第27話 董卓、ゲームチェンジャーたる新兵器を投入する

 井闌に上がって、戦況を観察していた董卓、李儒、馬騰、韓遂は、第三の城門の辺りまで見通すことができた。現在の尺度で言えば、第一の城門の外から約四百メートルの距離である。

「第三の城門は閉じられているな。衝車と雲梯をあそこまで運ぶことはできるが、井闌をあそこまで入れることはできないな」

 韓遂の言葉に、馬騰もうなずく。

 衝車はそのまま城門をくぐり抜けることができるし、雲梯も畳めば、城門をくぐり抜けることができる。しかし、井闌は解体しない限り、城門を抜けることはできないということである。

「我らの騎兵が矢を射ている間に、衝車を打ち付け、雲梯をかけるしかあるまい」

「第三の城門は、激戦の舞台になりそうだな。のう、董弟」

「いや。韓兄、馬兄、心配には及ばない。実は、あそこまで届く新兵器を用意してある。此度の戦で試してみようと思っているんだ」

 董卓がニヤリとする。

「ほう。どんな兵器なんだ? 」

「まあ、見ているがよい。奇抜な兵器だぞ」


 第三の城門を前にして、馬超と龐徳が率いる騎兵部隊が隊列をそろえた。さらに、第二の城門を制圧した徐栄の歩兵部隊もその後に続く。

 第三の城門の城壁に立つ守将は依然として、

「敵前逃亡は大罪だ! 引き返して戦え! 」

 と怒鳴り、第一、第二の城門から逃げてきた守備兵を受け入れようとしない。

 第二の城門の武官らしい者が、その守将に対して、

「楊昂! その安全な場所から、引き返して戦えなどと言ってねえで、お前が下りてきて戦え! 」

 と怒鳴り返した。

 そのやり取りを聞いていた馬超は、龐徳と顔を見合わせた。

「楊昂と言ったら、この陽平関を守っている四人の将軍の一人だよな」

 馬超の問いに龐徳は、

「そうだろうな」

 とうなずく。

「それなら、あいつを討ち取れば大手柄だが。あそこまで駆け上がれないのが残念だ」

「まったくだ」

「それはともかく、こっち側にいる奴らはどうする? 」

「降伏を勧めるべきだろう。あの者たちが降伏したとなれば、楊昂が率いる部隊の士気も大幅に落ちる」

 二人がそんなやり取りをしているうちに、徐栄が合流した。

 徐栄は、働き盛りの精悍な武将である。馬超と龐徳は、一回り年上の先輩武将に対して敬意を示した。馬超は、徐栄に拱手して訊ねる。

「徐栄殿、あの者たちに降伏を勧めようと思いますが、如何でしょうか? 」

「あの者たちとは? 」

 徐栄の問いに、馬超は、第一、第二の城門から逃げてきた守備兵を指さした。

「降伏を勧めるのはよかろう。だが、降伏を勧めるなら、あの者たちだけでなく、あの者たちにも勧めるがよかろう」

「あの者たちとは? 」

 馬超が問うと、徐栄が第三の城門の城壁を指さした。ちょうど、楊昂を指している。


 その刹那――。

 ガシーン! という地響きがとどろいた。

「何事だ! 」

 という驚きの声が、陽平関側の守備部隊の間だけでなく、馬超と龐徳が率いる騎兵の間からも起きる。

 信じられない事態が起きていた。

 第三の城門の城壁に、人の頭くらいもある岩石が落下したのである。

 誰もが秋晴れの空を見上げた。

 第三の城門の両側には切り立った岩壁が迫っているとはいえ、そのどこかの岩壁が崩れて落ちてきたという様子はない。

 ガシーン! ガシーン! ガシーン! ガシーン! 

 岩石は一つで終わらず、次々に第三の城門の城壁に降り注ぐ。

「天から岩が降ってきた! 」

「天罰だ! 」

 と誰かがそう叫んだのを機に、陽平関側の守備部隊に、大いに動揺が広がる。城壁に立っていた弓兵たちは、我先にと、逃げ出したし、楊昂もいつの間にか姿を消している。


 その動揺は、馬超と龐徳の率いる騎兵部隊にも広がりつつあった。

「あれはいったいなんだ! 」

 馬超が目を丸くすると、徐栄が一声を放った。

「落ち着け! あれは、董卓様が採用した新兵器である! 」

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