人を見送り、しばしの別れを惜しんだことは言うまでもない。

 陽平関には、漢中出身のわずかな兵と工兵のみが残ることになった。

 今や漢中も長安、西域方面も、董卓軍の支配下となったために、陽平関に大軍を駐屯させておく必要はない。

 呂布も、陽平関には適当な武官を選んで責任者とし、管理を任せることにした。

 こうした手配を終えた時に、呂布の下に漢中から早馬が駆けてきた。馬で駆けてきたのは、なんと、法正自身だった。

 ただ事ではないなと察し、呂布は直ちに、法正を招き寄せる。

「何事が起きたのだ」

「長安が! 長安が陥落しました! 」

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