長安に漂う暗雲

第35話 董卓激怒?「呂布、お前は、蜀攻略作戦から外す! 漢中に居残りだ! 」

「此度の戦いの最大の功労者は、呂布だ。よくやった」

 董卓の言葉に呂布は拱手した。

 陽平関を占領した董卓と馬騰、韓遂の連合軍は、漢中へ入城した。

 今は、宮城の政庁において、論功行賞が行われているところだった。

 董卓のねぎらいの言葉に、同席していた李儒、馬騰、韓遂もそろって、

「恭喜(おめでとう)、呂将軍」

 と一斉に祝辞する。

「師父、皆様、ありがとうございます。しかし、漢中を占領したのは、俺だけの力ではなく、飛龍騎のメンバーの力によるものです」

「呂布よ。おぬしが日頃から、飛龍騎をよく訓練しておるからだ。それに、漢中の住民も落ち着いており、おぬしが最初から太守であったかのようではないか。のう、李儒よ」

 李儒も拱手する。

「おっしゃる通りです。つきましては、漢中の太守として、呂将軍を正式に任命されますよう」

「うむ? 呂布には、蜀攻略にも従軍してもらいたいと思っておる。もちろん、漢中を最初に占領したのは呂布であるから、呂布を太守にするのは、やぶさかではないが……」

「師父、蜀攻略につきまして、俺から提案があります」

 呂布の言葉に、董卓が首を傾げる。

「どんな提案だ? 」

「蜀の攻略戦についてです。このような方法を採ってはどうかと思いまして……」

 呂布は、早速、法正が提案した奇襲作戦の概要を説明した。

 董卓軍の主力が剣閣を攻撃している隙に、別動隊が陰平から涪城につながるルートを通過して、成都を襲撃するという作戦である。尤もその作戦の実行のためには確認しなければならない事項がある。

「馬師伯、韓師伯、陰平から涪城につながるルートと言うのは本当にあるのですか? 」

 呂布は、馬騰、韓遂に訊ねた。

 馬騰は、

「陰平から大巴山脈に分け入る山道はあるが、その山道が蜀までつながるのかはわからんな」

 韓遂は、髭をさすりながら、

「蜀につながっているはずだぞ。蜀の交易商人が山の中を通って陰平に降りてくることは知られておるではないか」

「その道に詳しい者は、おりましょうか? 」

 呂布が訊ねると、韓遂は、

「わしの幕僚に、知恵者の成公英と言う者がいる。成公英ならば、その方面の山道にも詳しかろう」

「それなら、決まりだな。今度は、呂将軍の飛龍騎、わしの息子の馬超ら、それに、韓弟の成公英で、混成軍を編成して、陰平ルートから成都を落とさせようではないか」

 馬騰の言葉に、董卓もうなずく。

「うむ。剣閣は堅牢な城塞と聞いておったから、どのようにして落とそうかと思っていたが、そのような作戦が可能なら、試してみる価値はあるな。のう、李儒? 」

 李儒は、陰気な目を呂布に向けていた。

「呂将軍、その作戦は、呂将軍がお考えになった作戦でしょうか? 」

「いや。俺の考えではない。俺の幕僚の法正という若者が提案した作戦だ」

 呂布の答えに李儒の陰気な目が怪しく光る。

「恭喜(おめでとう)、呂将軍。すばらしい軍師を迎え入れられたようで」

 呂布は背筋に寒気を覚えながら、できる限り礼儀正しく拱手した。

「しかしながら、董卓様……」

 と、李儒は董卓と向き合う。

「うむ? 李儒よ。おぬしは呂布の作戦に反対か? 」

「いいえ。とんでもありません。それどころか、私もまったく同じ作戦を提案しようと思っていたところでございまして」

「それならば、呂布が迎え入れた法正と言う若者、李儒の後継になれるほどの知恵者ということだな。のう、呂布」

「はい。後ほど、師父にもあいさつさせます」

「で、李儒よ。何か言いたいことがあるのか? 」

「別動隊の編成についてでございます。此度の作戦では、呂将軍の飛龍騎は外されますよう。そればかりでなく、剣閣を攻撃する本隊にも加えませんように」

「うむ? 呂布の飛龍騎を蜀攻略作戦から外せと言うのか? 」

「さようです。呂将軍には、漢中にとどまっていただきたいのです」

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