第24話 刮目せよ! これぞ特殊部隊『飛龍騎』の実力!
その刹那、閻圃の喉に矢が突き立っていた。閻圃は、驚愕の色を浮かべたまま、あおむけに倒れた。
彼が即死したことに気付いた者は誰もいなかった。彼の叫び声も残念ながら誰にも届かなかったのである。
張魯が城壁を降りて城門に向かう。
その瞬間に、城門を守る張魯配下の兵がことごとく倒れ伏した。それぞれ急所を一本の矢で射抜かれて。
「あわわっ。何事だ! 」
張魯がオロオロした時は既に、一見して敵兵と分かる軍勢が城門になだれ込んでいた。
方天画戟を手にした総大将らしい男が叫ぶ。
「成廉! 東門を制圧しろ! 魏越! 西門を制圧しろ! 高順! ここの北門を押さえて、張遼の後続を待て! 」
その号令を受けて、何百もの騎兵部隊が地響きを上げて城門を通過していく。
その間、張魯は、呆然と立ち尽くすばかりだった。
龍を擬人化したような総大将らしい男と張魯が顔を合わせたのは、無数の騎兵部隊が通過して、静寂が戻った時である。
総大将らしい男は、男装しても美女と分かる女武将と、参謀らしい若者を従えていた。
「法正、こいつは、身分のありそうな格好をしているが、誰か分かるか? 」
総大将らしい男が参謀らしい若者に訊ねた。
「漢中の太守、張魯です」
※
呂布は、ニヤリとすると、背後の兵に目で合図した。
『飛龍騎』に属する騎兵は一兵卒まで高度に訓練されており、言われなくてもなすべきことを心得ている。
兵士たちは、馬から飛び降りるや、呆然と突っ立っているだけの張魯を瞬く間に縛り上げた。
それから、呂布は城壁を見上げた。兵士の一人が、さっと馬を飛び降りて、城壁を駆け上がる。
「張魯! お前の隣に立っていた奴は誰だ? 」
呂布に声をかけられて、張魯は我に返ったように目をぱちぱちさせる。
「えっ、あの……。私の隣にいたのは、閻圃……」
「張魯の軍師です」
と法正が呂布に口添えした。
「そうか。張魯、残念だな。お前の軍師は死んだよ」
呂布がそう言った時、城壁に駆けあがった兵士が下りてきた。呂布の前で拱手して言う。
「急所を射抜かれ、即死した状態でした」
「だろうな。やれやれ……。どんな激戦になるかと思いきや。まるで警戒していないとは拍子抜けした。おまけに、俺たちの作戦に唯一気付いた軍師殿は即死とな」
「奉先様、まだ、油断は禁物です」
貂蝉の言葉に、呂布はニヤリとする。
「そうだな」
早くも、東門、西門の制圧に向かった成廉と魏越の部隊から、ほぼ同時に伝令が戻ってきた。
「東門、制圧しました」
「西門、制圧しました」
同時に北門をくぐり抜けて、張遼の部隊が到着した。
「呂将軍。作戦の第一段階は、成功したようですな」
張遼の言葉に呂布はうなずく。
「次は、宮城と倉を押えるぞ。南門は後回しだ。奴らの退路として残してやれ」
呂布の号令の下、張遼が率いてきた本隊が、宮城へと殺到する。
張魯も、もちろん、騎兵に荷物のように引っ張り上げられて連れ去られた。
法正が呂布に提案した作戦は、陽平関と漢中の間をピストン輸送している兵糧輸送部隊を捕らえ、荷車や武装を奪って、これらの部隊に成りすまし、漢中城に乗り込もうという単純なものであった。
兵糧輸送の任務に当たっていた楊柏は、武将としての気概がまるでなく、呂布の『飛龍騎』が襲撃するとほとんど戦うことなく、降伏した。
その後は、ご覧のとおり、漢中の城門があっさりと押さえられたのである。
劉焉や張魯は、まさか、『飛龍騎』が既に漢中に入っていると夢にも思っていなかったのかもしれないが、それにしても、情けなすぎる。と呂布は思うのであった。
宮城では、いくらかの抵抗はあった。しかし、警固に当たっていた趙韙が異変に気付いて、門を閉じようとした時は、既に、『飛龍騎』が内部までなだれ込んでいた。
趙韙は、孤軍奮戦したようであるが、張遼によってあえなく討ち取られた。
呂布が貂蝉と法正、それに捕虜となった張魯を従えて、政庁に足を踏み入れると、既に劉焉も『飛龍騎』の兵によって取り押さえられていた。
「何事じゃ! わしに謀反を起こす気か! わしは皇帝じゃぞ! 謀反人め! わしではなく董卓を捕らえよ! 」
この爺さんは、状況を理解していないらしい。と、呂布は気付いた。
劉焉・張魯連合軍の一部が謀反を起こした。と思っているのだろう。
(俺たちにとっては誉め言葉だな)
と呂布は思う。
それほどまでに、『飛龍騎』が神出鬼没の働きをしたということなのだから。
「この爺さんは、牢に閉じ込めておけ。ケガさせるなよ」
呂布の命を受けて、劉焉は引きずられていったが、その間、訳のわからない言葉を怒鳴り散らすばかりであった。
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