第43話 皇甫嵩曰く「此度の事態は呂布の『飛龍騎』でなければ覆すことができん」
賈詡はまたも拱手して丁寧に答える。
「申し訳ありませんが、現在、何人たりとも、城門をお通しすることはできません」
「何ゆえだ! 」
「長安城内において、謀叛が起きたからでございます。謀反の首謀者は――董旻」
賈詡の言葉に、朱儁と皇甫嵩は、一瞬、目を合わせて、首を傾げた。
「何を言う! そなたたちが謀反人ではないのか! 」
朱儁が叫ぶと、賈詡は丁寧に答える。
「とんでもございません。我らは、皇上より、董旻が謀反を企んでいる故、弘農より兵を率いて上洛し、董旻を捕らえよとの密命を受けたのです。それ故、現在、董旻を捕らえるべく、長安城下を閉鎖しているところでございます」
「では、董旻はどこにいる! 連れてまいれ! 」
「我らは、董旻の手勢と戦い、制圧しましたが、目下、董旻は逃亡中です。外に逃げられぬよう、城門をすべて閉鎖しているところです。そのため、何人たりとも、城門をお通しするわけにはいかないのです」
「長安における軍事の最高責任者は、わしじゃ! わしが開門を命じておるのじゃぞ! 」
皇甫嵩の言葉にも、賈詡は動じない。
「残念ながら、城門の閉鎖は、皇上の勅命によるものです。皇甫将軍殿の命では、開門することはできません。それに……」
賈詡は竹簡を取り出した。竹簡を広げて言葉を続ける。
「皇上は、董旻の謀反を抑えられなかった皇甫嵩、朱儁のお二方に、大変ご立腹です。本日付で、お二方のすべての職を解くとの聖旨が下されました。これがその聖旨です」
賈詡は、竹簡を開いて見せた。もちろん、あまりに離れ過ぎていて、皇甫嵩、朱儁の二人には、何が書かれているか読み取れるはずもない。
「でたらめを申すな! もう一度言う! 直ちに開門せよ! さもなくば……! 」
朱儁の言葉に呼応するように、賈詡が手を上げた。
城壁の矢狭間にずらりと弩兵が並んだ。弩兵の矢はすべて、皇甫嵩、朱儁に狙いを定めている。
対する皇甫嵩、朱儁の軍勢は、数こそ多いものの、大半が新兵で、訓練用の武器しか持っていないし、攻城用兵器もない。もちろん、弩兵に対して、弓矢で応戦できる力量の者も少ない。
圧倒的に不利な状況にあることを、歴戦の将軍である皇甫嵩、朱儁は即座に悟る。
皇甫嵩はため息をついて、朱儁の肩を叩いた。
「朱儁、やむを得ない。撤退じゃ」
「しかし……。どこへ行くというのです」
「弘農じゃよ。奴らが出て行って、空になっているはずじゃ」
「やむを得ないですな……。弘農へ」
「うむ」
皇甫嵩と朱儁は、新兵ばかりの軍を転じると、東にある弘農を目指して、落ち延びていく。
新兵たちは、動揺し、ゆく先々で、逃亡する者が続出した。皇甫嵩と朱儁が弘農にたどり着いた時には、数千規模までに減っていた。
幸いだったのは、皇甫嵩の言う通り、弘農には兵がまるでいない状態だったことである。
李傕、郭汜らの謀反とは、無関係だと主張する張済と言う将軍が甥の張繍と共に、わずか数百足らずの兵を率いて、城内の動揺を鎮めるべく奮戦していた。
そこへ、皇甫嵩と朱儁といった、ベテランの将軍が新兵とは言え数千規模の兵力で応援に来た形となったので、快く迎え入れられたのである。
皇甫嵩と朱儁は、張済、張繍らから、太守の牛輔が殺害された経緯などを聞き取ると、直ちに漢中方面にいる董卓に伝令を走らせることにした。
「私が参ります」
と引き受けたのは、張繍であった。この時まだ、20代になったばかりの若い武将である。
「おそらく、董卓殿は既に、漢中を制圧したはずだ。呂布が子午道を通過したと聞いている。子午道を通って行くがよい」
皇甫嵩の言葉に、張繍は拱手する。
「ご命令のとおり、子午道から漢中に参ります」
皇甫嵩は付け加えた。
「それと此度の事態は精兵の兵をもってしなければ、くつがえすことができぬ。必ずや、呂布の『飛龍騎』に来てもらうように頼むのじゃ! 」
「ははっ! 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます