第6話 帝国 教会地下にて

皇帝の姿は教会の地下にあった、騒がしい街中を通りさらに人が集まる教会の前門をどうどうと闊歩して人々が祈りを捧げる中央礼拝堂のその真ん中を突っ切ると、黄金の聖母像の台座から地下へ降りる、その姿を見咎める者は無く、その威光に触れようとする者もまた居なかった。


教会の地下には光は指さない、よって大気の流れがほぼ無い、独特の黴の匂いと湿気、篝火のすえた匂いが長年染み込んだ人の血と油のそれに相まって息苦しさを感じる程沈殿している、その澱となった重い大気を無遠慮に掻き混ぜて皇帝は歩を進めた。


いつもの場所で一旦歩を止める、地下の入り口から5番目左側の牢、教会は王国時代の城を改築された建築物であった、地下一階には地下牢が設えられており石造りの冷たい壁が広い通路と狭い独房を仕切っていた、木製の扉の上部には覗き窓が開けられ下部には床との間に隙間が開けられている、下部のそれは食事を差し入れる為の空間であろうか、さらに一目では用途の分らぬ拷問具が通路と言わず独房と言わず其処かしこに転がっていた。


皇帝は眼前の扉が破壊された牢に入ると二つ並んだ小さな石碑の前に立つ、篝火すら届かぬ暗闇に並ぶそれらの前には小さな花と少しばかりの菓子が供えられている、皇帝はその前に膝を付くと手を合わせた、暫く黙祷して立ち上がると振り向きもせず牢を出た。


皇帝は理解していなかった、その行為に何の意味があるかをである、只漫然と日々の習慣としてそうしているだけである、そうしなければならない、そうしなければ落ち着かない、それだけの理由で帝都にいる間はこの習慣を欠かした事は無かった。

何物にも縛られず何者にも阻害されない彼の、唯一拘束され祓い落すこともできない事象であった。


皇帝は踵を返すと元来た道を引き返しさらに地下への階段を降りる、地下二階以降は彼が皇帝に着いた後に新造された施設である、下水道工事のついでに掘削され補強された空間でこの施設を知る者は帝国内でも数少ない。


皇帝は地下二階に至り最奥の扉の前に立つ、地下二階もまた地下牢であった、一階のように小部屋が並んでいるがそれらは鉄格子で通路と部屋を仕切られており通路の要所には篝火が灯されている、よって牢の内側は一階に比べ各段に明るくなっており、その中に蹲る者達の様子が皇帝の目の端にも映り込んでいる、しかし彼等が皇帝の興味の対象になる事は無く、住人達もまたある者は動く者を興味深げに見詰め、ある者はただ虚ろに開いたガラス玉に皇帝の姿を写すばかりであった。


皇帝の前にある扉は分厚く縦横に大きい、重々しく存在するそれは篝火を受け黒く濡れたような表面を訪問者に向けただ屹立している、扉に装飾は無い、しかし取っ手代わりに小さな黄色い宝石が埋め込まれていた、それは恐らく存在を知らなければ見落としてしまいかねない程小さく扉そのものの存在感の中に圧倒され埋没している。


皇帝はめんどくさそうにその宝石に触れる、すると鈍く軋みながら扉は奥へと開いた、暗くより陰鬱な大気がその部屋から滲みだし皇帝を包んで通路へと流れ出し闇が大きく口を開け訪問者を出迎える、室内は真の闇である、通路の篝火が僅かにその届く範囲に明りを届けていた、皇帝はズカズカとその闇に呑まれていった、自我を剥離した住人達がそれを見送る、扉は再び重々しく動き出しその闇を閉じ込め沈黙した。


篝火も無く窓も無い地下の最奥の一室は夜より暗く闇よりも重い虚無を帝都の地下、教会の足元に顕現させる、皇帝はその中を数歩歩いて部屋の主の前に立った、部屋の主は巨大な頭部に千切れた上半身をぶら下げた一個の躯であった、天井から伸びる太い鎖で中空に吊るされており巨大な鉤爪が数か所その躯を貫き赤黒い錆色が唯一の装飾となっている。

その躯の頭部には三本の角が生えるが内二本は中ほどで砕かれ無残な残骸となり、残った一本が往時の権勢を僅かに示していた、三つある目は落ちくぼみ、だらしなく開かれた口から乾いて萎びた舌がぬっと突き出ている、太い首が千切れた上半身を辛うじてその頭に繋いでおり、上半身は胸から下両肩の先が無い、しかし奇妙な点は、その形を維持する事も困難な躯に蛆虫の類が付着しておらず、まして舌以外は瑞々しさを維持し生者と変わらぬ独特の艶を誇っている事である、さらにその躯はヒタヒタと体液をしたたり落としている。


皇帝はその躯の前に跪くと床に置いた巨大な杯を両手に掴む、それには躯から染み出した体液がなみなみと溜っていた、皇帝はその分量を見て満足気に微笑むと、杯の端から舌を差し込み舌の上に乗る分の体液をまず口中に入れた、口の中に広がる風味を空気に混ぜて臓腑に行き渡らせ声にならない感嘆を上げる、続いてもう一舐め、もう一舐めと同じ行為を繰り返し獣のように体液を摂取する、ふぅと一息吐いて杯の端に口を付けると杯を少しずつ傾け確実にそれを飲み干してゆく、虚無の中に皇帝の嚥下の音だけが静かに反響し、やがて止まった、皇帝の高らかな曖気げっぷが空間を揺るがすと杯は戻され衣擦れの音が続き扉が開く、僅かに入る明りはやがて再びの虚無に呑まれた。


「本日も御機嫌麗しく、陛下」


皇帝が地下三階へ至ると影の中に小柄な男が深々と頭を下げている、地下三階の主イニャスであった、黒の教会服を纏い束にした羊皮紙を胸に抱えている、だらしなく伸ばし放題の薄い髪、形の悪い髭面、陰気を放つ目と不健康な肌色が教会服にまるで似合っていない、皇帝はその男に一瞥もくれずに歩を進め篝火と蝋燭に囲まれた執務机に向かいドサッと席に着く、


「報告はこれか」

皇帝はイニャスの返事を待たず机上に整頓された羊皮紙を一枚手にした、そこには帝国民の使用する文字でもエルフの文字でも無い独特の文字が羅列されている。


皇帝は二枚目三枚目と流れる様に書類に目を通し、書類を一旦置いて机の前に畏まるイニャスの頭の一つ上に視線を合わせて、


「エルフとゴブリンの生産量が落ちているな」

と呟いた、


「はっ、一時的なものであります陛下、10日単位で見ますれば平均的数量であると考えます」

俯き畏まったままイニャスは答える、


「今日、城で食したエルフは不味かったぞ、あれの生産期はいつだ?」


「それは申し訳ありません」

イニャスは慌てた様子で手にした羊皮紙の束を捲る、しかし、暫く待っても答えがでないようであった、


「まぁいい、同じ生産期のエルフは像に入れる、纏めておけ」


「はっ畏まりました」

イニャスは束を閉じさらに畏まってしまう、


「それから今後ゴブリンの生産を増やしたい、北方で実戦に使おうと思う」


「それは、それは、遂に我がゴブリン軍団が陽の目を見るのですか」

イニャスは嬉しそうに顔を上げる、


「国防に送った数はどれくらいになる?」


「累計で3000で御座います」

そうかと皇帝は沈思する、


「ニュールとも相談するがどれほど生産を増やせる?」


「現状の施設ですと月300が精一杯でして、それも生産数になります、加工致しますと使用に耐えるのは100を切るかと、加工作業は鋭意精進しておりますが、良質な材も足りない状態でして」


「前線から少々廻した、近いうちに詳細報告がある筈だ、国防に届けさせる、が、それでも足りんだろうな、市場で奴隷を調達すればよいだろう」


「おぉ、ありがとうございます、前線からとなると新鮮な獣狼とエルフでしょうか、自然のままの材は有難い、しかし市場での調達はやや難があるかと存じますが」

と言葉を濁した、それもそうかと皇帝はイニャスの言葉に納得しつつ、


「エタンを呼べ、上の仕事は奴にやらせる」


「はい、すぐに」

とイニャスは机の端にある呼び鈴を鳴らした、すぐに施設の奥から教会服を纏った男が走り寄るが皇帝の姿を確認しその足を一瞬止め、頭を垂れると静々とその歩調を変えて進み出る、


「ゲール教会長をここへ、皇帝のお召であると伝えよ」

教会服の男はさらに低頭しクルリと踵を返すと上階へ足早に消えた、


「施設の件だが」

と皇帝は話題を変える、


「国防の基地を使えないか、ここは手狭であろう?」


「はい、手狭である点は否めませんが、恐れながら我々の行為は陽の当たる場所やまして衆人の目がある所ではとても」

良識的な事をと皇帝は鼻で笑って、


「国防ならその点は問題ないと思うが」

嫌なのかと続ける、


「決して嫌などでは」

イニャスは慌てて首を振る、暫し考え、


「生産施設の建設は容易ですので、生産部分だけでもそちらへ移すとすれば、こちらも広く使えるかと」

と答える、柔軟な発想であった、


「となれば、良い人材をニュールに推挙させよう、国防に教会服は似合わないからな、向うの人材で回した方が向うも都合良かろうし」

はい仰せのままに、とイニャスは畏まる、


「それとも像の効果を変えるか、少々めんどくさいな」

皇帝はイニャスに聞こえぬ声でそう呟いた、イニャスが怪訝そうに皇帝の顔を見詰めると、


「やはり国防との連絡路が欲しくなるな、下水道を利用した案があったかと思ったが」


「えぇはい、こちらにあった筈です」

イニャスは壁に設えた書類棚に向かい数本の巻いた羊皮紙を開いては閉じしながら一本の羊皮紙を手に取ると皇帝に差し出す、皇帝はそれを机上に拡げ端端に重しを乗せた、


「これも今思うと悪くないが・・・」

皇帝は立ち上がり図面を俯瞰しながら呟いた、図面には地下下水道の図とそれに繋がるように連絡路の図が表記され、地上の建築物も表記されている。


「城の連絡路の中間へ繋げる案があったと思うが」

イニャスはもう一本の羊皮紙を手渡す、それを机上に拡げながら、


「城との連絡路も拡張したい所ではあるが」

と皇帝は図面に目を落とす、


「こちらの方が現実的だな」

とイニャスに同意を求めた、イニャスははい仰せのままにと静かに答える、


「高低差と沈下が不安だな、高さが欲しいが幅は必要なかろう?」

皇帝は問う、


「はい、あぁ、しかし今後オーガやオークの研究次第によってはある程度の幅は必要かと」

それもあったなと皇帝は沈思して、


「それらの研究は国防でやれば良い、こちらで生産できたとして階段は登れないぞ」

イニャスは皇帝の言に暫しぼうっとして、


「確かにそうですな、いや、その通りです」

と今日初めて笑った、やや引き攣った笑みではあったが、


「ではやはり国防にも研究施設は設置しよう、まぁ先の話にはなるが」


「はっ御意のままに」

イニャスが頭を垂れるとゲール教会長が姿を表した、足早に二人の元に進み出ると、


「御機嫌麗しゅう陛下、馳せ参じましたゲールで御座います」

と頭を垂れる、エタン・ゲールは教会長である、聖エロー教会の長であり聖母教会の首領でもあった。


イニャスの隣りに立つとその威風がより際立っていた、引き締まった長身に綺麗に纏められた金色の髪、威厳を保つためと伸ばした髭が顔の下半分をその意にそって仰々しく装飾している、鋭く知的な青色の眼光が周囲を威圧するも柔らかに笑うその目に人はより惹き付けられる。

教会長でありながら教会服にはその権威を示す物は一切装着していない、曰く権威で仕事をしているのではないそうである。


皇帝はエタンの言に反応は見せず机上の図面に視線を落としたまま、

「奴隷の買取を教会に頼みたいのだが」

と発した、


「奴隷ですか、ええ可能ですが、教会で奴隷は必要としておりません」

と事務的に返答する、


「こちらで必要なのですよ、教会長」

イニャスが補足する、


「そういう事だ、予算はイニャスから渡す、奴隷の内容に関してもイニャスの指示に沿ってくれ」

あぁそういう事ですかと教会長は納得した、


「注意点が一つ、近々前線から大量に流入する予定なのだが帝都は奴隷そのものが飽和状態でな、地方へ優先的に回すことにしてある、よって買い付けは地方でやれ、その後の搬入作業も合わせて頼むこととなる」


「なるほど、お任せ下さい陛下、教会の総力を上げて対応させて頂きます」

そこまで力を注ぎ込まなくてよいと皇帝は言って、


「以上だ、仔細は任せた、エタンは下がってよい」

ゲール教会長を下がらせると図面を巻き取りイニャスに渡す、


「奴隷の工面が着いたら連絡路の建設と国防の施設改修をやらせるか、加工したゴブリンに土木は無理だろう?」

イニャスは困り顔でそうで御座いますねと俯いた、


「あいつらは戦力になればそれで良い」


「はい、それから先程騎士が2名城より送られて来ておりますが」

と思い出したようにイニャスは報告する、騎士?と皇帝は一瞬考え、あいつらかと思い出した、


「大部屋に安置しております」


「そうか、以上だ」


皇帝はイニャスを置いて執務部屋からそのまま続く通路へ歩を進めた、三階は通路に対して右側に大部屋が一つ左側に大部屋の半分程度の部屋が二つ設えてある。


左側の手前の部屋へ入ると甲高い破砕音と低音の摩擦音が何重にもなって皇帝を襲った、室内には煌々とした篝火が焚かれさらに蝋燭が何本も机上に置かれている、その人工的な明りの中で5人の教会服を来た男が作業に没頭していた、それぞれの座る長机には黒色の丸い岩石が詰まった木箱が幾つか重ねられている、彼等はそれを一つ一つ選別し、形成し研磨していた。


皇帝は手前の長机に座る男に近付きその手元を覗き込む、気配に気付いた男が振り返り皇帝の姿を見止め立ち上がろうとするが皇帝はその肩に手を置いて座らせる、


「よい、作業を続けよ」


それだけ言うと彼の机に整頓されている磨かれ形成された黒石の一つを取り上げた、黒石は皇帝の中指程の大きさで四角錐を二つ上下に連結したような形をしている、表面はぬめりを帯びており篝火の明りを鈍く反射していた、皇帝はそれを左手に持ち帰ると右手を翳し半眼となる、途端黒石は七色の明りを発し周囲に篝火以上の光を巻き散らした、側にいた男はその眩しさに目を覆い、他の男も何事かと皇帝を振り返る、


「良い出来だ」


皇帝は何事も無くそう言うと黒石を元の位置に戻した、その手を離れた黒石はあっという間に光を収めこちらも何事も無く机上に鎮座した、皇帝はさっと踵を返すと何も言わず退出する、作業音が止んだ室内はやがて独特の楽団に再び支配された。


皇帝は右側の大部屋に入った、その部屋は床が掘り下げられており他の部屋に比べ天井を高くしてある、大部屋には作業員が一人おりこれも教会服を来た男であるが安置された雑多な荷の管理をしていた。


一目見る限りその作業員がいない、恐らく荷の間を歩き廻っているのであろう、

「騎士はどこだ」


皇帝は誰に対したものでも無くそう虚空に問い掛けた、はいただいまとすぐに応答があり、荷の間から作業員がすっと歩み寄る、皇帝に深々と一礼するとさっと手前奥の一角を示した、


「あちらに安置しております、他の荷とは分けておりました」


皇帝はずかずかと示された方へ歩を進める、城で見たそのままの姿と表情で二人の騎士が直立していた、埃に塗れた旅装のまま顔も手も煤けている、


「処理はしておりません、御指示下さい」

背後に付き従う作業員はそう問うた、


「衣服を剥いで埃を洗い落せ」

背の高い騎士の持つ書状を手にすると中身も見ずに投げ捨てると一歩下がる、作業員は承諾し部屋の隅から水を湛えた桶と襤褸布を用意し、大きな鋏とナイフを腰に指すと書状を持っていた騎士の装具に手を掛けた、


「装具は如何致しましょう」


「好きにしてよい」


皇帝は突っ立ったままその作業を見物する、騎士は直立した状態でその装具を一つ一つ外されていきやがて脱がせる事が困難な衣服に至ると鋏とナイフで器用にその衣服も剥がされていく、あっという間に筋肉質で引き締まった肢体が露わとなる、贅肉の少ない腹部と細く逞しい四肢が若さを感じさせ、色の薄い男根は若さに幼さという彩りを添える、続いて作業員は襤褸布を水に浸し肌にこびり付いた泥汚れを落していく、胴体の肌色に比して日焼けし荒れた肌が徐々に露わになる、顔面と手それからサンダルに包まれていた足、作業員が手を休める頃にはすっかりと未成熟ではあるが逞しく篝火の中にあっても光輝く裸体が皇帝の前に屹立した。


「見事な若人だな、もったいない」

皇帝は感嘆しさてどうするかと思案を始める、作業員は続いて小柄な騎士へ手を掛けた、同様に装具を外し衣服を剥いでいく、衣服を裂く音が止み雑巾を絞る音が響いて、


「如何でしょう」

と作業員は伺いを立てる、皇帝がそちらへ目をむける、小柄な騎士は女性であった、随分小柄な騎士だとは思ったがそうとは思っていなかった為若干目を見開く、


「女か、これは美しい」

皇帝の口から素直な感想が零れ落ちる、男性に比べれば小柄であるが女性としては充分に高い背に若さを感じさせる両乳房の高さ、筋肉を内包しつつ適度な贅肉を付けた細く長い四肢と薄く細い腹部、キメが細かくしっとりとした肌は生命力を誇示するように輝いている、子供と呼ばれても不思議の無い顔立ちと短く刈った髪型が調和してその魅力を増していた、


「女騎士とは、ハイランダーも趣味が悪い、いや、あそこはそんなもんか」


皇帝は口元に薄い笑みを浮かべ暫く女体に目を奪われているがすっと歩みより各部を検証する、手指から腕、鼻と耳の穴、瞼を抉じ開け瞳の色を確認し、口を開くとその歯列を見て舌をほじくり出す、背に触れつつ臀部の肉感を試し、両腿から足先、陰部の翳りと尻穴、両腕を上げて脇の下と、その目は一切の瑕瑾を見逃すまいと鋭さを増していた、幾つかの黒子と無骨な両手に眉を顰めるが概ね満足した様子である。


「良いものだ、石を持て」


作業員は一礼して足早に壁面の棚に向かうと布を張った木箱を手にしこちらですと差し出す、木箱には大小様々な黒石が配置されていた、先程加工されていた品と同一の物で篝火を受けヌメヌメとその表面がざわめいている。

皇帝は一瞥し人差し指で黒石の表面に微かに触れながら選定を始め木箱の中では小さめの一つを摘まみ上げる、それを一度口に入れ舌で表面の滑りを愉しむと中指と親指でその両端を挟み篝火に翳した、黒石をじっくりと鈍くねめつけると黒石は徐々にその内側から発光を始めやがて白くその全体を輝かせる、皇帝は満足気に頷き女の胸の下、体幹の中心へゆっくりと黒石を埋め込んでいく。


初めて女は反応を示し僅かに眉根が寄って呻きとも非難ともとれる吐息が洩れた、しかし皇帝の手は止まらずやがて黒石は体内に埋没する、その箇所には傷も跡も無い、同様に両手首、両足首に黒石は埋没されその度に女は呻き声を発した、最後に大きな黒石を手に取ると同様の手技を経て女の口中へそれを含ませた。


「宮へ運べ、侍女に体毛の剃毛、膀胱と腸内の洗浄、それから肌を磨き上げておくよう伝えよ、傷を付けたら罰を与える事も付け加えてな」

かしこまりましたと作業員は承諾する、


「男の方はそうだな、豚を用意しておけ、雄の大型のものが良い」


「豚ですか、はい、今日中には御用意致しますが」


「これと一緒に処置室へ運んでおけ、これは我をも超越した男らしいからな」

皇帝は無表情にそう言った、女騎士への処置中に何やら思い浮かんだらしく、


「これには神となってもらおうと思ってな」

と続け鼻で笑った、作業員はその真意が分からず気の抜けた返答を漏らし、すぐさまに謝罪の意を示し畏まる。


「他に良い荷はあるか」

皇帝は部屋の奥を窺う、何体もの人影が篝火に照らされ微動だにせず屹立していた。


「申し訳ありません、昨日の入荷は中年の男ばかりです、本日の荷は午後に入る予定でありますが」

そうかと皇帝は答え踵を返すと退室した、作業員はその背を深々とした一礼で見送り扉の閉まる音と共に大きく吐息を吐いた。

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