第34話 呂布VS張任の一騎打ち

 一方、呂布は、まっすぐに、張任に突撃し、方天画戟を舞わせていた。

 張任率いる部隊は、蜀の兵が多いようだったが、張衛の部隊に比べ幾分か、骨があった。

 呂布に向かって、矛や戟を突き出してくる騎兵もいたが、ことごとく血潮を上げて落馬した。

 部下の犠牲が続出するのを見た張任は、矛を構えて、自ら、呂布に突撃する。

 キーン!

 と言う金属音が響いたのを機に、呂布の方天画戟と張任の矛が目まぐるしく舞った。

 何度も、金属音が響き、火花が飛び散る。

 たちまち、五十合ばかりも打ち合ったが、呂布も張任も一歩も引かず、互角である。

「惜しいな! 張任! それほどの腕がありながら、なぜ、謀叛人劉焉に仕えている! 」

 呂布が怒鳴ると張任もやり返す。

「謀叛人とは笑止! 呂布よ。そなたこそ、それほどの腕がありながら、なぜ、董卓などと言う簒奪者に仕えている! 」

「ふっ! 張任! 俺は、董卓に仕えているわけではないぞ! 」

「何を言う! 董卓の配下、呂布の名は世間に響いているではないか! 」

「董卓は俺の師父だ! 俺の主君は皇上! 俺が仕えているのは漢王朝! 」

 呂布の言葉に張任は一瞬目を丸くする。呂布はその隙を逃さない。

 キーン!

 という音と共に、張任の矛は、はるか後方に飛ばされていた。

 呂布が方天画戟を張任の首筋に突き付けた。

「張任! お前は誰に仕えている! 謀叛人劉焉か! それとも漢王朝か! 」

「それがしは……」

 張任の言葉は続かなかった。顔に苦渋の色が浮かんでいる。

 呂布は方天画戟を下ろした。

「俺の言葉をよく考えよ。行け! 」


 張任は呆然としたまま、戦場を去った。

 生き残った蜀の兵たちも、張任の後を追いかけた。剣閣から、蜀に帰国するのであろう。

 呂布の両隣に、成廉と魏越が駆け寄ってきた。

「師父。張任を捕らえなくていいんですか? 」

 成廉が訊ねると呂布は、

「張任は、ぜひとも、俺の配下にしたい」

「だったら、魏越に捕らえさせればいいのに」

「いや。張任は、力ずくで捕らえても、死を選ぶだけだろう。あの男を配下にするには、自分の意思で投降させるしかない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る