第45話 呂布vs馬超の一騎打ち!
「奉先様。久しぶりに、弓矢の射掛け合いをやりませんか」
弓矢の射掛け合いとは、弓矢のキャッチボールのことである。弓で矢を射て、相手がそれを掴み、その矢をまた射返すことを繰り返すゲームである。
両者が卓越した弓矢の使い手であることによって、初めて、成り立つゲームである。
「いいだろう。俺も、戦いらしい戦いがなくて退屈していたところだ」
「では私から行きますわ」
貂蝉は馬を急き立てると、呂布から離れて距離を取った。
呂布も貂蝉にあまり引き離されないように赤兎馬を急き立てる。
呂布の右前方を駆ける貂蝉が振り返るや弓弦の音が響いた。常人には、貂蝉が矢を討つ動作をしたことさえ見えないはずである。
もちろん、呂布は、瞬時に貂蝉が矢を射たことを見抜いている。
しかも、二本。
その二本は、呂布の右手にガシッ! と掴まれていた。
貂蝉は、弓を一回射るだけで同時に二本の矢を正確に呂布を目がけて射ていたのである。
呂布は驚きはしない。自らも、二本の矢をつがえて、弓弦の音を響かせる。
右前方を駆ける貂蝉は、振り返りもせず、左手を後ろに回しただけで、二本の矢をつかみ取っている。
つかみ取るのと弓弦の音が響くのがほほ同時だった。貂蝉が舞を披露しているかのような流れるような動作を見せた時、呂布の右手には、三本の矢が飛び込んでいる。
呂布もまた、その三本の矢を射返す。貂蝉がまたつかみ取って射返す。
そんな動作を何度も繰り返しながら、草原を駆けているうちに、秦嶺山脈の谷間に入り、やがて、陽平関と守備兵たちの幕舎が見えてきた。
その時、
「何者だ! 」
と言う罵声が響くと共に、幕舎から、若い武将が駆け出てきた。
若い武将は、軽装の鎧を着こみ、矛を構えていた。
先頭を駆ける貂蝉に挑みかかろうとしているのは一目瞭然。
「貂蝉下がれ! 」
貂蝉は呂布に言われるまでもなく、馬のスピードを落とした。逆に呂布が赤兎馬を跳躍させて、貂蝉の前に出る。
右手にはすでに七星剣を抜刀している。
若い武将は、すぐに、狙いを呂布に切り替えた。猛スピードで呂布に突進し、矛で呂布の胸を容赦なく突き刺そうとする勢い。
まさに、矛が呂布の胸に飛び込もうとする刹那――。呂布の姿は赤兎馬から消えている。
呂布の姿は、赤兎馬の上空にあった。赤兎馬から跳躍していたのである。
同時に、若い武将の兜を目がけて、七星剣を一閃させている。
兜についた房の飾りがバッサリ切れて、宙に舞った。
呂布は、その房を左手で掴むと同時に、空中で一回転。足を止めた赤兎馬の鞍に、すっぽりと収まっている。
若い武将も、馬を止めて、瞠目していた。首をさすりながら、自分の首がつながっていることが信じられないとでもいうように。
若い武将は、すぐに、呂布の側に駆け寄ると馬を飛び降りて平伏した。
「お見それしました! 手加減していただかなかったら、俺の首は飛んでいたところです! 」
呂布は、ニヤリとすると、若い武将の手元に、兜の房を放った。
「お前の突撃も大したものだったぞ。俺じゃなかったら、突き殺されていたはずだ。お前の名前は何という」
「俺は、馬超と言います。馬騰の息子です」
「おおっ。お前が馬超か。ここ陽平関の戦いでは、大活躍したそうだな。師父がほめていたぞ」
呂布の言葉に、馬超は目を丸くする。
「すると、あなた様は……」
貂蝉が呂布の側に駆け寄ってきた。
「奉先様。まだ、馬超殿に自己紹介をしていないじゃないですか」
「忘れていた。俺の名は呂布だ。馬超、よろしくな」
「呂奉先様でしたか! お会いしたいと願っていました! 」
「それから、これは俺の妻。貂蝉だ」
「噂は耳にしております。大変美しい上に、大変な弓の使い手だとか」
馬超の言葉に貂蝉もクスッと微笑む。
「さあ。馬に乗れ。俺は漢中の太守になったが、陽平関も漢中の管轄だから、どんなところか視察しておこうと思ったのだ」
呂布に促されて、馬超は即座に馬に飛び乗った。
「俺たちは間もなく、ここを離れて陰平に向かうことになっていますが、呂奉先様がお越しになったのであれば引き継ぎも簡単に済みます」
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