第2話

なんだかスゴイお兄さんだった。


真っ暗闇の森の中、足元もおぼつかない状況で

他愛のないおしゃべりをしながら、何の迷いもなく歩みを進める。


そして時たま「そこ窪んでるから気を付けてね」と教えてくれる。


闇に目が慣れるというレベルではなく、普通に見えてるよね。


最初に抱えて連れて行こうかという申し出を丁重にお断りしたけど、

もしかしてその方が早く抜け出せたのではないだろうか。


今現在、お兄さんの服の端っこを握りしめながら歩いている状況に、

少しばかり申し訳なく思ってしまった。


おしゃべりが楽しくてどのくらい時間が経ったのかはわからないけど、

徐々に木々のシルエットが視認できるようになってきた。

無事に出口にたどり着けたみたいだ。


森を抜けて月の光にほっと安堵のため息を漏らす。

ただし問題はこれから。


お兄さんの情報によると、ここは首都から北東の方角にある都市だとか。

名前くらいは知っているが土地勘などは全くない。


そもそも自宅は首都から真逆の西方向にある街で、月が天辺に差し掛かる時分には

確実に連れとそこにいたのに。


なんでまた見ず知らずの土地に飛ばされたのやら。


これが旅行なら電車代浮いてラッキーとか思えるのだろうが、

流石に今は困惑するしかない。


あれこれ思案を巡らせているとふいに声を掛けられた。


「ねえねえ、お腹空かない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る