第6話 貂蝉ファンの皆様ごめんなさい。貂蝉のイメージも壊しちゃうかも。
弟子入りの試験というのは、また厳しいものであった。
「七日千射」と呼ばれるもので、要するに、七日連続して、昼晩千本の矢を射るというものであった。昼間だけでなく、的が見にくい夜間でも、月明かりのみを頼りにして、的を正確に射なければならない。
「弓矢は夜間に射れてこそ、意味がある」
というのが、董卓の教えであった。
戦場では夜襲するときに役立つし、敵の屋敷に忍び込んで暗殺することもできるからである。
呂布はかろうじて、「七日千射」の試験を突破し、晴れて、董卓の弟子となることができた。
その後も呂布は董卓の下で特訓を続け、今では、秘伝を授かり、
「飛将」
と称することを認められた。
飛将とは、やはり、馬術と弓術を得意とし、匈奴征伐で功のあった前漢時代の将軍李広が「飛将軍」のあだ名を有していたことに由来する。
しかし、呂布は、董卓が有する「双飛将」の称号を名乗ることは許されていなかった。
「双飛将」とは、董卓のように左右に弓を射ることができる人間で、かつ、その弓術の極意を極めた者のみが称することが認められる称号であった。
呂布は、弓を左手に持ち、矢を右手に持って弦につがえて射ることはできるが、董卓のようにその逆はできなかった。
だから、呂布は自分には、「双飛将」の称号は無縁のものだ。と考えているのだった。
さて、呂布が七日間にわたり、董卓の弓場で稽古をさぼったのは、他でもない。
董卓から、半ば強引に休暇を取らされていたためである。
それでも、呂布は、師父董卓に対して、練習をさぼったことを謝罪した。
すると、董卓がからからと笑い、人をからかうニヤリとした笑みを見せた。
「まあ、しょうがないな。わしが、ここに来るな、と言うたのじゃからな」
「はあ……」
「それでな。そなたが、七日間、稽古をさぼっている間、わしは、ある一人の者に七日千射のテストを課しておった」
「はあ? 」
「誰かわかるかね? 」
「いいえ……。俺の知っている者でしょうか? 」
「そりゃ、知っとるも知っとる。そなたが、悶々と七日間思い焦がれていたあの娘じゃよ」
「……。えええっ? 」
「貂蝉! 入ってまいれ! 大師兄(兄弟子の意味)に挨拶せよ! 」
貂蝉の成熟したばかりの胸と尻、それに細い腰は、稽古着によって隠されていた。
しかし、男と変わらない稽古着を着て、胸当てを付けた貂蝉は、凛々しさに溢れている。
つぶらな目で、呂布を見上げる貂蝉の頬は、かすかに赤らんでいた。
「大師兄。妹弟子の拝礼をお受けください」
貂蝉が跪くと、呂布が慌てて、貂蝉の腕を取って立ち上がらせる。その腕は、女性にしては、固く引き締まっているということに今更ながら気づかされた。
「貂蝉……。いや、小師妹(妹弟子の意味)。驚いたぞ」
呂布の言葉に貂蝉は、ほほ笑んだ。
「いや。呂布よ。驚くのは早い。この娘はすごいぞ。ほれ、貂蝉、射てみよ」
貂蝉の弓は、董卓や呂布ほどの剛弓ではなかったが、それでも、通常の三倍の距離の的を射るのに十分な弓力があった。
董卓の弓場は、射場を中心に三方に的場が置かれている。
貂蝉は、6本の矢を矢筒に入れると、まず、弓を左手に持ち、矢を右手に持って弦につがえて、三方に一本ずつ素早く射た。
すべての矢が正確に的に命中。
続けて、弓を右手に持ち、矢を左手に持って弦につがえたので、呂布は、
「おおっ」
と感嘆の息を漏らした。
またも、三本とも命中である。
「貂蝉、いや、小師妹。お前は、『双弓』の使い手なのか」
「はい。大師兄」
「そういうことだ。呂布。この娘は、いずれ双飛将と称されるようになるぞ。それに、お前たち夫婦が二人そろって、飛将となれば、まさに双飛将だな」
董卓はカラカラと笑うと、呂布と貂蝉を見つめた。
呂布はキョトンとしている。
「あの……。師父、ところで、華燭の典というのは……? 」
呂布の質問に、董卓はあきれ顔で答える。
「決まっとろう。呂布、そなたと貂蝉の式典だ。早う着替えてまいれ! 来客がもう入っておるのだぞ」
「は、はい! 」
呂布が貂蝉と目を合わせると、貂蝉は、恥じらいの色を浮かべた。その様に呂布は陶然となり、貂蝉の腰に手を回す。
「おっと! イチャイチャしている暇はないと言っただろうが! 」
董卓が茶々を入れると、呂布は、
「いいえ。師父、俺が貂蝉をお姫様抱っこして、着替え部屋まで連れて行った方が速いのです! 」
「ならば、急げ、急げ。途中でわしの見えないところで、イチャイチャするでないぞ」
「はい! 師父! 」
呂布が貂蝉をお姫様抱っこして駆けていく後姿を董卓は慈愛に満ちた眼差しで見送ったのだった。
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