第42話 李傕曰く「ふん。董旻め。せいぜい、今のうちに、暴れておくがいい。いずれ、お前の屍は、市場にさらされるんだからな」
長安の東門の守備兵はこうして全滅し、城門が開け放たれた。
李傕率いる部隊が堂々と門をくぐり抜けた。
「待ってたぜ! 」
董旻が、ゲラゲラと笑いながら、李傕を受け入れる。李傕は拱手して言う。
「董旻様。お待たせしましたな」
「待ちくたびれたわ! いよいよ。俺が皇帝になる日が来た! 」
「さよう。しかし、まだ、作戦は終わっていません」
「俺が手勢を率いて、宮城を制圧するんだな! 皇帝を捕まえて、斬り殺してやる! 」
「董旻様。くれぐれも、皇上は、生かしたまま捕らえますよう」
「おうよ! じゃあ、俺はいくぜ! 」
「はっ。我らはその間に、東西南北すべての城門を制圧します」
「任せたぞ! おい! 宮城に突入するぞ! 」
董旻の号令の下、一千名のゴロツキどもは、一目散に宮城へ駆けた。
その後ろ姿を李傕は不敵な笑みを浮かべて見送る。
「ふん。董旻め。せいぜい、今のうちに、暴れておくがいい。いずれ、お前の屍は、市場にさらされるんだからな」
李傕の傍らに、賈詡が馬を進めて出てきた。
「そのとおり。あの肥満体は、これくらいしか使い道がない。さて、李傕殿、あの肥満体のことは、ひとまず、放置し、我らは、城門を完全に制圧するぞ。皇甫嵩と朱儁らに気付かれる前に」
「言われるまでもない。行くぞ」
この日、弘農から長安に入った兵は、弘農の兵の大半に当たる約二万の兵力であった。
彼らは、
「長安が賊に占領されたために、奪還する」
と聞かされて、弘農より大挙して押し寄せたのだった。
「今、長安城内にいる兵士は、すべて賊軍だ。皆殺しにしろ! 」
李傕の号令の下、弘農の兵士たちは、忠実に任務を遂行した。長安城の兵士の多くは、新兵だったために、熟練の弘農の兵士たちに集団で襲われてはひとたまりもない。
東門だけでなく、西門、北門、南門、そのすべてが瞬く間に、制圧された。
辛うじて、少数の武官と兵が、城門を脱出し、長安の北方の平原に設けられた演習場に駆け込むことができた。
異変を知った皇甫嵩と朱儁は、ランランと目を怒らせる。
「弘農の兵と称する軍勢が長安を占領したじゃと! 」
「弘農と言えば、董卓の娘婿の牛輔が太守を務めていたはず。あの真面目な男が長安を占領するなどありえまい」
皇甫嵩と朱儁が口々に言う。報告の武官は、
「牛輔らしい者はいないようです。軍勢の大将は、李傕と郭汜と耳にしました」
その言葉に、皇甫嵩は白い髭をしごきながら、
「李傕と郭汜と言えば、牛輔の部下じゃ。さては、こやつらが謀反を起こしたのではないか」
朱儁もうなずく。
「牛輔が謀反を起こすことはありえまい。謀反だとすれば、李傕と郭汜だろうな。前々からこやつら、腹黒いと思っていたが、大胆なことをしおるわ」
「直ちに、長安を奪還するぞ」
皇甫嵩の号令の下、新兵たちが整列させられ、長安へ進軍を開始する。
間もなくして、長安城の北門に到着するが、城門は完全に閉じられていた。
「開門! 」
朱儁が叫んでも、なしのつぶてである。
すると、城壁に文官らしい男が立った。
「おぬし、見慣れぬ者だな。どこの誰だ! 」
朱儁が問いかけると文官は拱手して答える。
「私は、牛輔の幕僚の賈詡です。以後お見知りおきを」
「わしは、朱儁。そして、こちらは、皇甫嵩閣下だ。直ちに城門を開けよ! 」
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