第29話 馬超、九死に一生を得る
「罠が仕掛けられている。よく見よ。本陣の前に、枯れ草が積み上げられているであろう」
徐栄の言葉に、馬超、それに龐徳も、本陣の前に、横一列に、枯れ草が積み上げられている箇所があるのを認めた。
それも一列ではなく、距離を置いて三列も並んでいる。明らかに不自然な並びである。
「落とし穴だ。むやみに突撃すると、枯れ草の中の穴に落ちて死ぬぞ」
「徐栄殿の警告がなければ、俺は今日の戦で死ぬところでした」
馬超がそう言って、徐栄に拱手し、敬意を示す。
徐栄は、特に知将というわけではないが、やはり、経験があるだけに、こうした罠を見破りやすいのである。
「弓兵、騎兵、弓矢を射て、敵をけん制せよ。歩兵、その間に、枯れ草をかき分けて、穴のない場所を探せ!」
徐栄の号令の下、馬超、龐徳の騎兵部隊と徐栄率いる弓兵部隊。それに、降伏した弓兵部隊も一斉に弓矢を射た。
その間に、歩兵部隊が、前進して、矛で地面を掘るようにして、枯れ草をかき分ける。
落とし穴を見抜かれたと悟った楊任、楊昂らも弓兵部隊を突出させて、応戦する。
「張魯軍の守備兵よ! 降伏せよ! 降伏しないと天から岩が降るぞ! 天罰が下るぞ! 」
徐栄がそう叫ぶ。兵士たちにも、一斉に同じ言葉を言わせた。
「張魯軍の守備兵よ! 降伏せよ! 降伏しないと天から岩が降るぞ! 天罰が下るぞ! 」
楊任、楊昂らが率いる部隊に動揺が走る。
「あわわっ! また岩が降ってくる! 」
「天罰が下る前に逃げるぞ! 」
本来、霹靂車が放つ岩石の飛距離は、約400メートルが限度で、この戦いの場合は、第三の城壁あたりまでしか届かない。
今、馬超、龐徳の騎兵部隊と徐栄率いる歩兵部隊が集結している場所にはもちろん、その先の楊任、楊昂らの本陣にも、届かないのである。
しかし、今しがた、霹靂車の威力を思い知った。正確には、霹靂車と言う兵器の存在さえ知らず、天から岩が降ってきたことに怖気ついていた兵士たちは、浮足立って、戦場から逃げる者が続出する。
「敵前逃亡は大罪だ! 引き返して戦え! 」
楊任、楊昂らが、いくら兵士を叱咤し、剣を抜いて脅しても、無駄であった。
そうしている間に、徐栄の歩兵部隊が、枯れ草の山をかき分けて、落とし穴のない部分を探り当てている。落とし穴の部分は、枯れ草を積んだまま、ない部分は地面を露出させている。
「よし! 行くぞ! 今度こそ、あの武将を斬り捨てるぞ! 」
馬超、龐徳の騎兵部隊が、落とし穴地帯を一気に駆け抜けて、楊任、楊昂らの本陣に迫った。
乱闘が始まった。
矢が飛び交い、剣や矛が振り回されて、楊任、楊昂率いる部隊の激しい抵抗により、馬超、龐徳の騎兵部隊からも落馬する者が出る。
しかし、それ以上に、馬超、龐徳の騎兵部隊の猛攻が、すさまじく、歩兵を中心とする楊任、楊昂らの部隊は突き崩されて、倒れ、あるいは逃亡する兵士が続出する。
ついに、龐徳が楊昂に肉薄する。楊昂は、逃亡しながら、背後に迫る龐徳をめがけて矢を放つ。
矢は空へ飛んでいった。
「楊昂だな! 覚悟せよ! 」
龐徳がそう叫ぶと共に、大刀を一閃させた。
楊昂は、誰に斬られたのかも分からないままに、首筋を断ち切られて落馬した。
馬超も、楊任に一騎打ちを挑んでいる。
馬超が矛を構えて突撃すると、楊任も矛を構えて、突撃。
勝負はあっけなくついた。
すれ違った後で、馬上にあったのは馬超。楊任の乗馬は空になっており、楊任は草むらに転がっていた。その胸には、馬超の矛が突き立っていた。
「総大将は討ち取ったぞ! 勝どきをあげよ! 」
陽平関に、董卓・馬騰・韓遂連合軍の勝利の歓声が響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます