第26話 董卓が激励「お前たち二人も呂布に劣らぬ武勇を有していると見た。期待しているぞ」

 陽平関の混乱した様子は、陽平関の外に陣を張る董卓軍にも伝わった。

 軍師の李儒が董卓に耳打ちする。

「呂将軍の漢中奇襲作戦は、どうやら、大成功した模様です。陽平関から脱走する兵が後を絶たないとの情報もあります」

「うむ。さすが、呂布だ。我が軍も、これより、全力で陽平関を叩くぞ」

 董卓軍は、これまで、陽平関の外で、気勢を上げて、適当に矢を放つだけで、戦いらしい戦いはしていなかった。

 呂布が漢中を攻略するまで、劉焉・張魯連合軍の主力を引き付けておくことが主な役目だったからである。


 董卓は、自らの幕舎に直属の武将を呼び寄せた。董卓直属の武将の筆頭は、徐栄と言う名の将軍である。

 徐栄は、豪奢揃いの董卓軍の中でも、抜き出た武勇と指揮能力を有しており、呂布以外では、今、函谷関を守る華雄と双璧を為していた。

 董卓は、徐栄に、

「攻城兵器を持ち出せ」

 と命じた。徐栄は早速、幕舎を出て、手配に当たる。

 馬騰、韓遂も、それぞれの配下を連れて、董卓の幕舎を訪れた。

「董弟。いよいよ、我らも本気を出す時が来たようだな」

 馬騰の言葉に、董卓もカラカラと笑って応じる。

「待たせたな。馬兄、韓兄。これから大いに働いてもらうぞ」

「うむ。我ら、西方の騎兵の実力を見せてやろうではないか。我が息子たちもうずうずしている」

 馬騰はそう言って、後ろに控える二人の若者を紹介した。いずれもたくましい顔と体つきをしている。

 一人は、20歳前後であろう。

「龐徳。字は令明という。我らの軍の次世代のエースだ」

 もう一人は、まだあどけなさが残り10代の少年と分かる。

「俺の息子だ。馬超。字は孟起という」

 董卓は立ち上がると、二人の若者と握手した。

「わしの後継者の呂布は今、漢中にいるが、お前たち二人も呂布に劣らぬ武勇を有していると見た。期待しているぞ」

「ははっ! ご期待に背きません! 」

「はい! 叔父上! 」


 董卓の号令の下、董卓・馬騰・韓遂連合軍は、陽平関に本気の攻勢を浴びせた。

 馬騰・韓遂の騎兵部隊が、陽平関に突撃するや

「放て! 」

 という号令の下、陽平関の城壁の上に立ち並ぶ弓兵を狙って、無数の矢を浴びせた。

 これまでにない矢嵐に、矢狭間に守られている陽平関の弓兵部隊もひるむ。射返そうとすると、その隙に飛び込んでくる矢に射られて、絶命する者が続出。

 陽平関の弓兵部隊からの反撃が鈍くなった隙に、徐栄率いる攻城兵器部隊が一気に突出する。

 城門には、衝車が突撃する。城門に丸太をドスン! ドスン! と打ち付けて、打ち破ろうとするための兵器である。

 これで城門が壊れるかどうかはともかく、ドスン! ドスン! と叩く音と地響きは、陽平関を守る兵士たちを大いに動揺させる。

 衝車が城門を叩くと同時に、多数の雲梯が城壁に向けて掛けられた。はしご車である。

 董卓軍の歩兵たちが、はしごを伝って、城壁に乗り込もうと試みる。

 さらに、多数の井闌が押し出された。車の付いた物見やぐらと言うべき兵器だ。やぐらに立つと、陽平関の城壁よりも高みから見下ろすことができる。

 戦況を把握しやすいだけでなく、城壁の上で、矢狭間に守られて反撃を試みる弓兵に対して、上から矢を浴びせることができる。

 陽平関の城壁の上で反撃を試みていた弓兵たちは、董卓軍の井闌からの矢に射立てられて、次から次へと退却を始める。矢狭間をうまく利用して反撃を試みる者も、雲梯を伝って城壁に乗り込んだ董卓軍の歩兵により、斬り捨てられる。


 ついに、陽平関の第一の城門が破られた。

 陽平関の防衛部隊が、背を向けて逃げる中、馬騰・韓遂の騎兵部隊が一気に城門を駆け抜けた。

 先頭に立つのは、馬騰軍の若き勇将馬超と龐徳。

 第一の城門が破られても第二の城門と城壁が立ちはだかる。城壁の上には、弓兵が立ち並び、矢を飛ばして反撃を試みる。

 矢の嵐にも、馬騰軍の騎兵部隊はひるまない。

 第二の城門が退却部隊を受け入れるために解放されたままだったのだ。

 馬超と龐徳が先を争うように、城門に殺到した。第二の城門の守備部隊は、慌てて、城門を閉じようとするが、まだ退却し終えていない者たちが城門を押し開けようと殺到しており、閉めるに閉められない。

 そこへ、馬超と龐徳の部隊が無数の矢を放ちながら突進する。

 第二の城門もあっけなく陥落した。

 第三の城門は、閉じられていた。第一、第二の城門の守備兵たちが殺到してきて、

「開けろ! 」

「俺たちを見殺しにする気か! 」

 と叫んだが、城壁の上に立つ守将らしい男は、耳を貸さない。それどころか、

「敵前逃亡は大罪だ! 引き返して戦え! 」

 と怒鳴り返すばかり。

 そうしている間に、馬騰・韓遂の騎兵部隊が続々と第二の城門をくぐり抜けて、第三の城門の前に集結しつつある。

 第二の城門の城壁で孤軍奮闘していた弓兵たちも、徐栄率いる歩兵部隊に斬られるか、武器を捨てて降伏した。

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