第12話 中華後宮ラブロマンス史劇 献帝×董白の切なき愛の物語はどうでしょう?

 今、献帝を困惑させているのは、「董卓が少帝を毒殺した」というフェイクニュースだった。

「朕は、兄上が、長安への旅の途中で、風邪を拗らせて亡くなられたのを知っていますし、兄上が病により亡くなられたことも発表しました。なのに、どうして、世間では、董太師が兄上を毒殺したという話になっているのですか? 」

 世の穢れをまだほとんど知らない少年皇帝献帝が、そう董卓に訊ねた。董卓は拱手して答える。

「皇上。世の中には、実際には見たわけでもないのに、謡言(デマ)を流す者がいるのです」

「どうして、謡言を流すのですか。そんなことして楽しいのでしょうか? 」

「謡言を流すのが楽しいという、心のねじけた者もおります。しかし、大半の者は、謡言を自らの利益としようと企んでおるのです」

「謡言を流すことが自らの利益になるのですか? 」

「さようでございます。例えば、臣が恐れ多くも先帝陛下を毒殺したことにすれば、関東の諸侯にとっては、臣を排除する口実となるわけです。たとえ、謡言でも、目的を達成してしまえば、それを真実とすることができるわけです」

「そのような謡言によって、董太師を排除するなど、朕には許せません」

「ありがたきお言葉にございます。願わくは、皇上におかせられましては、謡言に惑わされず、真実を見極める眼力を養われますよう」

「うん。董太師、これからも、朕を教え導いてくれ」

「ははっ! 」

 献帝は、良い皇帝になるだろう。この聡明な皇帝の下で、漢王朝を復興させるために身を粉にする。これほど愉快な仕事はない。と呂布は頬をほころばせた。

 これも、董卓が献帝を慈しみ、時には厳しく、教え諭しているおかげである。


 董卓と呂布が献帝の執務室から退去しようとしたとき、

「劉協くん、ここにいるの? 遊びに来たよ」

 と、10歳になるかならないかという幼女が部屋の窓から覗き込んだ。

「あっ、董白ちゃん。今はダメ……! 」

 献帝が慌てた様子で、口元に指を立てた。

 董卓は、その一部始終をしっかり見届けている。

 幼女は、部屋から出たばかりの董卓とばったりと出くわし、戸惑ったようである。

 しかし、すぐに、顔に喜色を浮かべて、董卓の下に駆け寄った。

「おじいちゃん! 」

 幼女の名は、董白。董卓の孫娘である。両親が病によって早くに亡くなったために、董卓が屋敷に引き取って、娘同然に育てている。

 董卓は一瞬、頬をほころばせたが、すぐに、厳しい眼差しになる。

「阿白。今、皇上に何と呼びかけた? 」

 董白は首をすくめた。

「ごめんなさい……」

「いいか。皇上をお呼びするときは、礼儀正しく、皇上とお呼びするのだ……」

「董太師! 」

 献帝が慌てて、董卓の下に駆け寄った。

「董白ちゃんを叱らないでください。僕を劉協くんと呼んで、と頼んだのは、僕なのですから」

 献帝の言葉に、董白もにこやかにうなずいて、董卓を見上げた。

「そうよ。劉協くんはお友達が少ないから、私がお友達になってあげようって。だから、私たちの間では、朕だとか臣だとかという呼び方はしないことにしたの」

「むむっ……。しかしだな……」

 董卓が唸ると呂布がすかさず間に入った。

「師父。皇上にも、対等に付き合える同世代のお友達が必要ですよ。いいじゃないですか」

「うむ……。ならば、阿白、大人がいるところでは、臣下の礼を取るのだぞ。ほれ、やって見せよ」

「はい。臣、参見、皇上」

 董白が献帝の前でひざまずくと、献帝は、董白の腕を取って、

「平身、平身」

「謝、皇上」

「そうだ。阿白、皇上とは身分が違うことを忘れるでないぞ」

 董卓の言葉に、董白はうなずくと、献帝と手をつないで部屋の中へ入っていった。


 さて、読者の皆様、二人が、この後どのような仲になるのか、楽しみですね。皆様が予感したとおり、二人はこの後、成長すると中華風後宮的ラブロマンスを繰り広げるようになるわけですが、この物語では、多分、触れないでしょう。

 まず、董卓と呂布の物語を完走することを優先することとします。

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