第28話 李儒曰く「敵の技術を盗むことは卑怯でも何でもありませぬ」

 井闌に立っていた董卓は、カラカラと笑っていた。

 井闌の傍らには、大型の天秤のような振り子を備えた大型の兵器が並べられていた。

 振り子の部分に、人の頭ほどの岩石を乗せる袋があり、反対側の振り子の部分につながった縄を兵士たちが綱引きのように、

「エイヤー! 」

 と引っ張ると、天秤のような振り子が回転して、岩石が飛んでいくという代物だった。要するに発石車である。

 発石車から発せられた岩石は、約四百メートル先の第三の城門の城壁まで、放射状に飛んでいく。

 次から次へと岩石が投じられ、ガシーン! と、第三の城門の城壁にぶつかる音が、ここまで届いていた。

「どうだね。韓兄、馬兄」

 董卓が韓遂と馬騰を見やった。

「うーむ。岩石を武器にするとは、驚いたな」

 韓遂が髭をしごきながらうなると馬騰も感心して言う。

「馬で戦うことしか知らぬ我らには、想像もつかない兵器だな。さすが、董弟」

「実は、この兵器は、わしの発案ではない。関東の方でな。曹操がこのような兵器を作っているというので、ひそかに密偵を送って、設計図などを盗んできたのだよ。そうだあったな。李儒? 」

 李儒の陰気な目に怪しい光が宿る。

「さようです。敵の技術を盗んで、自らのものにする。これも戦のうちでございます。卑怯でも何でもありませぬ」

「この兵器の名を何というのかね? 」

 韓遂の問いに董卓は答える。

「曹操はこの兵器を霹靂車と呼んでいるそうな」

「霹靂車……、雷の車か。天から岩が降ってきたら、さぞ、驚くだろうな」


 ※


「お前たち、降伏せよ! 」

 徐栄が叫ぶと、第一、第二の城門から逃げてきた守備兵たちは、そのほとんどが武器を捨てて降伏した。

「降伏したなら、第三の城門を開けよ」

 徐栄は、梯子を用意させると、第一、第二の城門から逃げてきた守備兵たちを第三の城門の城壁をよじ登らせた。彼らは、向こう側の城門に降り立つと、閂を外して城門を開いた。

 馬超と龐徳の騎兵部隊、それに、徐栄の歩兵部隊が、一気に、第三の城門を駆け抜けた。

 抜けた先は谷間が広がり、守備兵たちの宿舎が立ち並ぶ。

 宿舎に籠って抵抗しようとする者はほとんどいなかった。大半の者は降伏し、抵抗した者は、馬超と龐徳の騎兵部隊に踏みつぶされるか、徐栄の歩兵部隊に斬り捨てられた。

 間もなく、総大将が籠る本陣が見えてくる。

 本陣の前では、第三の城門から逃げ出した楊昂、それに、楊任が兵を立て直して、決戦の構えを見せている。

「それでこそ戦い甲斐があるというものだ! 」

 馬超がそう叫んで、楊任、楊昂らの大将をめがけて、突撃しようとする。

「馬超! 待て! 」

 徐栄の一喝に、馬超は馬を止めた。

「徐栄殿。何でしょうか? 」

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