第30話 呂布曰く「漢中の次は、蜀を攻める。法正、お前の策を聞こう」
そのころ、呂布は、漢中において太守の椅子に座り、漢中の内政と軍備増強に従事していた。
と言うべきところであるが、呂布自身がやることはほとんどない。
内政は引き続き、張魯に行わせ、呂布は、彼がやることを監督し裁可するだけである。
軍備の再編は張遼が担い、降伏した漢中兵を編成し直して、漢中城下の警備に当たらせる。精鋭にして若い兵士で、かつ、希望する者は、『飛龍騎』に入隊することを認める。
漢中城で新たに得た乗馬は、馬泥棒こと侯成が、一頭一頭見て、『飛龍騎』に使えそうな馬を選抜し、残りは、漢中城の守備兵に回す。
武器の点検や矢の量産などは、成廉、魏越が中心になって行う。漢中の警備は、高順が担うという具合であった。
もちろん、貂蝉は常に、呂布の側に侍っている。もっとも、武装は解いておらず、専ら女武官としてであるが。
そんな折、法正が、張魯の後任となる漢中城内政担当官候補の若者を連れてきた。
「孟達。字を子敬といい、私の同郷の友人です」
法正よりも数歳年上の若者であった。法正同様に賢そうな眼差しをしており、呂布の問いにも、ハキハキと答える。
「孟達。我が軍は、これより、南下して蜀を攻め取るつもりだ。お前が、太守であれば、我が軍が南下している間、どのような方針で、漢中を治めるか? 」
呂布が問うと孟達が拱手して答える。
「当面は南下した主公の軍隊に対して、兵糧、物資を補給することを優先します。それと同時に、新たに軍備を整え、東進に備えます」
「東進とな? どういうことだ? 」
「蜀を攻め落とした後、主公の軍が狙うのは、荊州でありましょう。荊州を攻めるのであれば、その前線基地となるのが、ここ漢中になるでしょう。その時に備えて、前もって計画を立て、準備を進めておきます」
呂布は孟達の答えに納得した。
「よかろう。お前を漢中の太守代行に任じる。張魯が連行されるまでの間、張魯から引き継ぎを行い、さらに、張魯が連行された後は、太守の職を代行せよ」
「ははっ! ご期待に背きません! 」
「では、早速、張魯のところへ行け」
「ははっ! 」
孟達が去った後で、呂布は、法正に顔を向けた。
「良い人材を連れてきたな」
「ありがとうございます」
「陽平関が落ちれば、次は、蜀を攻めることになるわけだが、法正、お前が、軍師として蜀攻略を行うとしたら、どのように攻めるべきと思うか? 」
「奇襲作戦を取るべきと思います」
法正の言葉に、呂布はニヤリとする。
「奇襲作戦か。李儒殿と同じことを言う」
呂布の言葉に、傍らに座る貂蝉も微笑む。
「軍師殿は、誰も彼も、奇襲作戦がお好きのようですわ」
「うん。法正、話してみよ」
「はい。漢中と蜀の間には、大巴山脈が連なります。この山脈の険しさは、秦嶺山脈の比ではありません。大巴山脈は、蜀をぐるりと囲むように連なり、南は荊州との境にもなっています。この山脈のおかげで、蜀は外敵の侵入を防ぐ要害の地となっているわけです」
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