第21話 呂布「法正よ。俺はお前の智謀を買ったわけだが、さっそく漢中攻略のための作戦を提案してほしい」

「長安の同志は既に捕縛されているはずです。長安で謀反が起きるはずがありません」

 長安の同志と言うのは、いうまでもなく、劉焉の子の劉範、劉誕、劉璋の三人のことであろう。彼らは、李儒の命を受けた李粛によって捕らえた。

 このうち、劉璋は本当に何も知らなかったようで、牢に入れられるだけにとどまったようであるが、劉範、劉誕は陰謀に深くかかわっていたと認定されて、既に処刑されている。

 この者たち以外に、同志がいるなら、話は別であるが、そうでなければ、謀反の芽は完全に摘み取られたことになる。

「そうだろうな」

 と呂布もうなずく。

「それから、西域の諸侯が決起することもないはずです。劉焉は、董卓と馬騰、韓遂の関係を過小評価しています」

 そのとおりだと、呂布も思った。

 馬騰、韓遂らが取りまとめている西域の諸侯たちは、董卓に対して反旗を翻すどころか、董卓の軍勢と合流して、陽平関に押し寄せることになっている。

 董卓の本隊三万、馬騰、韓遂率いる西域連合軍二万の軍勢。その大半が騎兵だ。雲梯、衝車、井闌といった攻城用の兵器も牽引している。

 董卓連合軍が力攻めしても、陽平関を落とすことはできるだろう。

 ただそれでは、董卓連合軍の損耗も激しい。そこで、呂布率いる『飛龍騎』が後方かく乱作戦を遂行しようとしているのである。


 呂布率いる『飛龍騎』は全軍が無事に、子午道を通過した。

 呂布は、貂蝉を含む六健将を陣幕に呼び寄せて、新たに、呂布の幕僚となった法正と顔合わせを行った。

「法正も含めると七健将となりましたな。我らが『飛龍騎』は、智謀の面で、やや欠けていると前々から懸念していましたが、法正が智謀の士であれば、『飛龍騎』は、よりバランスのとれた部隊となりましょう」

 張遼の言葉に、呂布はうなずく。

「うむ。我らは、これより、漢中を攻めるわけだが、我ら『飛龍騎』は、此度の行軍で、攻城用の兵器を牽引していない。騎兵のみで、漢中を落とすにはどうしたらよいか? 」

 呂布の問いに真っ先に発言したのは、成廉である。

「師父、騎兵が真価を発揮するのは平原での戦いでしょう。ですから、漢中の城から、奴らをおびき出して平原で決戦すればいいのでは? 」

「魏越、お前はどう思う? 」

 呂布に問われて、魏越は答える。

「我らは、一万の兵力しかおらず、敵地で孤立しています。慎重に行動すべきでしょう。漢中から敵をおびき出すにしても、要害の地まで敵をおびき寄せてから、伏兵をもって敵をせん滅すべきです」

 成廉の作戦は好戦的、魏越の作戦はより慎重なものと言える。二人の性格が表れた作戦だなと呂布は頷く。

「法正よ。俺はお前の智謀を買ったわけだが、早速、その智謀を生かしてもらいたい」

 法正は拱手して答えた。

「漢中は、堅牢な城壁に囲まれており、攻城用の兵器を用いずに、力攻めして落とすことは難しいでしょう。かといって、漢中の将兵を挑発しておびき寄せることも、難しいと思われます。『飛龍騎』の部隊が突然現れたと知れば驚きはしましょうが、かえって守りを固めてしまい、攻め落とすことはますます難しくなると思います」

「うむ。ではどうする? 」

 法正が一言二言、呂布に提案すると、呂布は満足そうにうなずいた。

「それなら行ける。その作戦でいこう」

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