第10話 帝国 城内にて

城内を一人の老人がパタパタと走っている、その姿とその仕草は城内では見慣れたものであった、擦れ違う士官や騎士達は日常の事と微笑ましくその背中を見送り、訪問客は何事かと腰を上げた、正装の高位にある老人が慌ただしく走る様を見れば彼を知らない人間は驚くのも無理は無い、老人は法務大臣の執務室の前で一度立ち止まると息を整え扉を叩いた、すぐに法務大臣の秘書官が扉を開き老人を招き入れる、


「法務長官は居られるか?」

老人は秘書官にこの部屋の主の所在を問う、


「ガネス秘書官、城内はお静かにと御注進致しましたでしょう」

奥からカリエール法務大臣がのそりと姿を現す、その声は厳めしくも柔らかくガネス秘書官を窘めた、


「確かにお言葉は謹んで拝領致しておりますよ」

ガネス秘書官もまた口元に柔らかい笑みを浮かべた、


「息せき切っていらっしゃる程の御用件でしょうな?」


「意地の悪いおっしゃりようで、この文章の確認をお願いしたいと思いまして」

ガネス秘書官は手にした巻物を開いて見せる、


「なるほど、ではこちらへ」

カリエール法務大臣は応接室へガネス秘書官を誘い着席した、机の上に巻物を広げるとその内容を吟味し始める、


「布告文としては充分かと思いますが、私の所に来たという事は法的な確認という事ですな」


「はい、前例を踏襲した内容ではありますが、一応の確認をと思いまして」

巻物は宣戦布告文であった、朝議において開戦の期日が決定した為それに先立ち降伏勧告とその条件を含めた布告文となる、対象はグアニア族である、ケイネス族・レオパルディ族の中心部族は制圧が完了し多くの奴隷を得た、本年からグアニア族の制圧を開始し、最終的にはエルフの国、西パドメを陥落し北方平定の宿願は成就するのである。


「布告対象が不明瞭ですね」


「確かに、あの国は我々で言えば長老議会が中心である様子でして、その首魁を対象にと探りをいれたのですが不明であります、もしかしたら、存在しないのかも、ですので対象は長老議会員全員とその国家に対してとしてあります」


「条件はあの土地の返還・・・、まぁいつもの難癖・・・いや、失礼この部分には口出し無用ですな」

カリエール法務大臣は眉根を寄せ口をつぐんだ、暫く書面を凝視すると顔を上げる、

「私の立場からは修正する点は無いかと思います、しかし」

再び黙り込む、眉間には深い皺が刻まれていた、


「しかし?」

ガネス秘書官は先を促す、カリエール法務大臣とは教会時代からの長い付き合いであった、もう数十年、妻との付き合いよりも長く、思考の方向性もある程度推測できる程の仲である、


「・・・この土地の返還は、いつ見ても何とも飲み込めない」


「そうですか?」

ガネス秘書官は書面に視線を落す、


「戯言と笑ってくれて良いし、私が思慮する点ではないのだがね、・・・救世主教会臭くてね」

カリエール法務大臣はそう言って溜息を吐いた、


「まぁ、確かに」

カリエール法務大臣もガネス秘書官も元は救世主教会の教会側の人間であった、現皇帝が即位し教会改革を推し進める際に反救世主教会として皇帝側に組し、現在の聖母教会の成立に共に尽力した仲である、


「これも私が言ってはいけないのだが、救世主教会独特の覇権主義的な教義を良しとしていないからこその聖母教会の慈愛主義があると思うのだが、聖母を旗印として他国を攻めるのは、まして土地を俎上に乗せるとなると・・・」


「・・・言わんとしている所は理解できますが、この布告文は皇帝の名で出されるものです、聖母教会は関係せず、さらに聖母は旗印ではありますが象徴に過ぎない」


「分かっているよ」

カリエール法務大臣は短く答える、


「私だって元教会の人間です、あの頃のように教会が先頭に立って戦争に向かう状況では無いのがせめてもの救い、教会のみを見れば我々の求める教会になっていますし、戦争は国が、若しくは民族が主導するべきであるという点では歩調は一つになると考えますが」

ガネス秘書官は自身に語るように訥々と言葉を重ねた、


「分かっているよ」

同じ答えが返って来る、カリエール法務大臣は書面を改めて読み直し丸めるとガネス秘書官へ渡した、

「助言があるとすれば何語で送るかだな、蜥蜴共は字を持たないだろう?」


「えぇ、ですので帝国語とアーチ語それとエルフ語で送ります、合わせて軍の事務官に読み上げさせるのが適当かと」


「その3種の言語で碑文でも作るか、新しい街の中心に蜥蜴征伐記念として、気が早いかな」

口元だけで笑いを見せた、


「それも面白いですね」

ガネス秘書官はニコリと笑い、では、と短く言って退出した。


次はと廊下を走りだし突き当りの大部屋の扉を叩く、軍の執務室であった、長身の騎士に招き入れられるとボアルネ筆頭将軍とカミュ将軍が談笑していた、騎士に用向きを伝えようと口を開いた瞬間ボアルネの大声がガネスを襲う、


「どうした、ガネス、何事だ?」

室内を震わせる濁声にガネスはビクリと反応し、騎士は困った顔でボアルネを見てからガネスにどうぞと道を開けた、


「こちらの内容を吟味して頂きたく」

ガネスは将軍二人の元へ歩み寄ると巻物を差し出す、カミュ将軍が受け取り机に広げると二人の将軍は揃って書面を確認する、小さな書類を覗き込む大柄な上に武装した将軍の姿は何とも可愛らしく見えてしまう。


「布告文か、もはや定型文ですなぁ」

カミュ将軍は辛辣な感想を言う、


「大いに結構、何も問題は無い」

ボアルネ筆頭将軍の感想は簡潔である、


「であれば、宜しいかと、何事も根回しが重要でありますから」

ガネスはそう言って笑顔を見せる、まぁ座れとボアルネ筆頭将軍は目の前の椅子を顎で差した、カミュ将軍は書類に視線を落したままである、ガネスは言われるまま椅子を曳いて腰掛けた、


「西の情報は聞いているか?」

ボアルネ筆頭将軍は唐突に切り出す、


「西と言いますと、辺境大要塞ですかそれともスフォルツァ伯領?」


「どちらもですよ、今朝のあれは何だったんです?」

カミュ将軍の冷たい目がガネスに向けられた、


「まったくよ、あれが皇帝暗殺の刺客であったらどうしていたのだ」

ボアルネは一際険しい目である、


「そう言われましても、私は調整役でしかないですよ、伯爵家の封蝋である事は確認しましたし、その使者が直接お渡しするようにと言って来ればあぁならざるをえませんです」

ガネスは冷や汗をかきながらしどろもどろに弁明する、


「だからといって越権行為である事は咎めなかったのですか?」


「申し訳ないのですが朝議はあくまで朝議、実はあの会議は公的な物ではないのです」


「というと」

カミュ将軍の目がさらに細く鋭くなる、


「陛下が開催を指示されたのはもう何年も前ですが、その際のお考えとして公的な場では話せない事を語らう場として設定されております、実際に朝食を頂きながらのざっくばらんな会談が本来の趣旨でして、政に関わる者とその代理となるとあの場では断れないのですよ」


「だからといって、陛下へ直接談判等と」


「申し訳ないですが、陛下へ伝えたければ街中で出来ますでしょう、今も日課の散歩中ですよ昼過ぎ迄戻らないのではないですか」

ガネスの何とも頼りない発言に二人の将軍は黙るしかなかった、


「まして、陛下を傷つける事のできる者がこの世にいるとはとても思えません」

この意見にも二人は困ったような顔になる、至極真っ当な見解であった、


「まぁ、そのとおりだな、いや、済まない」

カミュ将軍は書類を丸めガネスに手渡す、


「今朝の件は何とも収まりが悪くてな、秘書官殿もそう思わんか?」


「・・・確かに、お二人がそう感じられるのであればそうなのでしょう」


「コロー親子に確認の報を入れようと思っていてな」

コロー親子とはスフォルツァ伯領の西、魔族との国境にあるキオ辺境大要塞に駐屯するケクラン軍団と第三セドラン軍団の軍団長である、魔族軍の侵攻は現在は落ち着いてはいるがいつ侵攻を開始するか不明であり、また小競り合いは日常であった、その為2個軍団を駐屯させ、さらにスフォルツァ伯軍が支援する形で防備を固めている。


「定期報告には何と?」

ガネス秘書官は怪訝そうに問うた、


「定期報告に遅れは無いし異常は無い、スフォルツァ伯との関係も良好と思われる、・・・が」

カミュ将軍は言葉を区切った、


「やはり一度顔を見に行くか、久しぶりに大コローと呑みたいしな」

ボアルネ筆頭将軍はそう言って腰を上げる、


「北方はどうされます?」


「貴様とギレムに任せる、蜥蜴とは本気でやり合ってみたいしな、まぁこの夏くらいは耐えてくれるだろう、辺境大要塞を視察してからでも間に合うだろうさ」


「では、将軍がいらっしゃる前にかたを付けましょう」


「言ってくれる、そうでなくてはな」

ボアルネ筆頭将軍は大口を開いて笑った、


「さらに西と砂漠の方の情報は無いのか」

カミュ将軍は思い出したようにガネスに問うた、


「・・・特には、事務官レベルでの情報ではどちらも平穏・・・は言い過ぎですね、小さな騒乱はある様子ですがこちらにまで問題が波及する段階ではないようです」


カミュ将軍はそうかと短く答え沈思する、ボアルネ筆頭将軍はその後ろ頭を睨みつつ側仕えの騎士から長剣を受け取ると腰に下げた、

「いつもの胸騒ぎか?」


「そうですね、事が起こる時は複数の事案が同時に発生するものです、あらゆる方向へ意識を向ける必要があるかと思いますが」

カミュ将軍は振り返ってそう言った、


「そうだな、どう思う秘書官、我が軍の事務総長は心配性だ、貴様もそう思わんか」


「いや、何とも・・・しかし将軍、その心配性に何度も救われたのでは無いですか?」

ガネスが楽しそうにそう言うと、


「はっ、これは言われてしまったわ、口では勝てんよ貴様らには」

ボアルネ筆頭将軍は破顔した、


「では、お二人共に御納得頂けたという事で宜しいですか?」

ガネスは巻物に目を移す、二人は同意を示した、


「ありがとうございます、こちらをアーチ語とエルフ語にて作成した上で布告の際には事務官により読み上げる必要があると考えます、カミュ将軍、その点の段取りをお願いしたいと考えますが」


「心得た、エルフ語の達者な事務官を選定しておこう、蜥蜴語を操れる者がいれば尚良しだが、私の記憶する限り・・・いないな、うん」


「用向きは済んだか?俺達はこれから国防軍の視察だ、秘書官も同行するか?面白そうだぞ」

ボアルネ筆頭将軍はソワソワと楽しそうである、


「・・・いえ、私は、お手間を取らせました、失礼致します」

ガネス秘書官はそそくさと席を立ち扉へ向かうと、


「カミュ、早く支度せい」

ボアルネ筆頭将軍の怒声が響き、宥めるような弱弱しいカミュ将軍の声がそれに続いた。


最後はとガネス秘書官は思考を廻らす、ドリール内務大臣に翻訳を頼んで、ドリュー財務大臣とダルトワ国土大臣の確認は不要だろうと結論付けると内務大臣の執務室へ駆け出した、執務室の扉を叩くと応接にはドリール内務大臣とダルトワ国土大臣の姿が在った、応対に出た秘書官に用向きを伝えるとダルトワ国土大臣の目に止まり当たり前のように同席させられる、


「ガネス秘書官少しばかり知恵を借りたい、新しい入植地の件でな」

ドリール内務大臣が頭を書きながら書類を見る、


「と言いますと?」

ガネスは身を乗り出した、


「北方入植地の二つ、農業計画の構想案がやっと上がって来てな、しかし、何とも・・・」


「農業計画ですか?それは国土大臣の・・・」

と言い掛けて隣りに座るダルトワを見るとニヤリと彼は笑顔を見せた、

「そういうことですか」

とガネスは納得した、ドリール内務大臣はその博学と人柄で相談相手として重宝される人物であり、ダルトワ国土大臣は首脳陣の中では最も年少でドリール内務大臣を師のように慕っている人物である、ちょうど国土大臣の相談の席にかち合ってしまったという事であった。


「水源が乏しいのですどちらの土地も、現地事務官の報告ですと小川が少なく大河に遠い、獣人族は農耕民族ではありませんから飲料用の水があれば良かったのでしょうし、森と林に囲まれた平地であるという事は、恐らく地面の直下は岩か石灰でしょう、さらに言えば山猫の方のカタスにいたっては丘ですからね、街、集落を築くには良いですが農耕となるとなんとも」

ダルトワ国土大臣は流麗に状況を説明する、彼は元町長であり農業開発で皇帝の目に留まった人物である、彼のおかげでここ十年の食糧事情の改善は目覚ましいものがあった、


「水源の確保の為森を切り開き計画的な溜池の建設が必要なのです、畑にしろ田にしろ水ですから、しかし・・・」


「では森の開墾と水道の建設ですか、開墾は入植者としても水道は軍が必要になりますね」

ガネスは要点を整理する、


「要はそういう事なのだがね、私が思うに入植はやや早すぎたかなと思う、現状をより整理すると街作りに力点を置いて食料の大半は国庫から出されているだろう、それは良い、しかし残党狩りが続いてはいるが森は奴等の領域である事はどうしようもない、さらに魔物も多いと聞く、冒険者が活躍している様子ではあるが、森を切り開くにはまだ危険であると認識せざるを得ないのだ、退役兵を中心とした血気盛んな入植者でもだ」

ドリール内務大臣は言葉を区切り腕を組む、


「蜥蜴とエルフが控えている以上、軍の助力は冬季中心となるし、そうなったとしても我々の権限の範囲外となる、無論計画の策定には全力を上げるが戦線の状況しだいとなると今すぐどうこうできる事は少ないと言える・・・かな」

ドリール内務大臣はガネス秘書官を見る、


「アラバスとカタスからの税収入は暫く難しいとなりますね」

アラバスとはケイネス族の中心地に作られた街の名であり、カタスはレオパルディ族の中心地に作られた街の名である、


「難しいどころか暫くはお荷物だよ、財務大臣に嫌みを言われてしまいますね、せめて自足できればと考えていたのですが」

ダルトワ国土大臣は額を摩った、

「北方戦線以前であれば帝国人を送り込めば何とかなったのですが、未開の地がこれほど悩ましいとは思いませなんだ」


「では、一旦朝議に出しますか、お二人の権限を超えるというのであればそれが速い、将軍も滞在しております、明日にでもと思いますが?」

ガネスが二人を見ると、共に眉根を寄せつつ同意した、


「では明日迄に概要と対策それと対策による結果を纏めておきます、雑なものですが叩き台にはなるでしょう」

そう言ってダルトワ国土大臣は立ち上がる、


「結局、そうなるな、これも返すよ」

ドリール内務大臣は手にした書類をダルトワに渡すと、


「で、ガネス秘書官は何用だ」

とガネスに向き直る、ダルトワ国土大臣は静かに退出した。


「こちらの翻訳をと思いまして」

巻物を渡すとドリール内務大臣はサッと目を通し、


「エルフ語とアーチ語で良いな、グアニア語に文字は無いぞ」


「はい、結構です、内容については法務大臣と筆頭将軍に確認頂きました」

ガネスは話の速さに感心し軽い微笑みを浮かべる、


「ふむ、明日の朝迄で良いかな、急ぎであれば・・・アーチ語は貴殿も解するであろう、やってみるか」

ドリールは片眉を上げガネスを見る、


「明日の朝迄で良いです、翻訳は御勘弁を、私が解するのは読みと聞くだけであります、国史に残る文章ですので、内務大臣の御助力をと考えた次第」


「そうでなくても持ってきたであろう、カオラこれを」

ドリールは自身の秘書を呼びつけると細かく指示を出す、

「アーチ語とエルフ語に翻訳して、清書の前に確認を、うん、いつもの通りに清書は2部?広報用に3部作成で良いかな」

仔細をガネスに確認する、ガネスはいちいち了解を伝える、


「空間を上手く使ってな署名は陛下のみで、この間の文書は全体の釣り合いが悪かったぞ、文書が悪い?そこはそれ上手くやるのがだな」

やや小言臭い口調になっている、


「では、お任せいたしました、宜しくお願い致します」

ガネスが腰を上げると、


「まぁ、待て私も伺おうと思っておったのだ」

ドリールは片手を上げてガネスを押し止めると席を立ち自身の机から一枚の書類を持ってきた、


「ドルノンからの密書だ、先程届いたばかりなのだが」

すっとガネスの前に書類を置いた、


「ドルノンというと、マンチーニ伯ですか、では、失礼」

ガネスは書類に目を落す、ドルノンとはマンチーニ伯領の首都であり、マンチーニ伯領は北方戦線のすぐ西側の山脈を超えた地域にあった、


「これは、マンチーニ伯の謀反?とまでは言えないですね今の所は・・・」

書類の内容はマンチーニ伯の軍の動向であった、ドルノンに集められた後市民に送られ南下するも同日の夜には北へ転進したとの事である、兵数は歩兵5000騎兵500従属2000、マンチーニ伯の手勢の3割程度であると考えられた、


「そう思うか、うん、しかし南下した後で夜の内に北上とはありえない行軍であると思う、兵数も少ない」


「なるほど、今朝の将軍からの報告ですと地方領主からの兵はまだ合流していないとの事でしたな、必要も無い・・・とも考えておられるようでしたが」


「しかし、北方制圧はマンチーニ伯の嘆願から始まった戦争だぞ、ここに来てマンチーニ伯が軍を出さないのは道理に合わない」


「そうでしたか・・・、そうですね、確かにマンチーニ伯領北側山脈での獣狼被害が発端でしたね、えぇ、思い出しました」

ガネスは恥ずかし気に額を摩った、


「獣狼と山猫は決着が着いたようなものだから興味を無くしたのかもな、あの伯爵は・・・」


「それだけであれば軍を出さないか、それとなく連絡があっても良いかとも思いますが、北上しているという事は、自領の拡幅を狙っているとも考えれらますね、アラバスが順調とは言えない事も気付いているのでは無いですか?」


「うむ、しかし、軍でどうこうできる地勢ではないのは伯爵も知っていると思うのだがなぁ」


「山脈と森ですからね、そう考えると確かに・・・獣狼の難民が流れ込んでいるとか?」


「であれば堂々と軍なり冒険者なりで対応するだろうさ、わざわざ不要な労力を掛けることはない」

不要な労力とは夜の行軍の事であろう、


「となると現時点ではなんとも」


「そうなるかな、明日の朝議に出しておこう、将軍の反応が知りたい、明日はまだいるのだろう御二方供に」


「えぇ、いらっしゃると思います、御二方と言えば」

とガネスは思い出したように言葉を続ける、

「カミュ将軍が嫌な予感がすると、先程伺いまして、西と南になります、特に西ですか」


「それはカミュ将軍ならずとも、今朝の件だろう?スフォルツァ伯か・・・」


「そうですね、例の書状も内容は分らぬままですが、陛下は確認されたとは思いますが」


「であればそれで良かろう、そのうち何らかの指示が飛んでくるのではないかな?何もなければそれで良いし」

ドリールは腕を組むと天を仰いで、

「南も警戒しておくか、どうやら春ボケが開けたらしいからな」


「春ボケですか、カミュ将軍も全方向に触覚を立てるべしと」


「全方向・・・確かにな」

ドリールはポンと膝を叩くと、


「各地方の軍と食料動向を調査させておこう、南は管轄外だな貴殿に頼む」


「はい、家令に指示を出しておきます」


二人は同時に腰を上げ、ガネスは退室しドリールは自席に着くと秘書官を呼び各所へ緊急の指令書を廻すよう段取りをつけるのであった。

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宇宙刑事が異世界に放り出されてしまったのです 今卓& @kontaku

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