プロローグ 帝国

老人は微睡から覚めた、老人がこの世界に来てから熟睡等という贅沢からは縁遠く、この日も老人は薄い眠りと願望の入り混じった夢を行きつ戻りつしつつ朝を迎える事となった。

夢に戻りたいと老人は思う、仲が良いとは決して言えない娘夫婦の嫌味たらしい声と愛らしくも小憎らしい孫の声を夢の中では聞けるのだ、それも馴染み深い母国語で、天井の低い狭い部屋で食卓を囲む夢に帰郷の願いを駆り立てられた、


「懐かしい」

老人はそう呟いた、目尻から涙が落ちる、実年齢と乖離した肉体をそれはジワリと耳まで濡らし耳朶に溜まる。

老人は天井を見上げる、朝日が透ける白い天蓋に室内プールの照り返しがさざ波のような泡のような影を映し出し老人の朝を寿ぐ、朝であった、老人は朝迄眠れたようである。


老人は上体を起こした、意識と身体の乖離を感じる、ここ数年その差はより顕著に感じられる、体調が悪いわけではない、気分が優れないというわけでもない、まして身体は快活に動き、声も意識も往時のそれ、いやそれ以上だとさえ感じる、ただ、不愉快なのだ、ただただ不愉快なのであった。身体に引き摺られていると感じる瞬間が存在し、魂が置いて行かれる恐怖を感じる、時折己の背中を己が見ていると錯覚する、その背中も声も顔も自分の思い描いた自分のそれではなく、狭量で感情的な若者のそれである。


老人は我知らず溜息を吐いた、その瞬間、老人の意識は薄れ皇帝の意識が目覚めた。


「陛下、お目覚めですか」


年の頃は7・8歳であろうか、宮の一人がグラスと水差しを盆にのせ音もなく側に寄る、その姿は下穿きのみのほぼ全裸であった、健康的な白い肌と朝日を照り返す金髪に青く澄んだ瞳が理知的に輝く、美しい少年である。


「サイアスであったか、水を・・・」


「かしこまりました」


サイアスと呼ばれた少年はグラスの半分程度に水を注ぎ、それを寝台の男へ手渡す、男はそれを嚥下すると寝台を降り室内プールへ歩み寄る、適当に伸ばした頭髪を掻きむしりながら冷水に浸かり、サイアスを呼びつけた。


「清拭せよ」


「かしこまりました」


サイアスは盆をサイドテーブルへ置き、男の背へ歩み寄るとプールサイドから素手で男の身体にこびり付いた汚れを落としていく。男は中肉中背で筋骨逞しいわけではなくかといって肥満体でもなかった、肌の張りがやや失われてはいたが壮年の健康な特質する事の無い身体である、サイアスはその独特の臭気を放つ汚れを細心の注意を払い落としていく、背が終わると、水へ浸かり両の腕、胸元、両足とその身体を清めていった、最後に股間へと手を伸ばすと、汚れを一通り落としたのを確認した後、水へ潜るとその男根を咥え込み舌を器用に蠢かす。男のそれは反応を示し徐々に硬化膨張しやがてすっかり怒張した。

サイアスが息継ぎの為顔を上げると、


「もう、よい」


男はそういって立ち上がりプールを出る、サイアスは慌ててベッドサイドからローブを取り上げ恭しくその背に掛けると帯を閉めた。


「秘書官を執務室へ、それとここの始末をしておくように」


「かしこまりました」


サイアスはそういって畏まる。

男は濡れた足跡を残し隣室へと姿を消す、サイアスはそれを会釈のまま見送った。


サイアスは隣室の扉が閉まる音を聞き、ほうと安堵の溜息を吐く、今朝は男からの叱責は無く褒められもしなかったが、男は自分の拙い奉仕を喜んでいたようだ、すくなくとも男根はそう言っていた、いつかお喜び頂ける日がくるだろうかと、奉仕の喜びに頬が緩む、と同時に研鑽が必要だなと自分を戒めサイドテーブルの呼び鈴を振った、すぐさま少女が一人寝室へと入ってくる、


「お呼びでしょうか」


少女は面を伏せたまま傅いた、この少女もまた下穿きのみのほぼ全裸である、


「わたしが呼びました、秘書官を執務室へお呼び下さい。それと清掃員を」


「かしこまりました」


少女はすっと立ち上がり退室する。それを見届けたサイアスは召使用の棚からタオルを取り出し己の身体を拭き上げると、汚れ物用の籠を手にし寝台へ向かう、寝台から上掛けを取り外し手早く纏め籠の中へ、異臭が鼻につく、男の汚れと同じ臭気であった。


寝台にはあらぬ方向に首を捩じられた裸の少年が歪な恰好で横たわっていた、口元から大量の涎、しまりの無くなった排泄器官から糞尿が垂れ流され、光を無くした両目は苦悶の為か飛び出している。

昨晩の遊興の残滓であった、男の夜伽の名残である。

サイアスはそれを恍惚と見詰める、寝台の少年はサイアスの友人であった、宮に召し上げられたのは1年程度前であったか、庭園で戯れ共に食べ共に寝た間柄であった。サイアスとは違い真っ黒い肌と黒く固い巻き髪、黒真珠のような大きな瞳を持ち、すらりと長い手足と幼年ながら引き締まった肢体が美しく、剣での遊びも駆けっこも双六遊びでさえ彼には勝てなかった。

それが今は何も言わぬ肉塊となり捨てられた人形の様を寝台に描いている、サイアスはその手にそっと触れた、冷たく弛緩した肉の中に凝り固まった芯の存在が感じられる、滑るようにその腕を撫で上げ、醜く膨れた首筋を伝って頬に触れる、血涙が凝固し滑らかな肌ざわりから一転ザラザラと指先を苛む、変色し口中に収まっていない膨れた舌にサイアスは思わず口づけすした。

見事な死に様である、絞首の苦しみか、窒息の苦しみか、はたまた力任せに捩じられた無力さか、見事な苦しみの様を体現している、されど尚美しいとサイアスは感じ羨望の思いでその死に顔を胸に抱いた。


暫くして先程の少女が現れ、サイアスの側へ歩み寄る、


「樽を用意してあります、お手伝い致しましょうか」


彼女の言葉にサイアスは恍惚の無想から緩やかに脱し、


「・・・ありがとう、お願い致します」


そう言ってサイアスは少年を寝台に横たえ、慣れた手つきでその遺体をシーツで包み込む、


「そちら側を・・・」


少女は下半身側をサイアスは上半身側を抱え退室する、廊下には目を潰された宦官が二人木樽を抱え控えていた、その木樽に少年を詰めると、


「後はいつも通りに、洗い物は後ほど」


とサイアスは少女へ伝える、少女は宦官の首輪に繋がれた鎖を掴み、かしこまりましたと宮の裏口へ2人の宦官を曳き去った、小柄で全裸同然の少女に獣のように扱われる宦官の姿はいつ見ても酷く滑稽である。

寝室に戻ったサイアスは残った洗い物を籠へ纏めベッドメイクを済ませた。


長い冬を終え春らしくなってきた清浄な朝の出来事である、サイアスは軽い労働の喜びと奉仕の法悦に包まれ、寝台の横に跪くとこの部屋の主アングレーム帝国皇帝、エマニュエル・キオ・アングレーム・ヴィルシェーズ一世の御名をそっと呟くと、流れるように胸に3つの線を引き、感謝を込め祈りを捧げるのであった。




「失礼致します」


扉を2度ノックし聞き耳を立てていると入室を促す声を辛うじて聞き取れた、ガネス秘書官は軽く深呼吸し重い扉を開け呟くようにそう言って入室する。


早朝だというのに光の無い部屋の中央に前時代的な床に寝そべるソファーが敷いてありそこに皇帝キオ一世が横臥していた、独特な香とソファーの四方を囲む蝋燭の灯が儀式めいた陰鬱さを強調し空気が一段重く感じられた、ガネス秘書官はゴクリと唾を飲み込む、いつ来てもこの部屋の威圧感には慣れなかった。


「参上致しました陛下」


腰を折り曲げたまま主の元に歩み寄るとその足元へ跪く、


「今日の議題は」


皇帝はこちらを見ずにそう問い掛ける、その視線は空を飛び部屋の入り口上部へ飾られた絵画へ向いていた。


「はい、獣人掃討・・・北方開放戦の状況報告がボアルネ筆頭将軍より、ドリュー税務大臣より本年の予算配分案の提示、スフォルツァ公爵からの嘆願書となっております」


「嘆願書とは」


「スフォルツァ公爵より使者と共に昨日届けられました、朝議会の場にて開示するよう公爵のご要望です」


「・・・ふん、税が高いか兵をよこせか・・・わかった」


やれやれといった感じで皇帝は立ち上がると、


「着替えて向かう、朝議会は始めていてかまわん」


「はっ、そのように」


ガネス秘書官は再び腰を折り曲げたまま後退ってドアに尻をぶつけ、失礼致しますと後ろ手に重い扉を開け退室した、扉が閉まり切ると安堵の息を漏らしゆっくりと腰を伸ばす、さてとと独り言ち朝議会の開かれる食堂へと足早に歩き出す、その頭の中では議題の討議順についてキリキリと組み換えが進んでいた。


それでとキオ皇帝は食堂の上座に鎮座する、五人の行政大臣及びその秘書官、三人の将軍、皇帝付き秘書官が一人、書記官が二人通常通りの朝議会のメンバーである、秘書官は食卓に付かず各大臣の背後に控え、記録を取りつつ時折大臣に耳打ちをしている、書記官は廊下側に設えた専用文机に向かい忙しく手を動かしていた、いつもの光景である。


「はい、ボアルネ筆頭将軍より戦線報告の途中です」


司会を務めるガネス秘書官が定位置である皇帝座の隣に移動し説明する。


「進めてくれ」


キオはそういって背を椅子に預けた、


「うむ、では改めて」


ボアルネ筆頭将軍はゴホンと咳払いし、ワインを一口飲み込むと、手元の羊皮紙に目を落とす、先程までぞんざいに操った言動を改めようと羊皮紙を睨みながら言葉を探している様子であった、ややあってボアルネは言葉を続ける、


「ギレム将軍よりの伝書となります、現在我が軍はタホ川の終わりとタンガ川の始まりの地にて越冬し、命令あればグラニア族領への進軍を待つ状態であります。また越冬中にタホ川を渡る大橋とこの地への軍団基地建設を完了した事を報告致します。つきまして下記の三点について御支持を頂きたくとの事です」


ボアルネは一度言葉を切り列席者の顔を伺う、


「一つ目、大橋と軍団基地の正式名称について、二つ目、作業に使用した奴隷と新たに確保した奴隷の輸送及び奴隷の販売手法について、三つ目、進軍について」


再び言葉を切り、ボアルネはキオ皇帝に視線を移す、皇帝は無感情に腕を組み天井を見上げていた。


「以上三点について、特に一点目と三点目は陛下の裁可を仰ぎたく、朝議会にお持ちした次第です」


ボアルネはそう言って発言を締め括るとにワインに口を付ける、皇帝は特に反応せず天井を見上げるままであった。


「それでは、皆様から御意見、御質問があれば発言をお願い致します」


ガネス秘書官が列席者の発言を促す、主に文官へ向けて発せられた言葉であった。


「こちらへ送られる奴隷の数は如何ほどになりますか」


ダルトワ国土大臣がテーブルに手をついて腰を上げボアルネを見詰める、


「報告によると獣狼雌雄合わせて8128、山猫雌雄合わせて307、エルフ族男性のみ582、年齢の報告はありませんが未成年は数に含んでいないと確認しております」


ボアルネ筆頭将軍に代わり隣席するカミュ将軍がそう答えた、手元に資料は無く、実にスラスラと正確な数字を並べ上げる、ボアルネはうんうんと頷いて見せた。


「ふむ、かなりの大人数ですな、輸送手段なぞカミュ将軍であれば既に勘案済みかと思いますが、私としては奴隷価格の暴落が心配する所であります、その数であれば輸送前の根回しが必要ですな、納得致しました」


ダルトワ国土大臣が席に座りなおしてそう言った、


「然り、北方開放戦の開始から、帝都での奴隷登録数が増え過ぎております、治安の悪化と衛生面の不安が懸念されますな、ここは地方への分散及び、南への販売も考えてみては如何ですかな」


ドリール内務大臣の発言である、長い髭を左手で弄びつつの言葉である、落ち着きが無いように見えるがいつもの事として列席者は気にも止めていない。


「まずは、」


と言ってカミュ将軍が手を上げる、


「いつも通り、軍によって一旦買い上げようと考えております、奴隷売買は兵への大事な追加報酬ですし、あの土地には奪う富が少ない、販売金額の即時支給は兵のやる気に関わりますゆえ、その上で信頼できる奴隷商へ転売しようと考えます、その競り市を帝都と考えておりましたが、地方へ送るとの事であれば、軍団基地から直接そちらへ移送した方が効率的で良いかと思います。場合によっては軍団基地にて競り市を執り行っても良いのですが、軍団基地への行商は娼婦と軍需物資と決められております、そこで軍としては帝都への移送とその売買迄と考えておりました」


「となると、競り市から帝都の商人を締め出しますか、そうすれば自ずと地方と他国へ流れると考えられますが」


ドリール内務大臣の発言である、


「いや、それは難しい、帝都商人の反発が目に見えるようです」


ダルトワ国土大臣は明確な懸念を表明する、


「法的にも難しいですな」


言葉少ないカリエール法務大臣の言である、独り言のように聞こえるそれは重く食堂に響いた、


「では、価格を決めてしまいましょう」


場にそぐわない明るい声が空気を変える、ドリュー財務大臣である、


「商品構成を見る限り、価格設定は難しくないし、年齢による価格の変動にさえ気を付ければ、奴隷商も納得する価格は付けられます、兵への支払いに対して損を出す事も無い。帝都での販売価格の下落が不安であればなおさらこちらで価格を決めておいて購入数を地方から募集致しましょう、その上で帝都を経由し移送するか、帝都にて荷を渡しても良い、前者なら移送料を取り後者なら表示価格のまま、奴隷の質について少々異議はでるでしょうが、そんなものは実際使ってみなければ分らんもんです。事務処理の短縮、会計処理の短縮、良いことづくめですな。あぁ、但しエルフ族の販売は競り市が妥当かと考えます、彼らの職能は有用ですし個別に判断した方が良いですからな」


一気に捲し立て言葉を切る、


「購入数の募集を取る際に希望価格を提示させても良いかもしれませんな、それで最も良い値段の商人から優先して販売しましょう、競り市に掛ける程儲からないですが、特別報酬としては妥当な価格での取引となるのではないですかな」


思いついたようにそう言って目を輝かせたまま列席者を見渡す、元商人らしい案であった。

列席者は楽し気に案を提示するドリュー財務大臣の陽気に当てられ苦笑いを浮かべる、しかし反論するほどの意見も無く、沈黙が続いた、それぞれがそれぞれの立場に合わせ思考しているが、対案らしいものは無さそうである。


「であれば、先に価格を提示させ、引き渡し量を確定し、入る金額を決めてしまいましょう、その上で兵からの買い上げ額と軍の取り分を算出すれば損をする事も無い」


ドリール内務大臣が隣席のドリュー財務大臣に語りかける、それも良いですなとドリューは明るい声で返答する、根が明るい男なのである。


「うむ、軍部としては、兵への報酬が増える分には良い、如何かなカミュ」


「はい、特に本案に反対する点はありません、但し我々としては金銭の授受は簡便に行いたい、僻地での行為でもありますので、そこで、案を折衷しまして、現場では私の提案した方法で一旦兵に支払い、こちら側、奴隷商との売買益に関しては別途還元する方法を取りたいと考えます、恐らくそうしなければ現場からの輸送迄時間が掛かり過ぎる、そう考えますが」


カミュ将軍は冷徹に言葉を紡ぐ、


「確かに、商人とのやり取りだけで一月は欲しくなる、その期間中に帝都へ一旦輸送しておくのが手っ取り早い」


ドリュー財務大臣は快活に答え、するとダルトワ国土大臣に向き直り、


「詳しくは国土大臣のお仕事になりますな、相談には乗りますぞ」


と柔らかく微笑む。


「いやいや、財務大臣に商務部門もお任せしたいですよ、分りました、獣狼と山猫についてはそのように、エルフ族については通常の入札へ廻しましょう」


ダルトワ国土大臣も柔和に受け取り、背後の副官へ何事か指示を出す、


「それでは、カミュ将軍、奴隷の到着時期を別途打合せ致しましょう」


「了解した、現時点では糧食の輸送隊をそのまま奴隷の輸送隊にしようと考えております、奴隷の数が増えた為、当初見積もっていた糧食では足りませんでして、輜重は既に立っておりますが、兵への支払い金額を持たせた隊をすぐに立たせましょう、それから時期が確定するかと考えます」


ダルトワ国土大臣の言葉にカミュ将軍は事務的に返答する。


そこで、キオ皇帝が口を挟んだ、


「獣狼の全年齢を均等に100、山猫も同様に、エルフ族は若い順で100、国防で引き受ける、価格は商人価格の平均、エルフ族は市場価格の平均で」


列席者全員の視線が皇帝に集まる、皇帝は尚腕を組み天井を仰いでいた。


「ニュールそのようにな」


「はっ、畏まりました」


ニュール国防大臣が末席にて立ち上がる、


「ダルトワ国土大臣、カミュ将軍、受け取り時期の打合せに同席致します事お願い致します、またその席で価格の提示等頂ければ幸いです」


ニュール国防大臣は慇懃に言って着席した。


呆けたように二人はあぁわかった、と返答し、会議は不思議な沈黙に包まれた。


ガネス秘書官はゴホンと咳払いし、


「それでは、えぇ、議題の二つ目、奴隷の輸送については軍部に一任、販売方法については、カミュ将軍、ダルトワ国土大臣、が中心となり主に地方の奴隷商人への販売、国防部への引き渡し分はニュール国防大臣がその場に加わると、宜しいですか」


ガネス秘書官は出席者を見渡す、異議はないようだ。


「それでは順番に行くと一つ目の、橋と軍団基地の名称ですが、ご意見はありますか」


その言葉が終わるか終わらないかで給仕が盆をもって入室する、音もなく皇帝の前に皿を差し出し、その側に小皿を置くと一礼して退室した。

皇帝に給仕された朝食は鹿であろうか豚であろうか腿肉であるのは判別可能な、生の肉塊である。


「それは儂が決めよう」


皇帝は小皿の岩塩を肉塊に削りかけながらそう言った、


「大橋の着工に手を掛けたのはボアルネだったな」


「はっ、もう8年前になりますな、北方への足掛かりとして着工致しました」


「儂が見たときは筏を繋げただけだったな、懐かしいぞ」


「最初期ですな、現在は石造りの堅牢なものになってますぞ」


ボアルネ筆頭将軍は誇らしげに胸を張る、


「では、ボアルネ大橋で良かろう、異論はあるか」


今日初めて列席者を見渡す、皆特に異論はなかった。


皇帝は肉塊を両手で掴み噛り付く、血抜きが充分で無かったのか、噛り付くほど鮮血が迸った、見る間に皇帝の顔と衣が赤に染まってゆく、


「すると、維持保全に掛かる費用もボアルネ筆頭将軍にお任せしてよろしいですか」


ダルトワ国土大臣の発言である、


「それは待て、大橋までの街道敷設も考えておる、その際の後援者に被せても良かろう、大橋の管理と街道の管理を共に予算計上して、名のみ残すように取り計らえ、いずれにしろ」


と皇帝は言葉を切りさらに肉塊に噛り付く、何度か咀嚼し嚥下すると、


「北方平定迄は軍の管理にせざるをえまい、街道の路線も決めてないしな、ボアルネ、面倒だから街道敷設の後援者にならんか」


皇帝は恐らく冗談交じりにそう言った、


「はっ、光栄の至り、その際はいの一番にお声がけくだされば」


ボアルネ筆頭将軍は恐縮する、


「金次第だな、他の貴族共も名を残したい者もいるだろうし、ダルトワその際にはボアルネに一報を入れよ、まぁ」


再び肉塊に噛り付き咀嚼し嚥下する、既に半分程を平らげていた。


「維持管理を検討するのはまだ先だな、それと要塞については、ギレムの名を冠してやれ、現状はどのような開発状況なのだ」


皇帝はカミュ将軍へ視線を向ける、


「はっ、大橋と共に要塞部もほぼ完成しております、陛下の提案頂きました星型要塞であります、しかしその二つを優先した為軍団基地は後回しになっており、木杭の壁に簡易テントが主体となっております、平たく言えば野営地に毛が生えた程度でございます」


「そうか、北方平定後中央都市に育てたい、あの地は荒野の監視にしても北方の監視にしても都合の良い地勢だ、要塞はギレム要塞か・・・なかなか良い名であろう」


「おお、ギレムも喜ぶと思います、恐悦至極でございます」


ボアルネ筆頭将軍は己の事以上に喜びを示す。


「ふん、名前負けせぬように軍団基地の計画も進めておけ、宿営地も併せてな」


皇帝は意地の悪い笑みを浮かべる、早急にとカミュ将軍は短く答える。


「それでは、ボアルネ大橋とギレム要塞にて決定致します、ダルトワ国土大臣、ではそのように公式決定として処理願います」


ガネス秘書官は纏めに入り、ダルトワ国土大臣は了解したと後方に控える秘書官と何事か打ち合わせ、


「公告は明日にでも、各領主への通知も順次立たせます」


宜しくお願い致しますとガネス秘書官は答え、


「続きまして三つ目、開戦時期についてですが」


ガネス秘書官はボアルネ筆頭将軍へ向かい、


「仔細について説明をお願い致します」


「まぁ、そのままですな、奴隷の処置が決定してから大規模な遠征にしようと考えておりました、ですので先程の兵への支払いが終わり、輸送を開始しましたら開戦は可能かと、ですが、正式な期日を皇帝より賜りたいと考えます」


ボアルネ筆頭将軍は皇帝キオへ向き直り、


「陛下、沙汰をお願い致したい」


皇帝は肉塊をすっかりと平らげ残った骨を二本に割り断面から骨髄を吸いだしていた、


「・・・、ボアルネに一任しても良いかと思ったが」


咥えた骨片を皿に置き、


「そういえば兵は足りているか、貴族どもは戻っておらんだろう」


「現在兵数としまして、重装歩兵500、軽装歩兵8000、騎兵500、傷病兵は1000程度となっております、残党討伐と奴隷確保の為軽装1000を放っておりますが、開戦の折りには集合させる予定であります」

カミュ将軍が答える、


「攻城兵器は必要か、グラニアのゲッコーナだったか、城塞は無いにしても都市攻略にはなるんだろう」


「はい、現地にて投石器を5基、岩塊を150用意させました」


キオ皇帝はニヤリと笑い、


「抜かりないな、さすがだわ」


「お褒めに預かり光栄でございます」


カミュ将軍は慇懃に答え、ボアルネ筆頭将軍は誉め言葉に破顔している、


「ニュール、動かせる軍はあるか」


キオ皇帝は末席へと視線を移す、存在感の薄いフードの男を見詰めた、釣られて2人の将軍もそちらへ視線を移す、


「国防軍としましては、兵は充分でございますれば」


「それは、余っていると」


「西方荒野側の2つの要塞、帝都の防衛以外の兵としまして傭兵3000、奴隷兵3000、騎兵200これは傭兵でございますが確保しております」


列席者から呆れとも感嘆ともとれぬ曖昧な溜息が漏れる、国防軍としての兵力を正式な会議の場で開陳されたのは初めてであった、


「うむ、であれば」


とキオ皇帝は、幾つ欲しいとボアルネ筆頭将軍に問いかける、ボアルネは眉間に皺を寄せ思案する、カミュ将軍も同じような面相である、


「失礼ながら陛下、合戦にて使える兵ですか、それらは」


ボアルネ筆頭将軍はあからさまな渋面でそう問い掛ける、キオ皇帝はその顔を一瞥し、左手をゆっくりと掲げる、すぐさま先程のメイドが音も無く走り寄る、皇帝は何事か指示を出すとメイドは会釈の後音もなく退室した。


「ニュール、詳細を説明してやれ」


「はっ、国防軍として陛下よりお預かりしております兵についてお話致します」


ニュールはフードの奥に顔を隠したまま皇帝の言葉を受けて話し出す、


「国防軍で雇っている傭兵については、その出自、性別についても様々、西方荒野の要塞にて所謂冒険者として経験を積んだ者になります、それゆえ魔族との戦闘については卓越したものがありますし、荒野の魔物についても同様であります。次に奴隷兵ですが、こちらは同胞が中心となりまして、獣人、エルフ等は所属しておりません、男性成人のみの構成でありまして、奴隷兵と呼称しておりますが、戦闘訓練については皇帝軍と同等のものを積ませております、訓練教官としてガエタ卿とクリエル卿に参画頂いております」


朝議会の場において常に寡黙であったニュールの饒舌に列席者は驚きを隠せなかった、


「傭兵については年契約、奴隷兵については35歳迄の行軍義務を課しておりまして年季が明ければ、開放する契約としております、その装備としましては傭兵はそれぞれの自由、奴隷兵は帝国軍軽装歩兵と同様の物となっております。また奴隷兵については逃亡防止としまして所有者である皇帝名の入った首輪を装着させております」


ニュールはそこで言葉を区切り、グラスへ手を伸ばす、普段から言葉を発しない人間なのであろう、慣れない長口上に声が擦れていた。


「使えそうか?ボアルネ」


なお渋面を崩さないボアルネ筆頭将軍にキオ皇帝は尋ねるが、その渋面は変わらず眉間の皺はより深くなっている、


「帝都の防衛と今しがたおっしゃられたが」


おずおずとカリエール法務大臣が言葉を発する、


「それは近衛と内務の仕事ではなかったか、いや、精強な軍にて帝都が守られるのはまことに結構な事と思いますが、その初耳であったものですから」


丁寧に畏まった言葉選びにカリエール法務大臣の性格が現れている、それは私から良いですかとギース近衛隊長が右手を上げた。


「カリエール法務大臣の疑問は当然かと思います、第一第二城壁は我々、第三城壁と街道警備は内務というか警備隊で、という事を公然としておりましたから、実は一年ほど前より業務の一部に国防軍を参加させておりまして、これは陛下の発案で御座いましたが、近衛軍の後衛として奴隷兵を活用しております、近衛はどうしても重装と騎兵の数が増えますので、端的に言えば大変重宝しております」


するととドリール内務大臣が声を上げる、


「もしかしてと言ったら失礼か、近衛より紹介のあった傭兵軍は国防軍の物であったのか」


「然り、内務に対して活用をお願い致した傭兵軍ですが、国防軍の物であります」


ドリール内務大臣はその言葉を聞き、あからさまに不快な表情を浮かべ、


「そういった事は先にお知らせ頂きたかったですな、ギース卿」


やや険のある言葉を使い、わざとらしくギース近衛隊長を貴族呼びした。その言葉にどこ吹く風と涼しい顔で、


「はて、現場に於いての評判は上々だと伺っておりましたが、何せ魔物と魔族に対して特化した傭兵軍ですからな、警備隊は所詮退役兵の集まり、街道警備は傭兵軍に一日の長がありましょう」


「確かに、現場の声は聞いておるし、おかげで入国管理に人を回せるのも事実であるが、そういう意味ではない」


ドリール内務大臣は尚不快感を露わに声を上げる、ギース近衛隊長はやれやれと呆れた風に目を伏せ、


「全ては、皇帝の意のままに」


そう言ってキオ皇帝へ向き直り、その言を促す。列席者の顔が皇帝へ向かい、皇帝は曖昧な笑みを浮かべ真っ赤に染まった口元を鷹揚に袖で拭いつつ、


「国防軍の詳細を知らせなかった点は許せ、形になるかどうか分らんかったのだ、まして現場で使えるかどうかもな」


一旦言葉を切り続ける、


「先も言ったが冒険者上がりと奴隷だぞ、もともと冒険者などと嘯く連中の失業対策のつもりで組織した私兵だからな、冒険者なぞチンピラと変わらんだろう」


違うかと皇帝は列席者に同意を求める、


「しかしだ、組織してみたら、中々に使える連中であったからな、では現場ではどうかとギースに一肌脱いでもらった次第だ、奴隷については盾代わりになれば御の字程度よ、ギースは上手く使っているようだがな、まぁ、どちらにしろ組織下での運用となれば馬鹿と鋏だ、長たるお前らが使えないとなれば儂が使うだけ、儂の私兵だからな」


そういう事だと言い切ってキオ皇帝は踏ん反り返る、列席者は言葉も無く沈黙している、それぞれに思案している様だが特に発言する者も無く静寂は続いた。


「では、議論を進めましょう」


ガネス秘書官は列席者を観察しつつ沈黙を破る、


「ボアルネ筆頭将軍、国防軍からの兵は如何に致しますか」


「皇帝の意を汲みまして、それぞれ1千ずつお借りしたい」


「どう使う」


ボアルネ筆頭将軍の言葉に皇帝は即座に反応した、


「傭兵軍の1千を獣狼と山猫の残党狩りへ、奴隷兵1千は正規軍へ組み込み前線へ、要塞・・・ギレム要塞の守備に500程度残したかったのでその補填に有用かと」


「ふむ、妥当だな、ニュール対応せよ」


「はっ、承ります」


ニュール国防大臣は畏まり一礼する、


「それでは開戦については、諸々を勘案して一月半後を目途にせよ、どうだ」


皇帝はカミュ将軍へ問い掛ける、カミュ将軍は暫し思案し、


「宜しいかと思います、ボアルネ筆頭将軍如何でしょうか」


カミュ将軍は隣席へ問いかける、踏ん反り返るボアルネ筆頭将軍は依存無しと答え鼻息を荒くした。


「では開戦時期については本日より一月半後、増援について国防軍より手配されるものとします」


ガネス秘書官は端的に纏め、


「では次に、スフォルツァ伯爵からの嘆願書となりますが」


と続けて一同を見渡し、


「スフォルツァ伯の命により、嘆願書は使者2名と共に送られてまいりました、朝議会の場にて開陳するよう申しつけられておるそうです、本来であれば甚だ非礼であると考えますがどのように対処致しますか、まずはその点から御意見を頂きたいと思います」


「非礼?、無礼だろ、なんだ独立宣言か宣戦布告か、蛮族崩れのド田舎モンが何をとち狂っておるんだ」


ボアルネ筆頭将軍は激高し、今にも立ち上がり剣に手を掛けそうな勢いである、


「まったくです、廊下の見慣れぬ兵はその者達でしたか、スフォルツァ伯も存外卑しい人間だったようで、いや、生まれがそうさせるのでしょうな」


カミュ将軍が追随し、列席者それぞれが拒否の旨を申し立てスフォルツァ伯への非難の声で場は賑やかになる。


「わかりました、では使者は追い返し、スフォルツァ伯には事の釈明を求めましょう」


ガネス秘書官は纏めに掛かると、いや待てとキオ皇帝がそれを遮る、


「面白い余興ではないか、偶にはこういった刺激も欲しいものだ、ガネス、使者を呼べ」


皇帝の鶴の一声で場は沈黙し、使者はその役を全うできる事になった。

ガネス秘書官は承知しましたと一礼し、使者の控える廊下への扉を開ける、一言二言ガネスは使者と会話を交わし、踵を返したガネスに続き使者は食堂へ招き入れられた。


使者二人は埃まみれの旅装のままであった、ガネスに指導されたまま目を伏せテーブルの端にて直立不動に屹立し声が掛かるのを待つ、ガネスは皇帝の隣へ歩み寄ると列席者を一望した後に使者へ発言を促した。


「この度は朝議会の場にて発言の場を賜りました事・・・」


使者の二人は口上を述べつつ顔を上げた、長大な食卓に帝国の重鎮が居並ぶ、その一人一人を瞬時に観察しその場の緊迫感が危機的状態である事を理解した、列席者はその事務官も含め敵愾心に満ち満ちた瞳で使者を睨みつける、使者の眼前にいる人間達の唯一人として友好的な視線の持ち主がいなかった。生きた心地がしない、背筋が寒くなり全身から冷たい汗が吹き出し、言葉が口から出てこない。なんとか言葉を絞りだそうとするも思考は止まり脳内に白い靄が広がるばかり、やっと喉が動いたと思えばそれは呻き声に似た呻き声であった。


「前置きは良い、嘆願書とやらを読み上げよ」


最奥に鎮座し踏ん反り返る男がそう言った、キオ皇帝である、使者は一目その様を認識し混乱した、心地良く爽やかな初夏の朝である、冬がようやっと終わり陽の当たる場所は汗ばむ程の、気難しい神々さえ陽気になる一日の始まりである、ましてこの場は帝国の心臓部である最高意思決定機関の筈である、その場で血塗れの衣を纏い、口元から胸元迄朱色に染まった最高権力者の威容に呻き声さえ腹の奥に沈んでいった。


「どうした、場は設えたぞ」


田舎者がと吐き捨てられた、使者は皇帝の姿に絡めとられた己の視線をどうにかこうにか悪口の主に向ける、ボアルネ筆頭将軍の姿を見止め、締め付けられた喉元が微かに緩み忘れていた呼吸が再開された、口腔から肺へ乾燥した空気の塊が落ちては上がってくる。使者はかつて彼の指揮下にて参戦した事があった、騎兵ではあったが兵卒である、騒音に包まれた戦場で兵を鼓舞するボアルネ筆頭将軍の重く強靭な声を使者は忘れた事が無かった、その声が今自分を面罵している、その双眸が殺気を抱えた苛立ちを直に叩き付けてくる。使者はどうにか眼を瞑り大きく息を吸った、3迄数え眼を開く、


「失礼致しました、それでは我が主君スフォルツァ伯爵よりの嘆願書を読み上げます」


使者は懐より巻物を取り出しその封蝋を列席者へ掲げる、スフォルツァ伯爵の印璽が確認された。使者は恭しくその封を剥がし巻物を縦に拡げる、とその瞬間食堂の奥厨房へ続く扉が開きメイドが奴隷を連れ現れた、紙面越しにその光景があまりに異様であった為、使者は再び言葉を失う。


奴隷は奴隷というには卑しすぎる出で立ちであった、手枷と足枷に加え猿轡が噛まされた上にその両目には杭が穿たれ光を無くしていた、さらに全裸である、衣を纏わず白き肌と金色に輝く長髪が無骨な戒めにより際立って輝いて見える、胸元には所有者を記した木製の鑑札が頼りなげにぶら下っている、それが彼女を奴隷と証明してくれる唯一の証である、エルフ族の少女か、使者に理解できたのはそれだけであった。

メイドは皇帝に奴隷を届け一礼して退室する、


「どうした、文字も読めんか」


ボアルネ筆頭将軍の苛立ちが室内を満たし、列席者もそれに倣うように声にならない声を押し殺す、使者は尚言葉を扱えず少女の姿を注視していた。皇帝は慣れた手つきで少女の頸根を掴み頭頂部に顔を埋め香りを楽しむと、その小さな頭をむんずと掴みあらぬ方向に捻じ曲げる、骨の砕ける音が微かにしたかと思うとそのまま捩じり続け少女の頭は4度使者に正対して皮と肉の千切れる音共に頭と胴は呆気なく別れた、ボタボタと小さな頭から血が滴るが皇帝はそれを頭上へ掲げ大口を開け喉を潤す、ゴクゴクと嚥下の音が響き、頭部の血が切れると胴体の千切った頸根へ齧り付く、海老の頭に吸い付くように皇帝はその鮮血を吸い続けた。


「これは一体どういうことですか」


使者は震えた声でようやっと言葉を捻りだす、誰に向けての言葉であったのか、使者本人にも分らなかった。


「何がだ」


ボアルネ筆頭将軍は苛立ちを抑えず、今にもその剣に手が掛りそうな勢いである。使者は隣に立つ同僚を伺う、彼女もまた衝撃を受けていた、血の気の曳いた顔に見開いた瞳は皇帝を捉えたまま離せず、外套の裾を掴んだ手が微かに震えている。


「これは、この場は一体どういうことですか」


使者は再び問うた、今度はこの場にいる全ての人への言葉である、意識して皇帝と皇帝のその行為から視線を外し、居並ぶ重鎮を睥睨する、その顔はそれぞれに苛立ちと困惑と不機嫌さを表に表しているが、それは皇帝の行為に対してのものではなく、全て自分に向けられたものであった。


「訳が分からない、この場は帝国の、この国の中心の、その中枢の朝議会と聞いた、違うのか?あんたらは一体何をやっている」


使者はより混乱し、この場から一刻も速く逃げ出すべきだと本能が警告している。


「だから、何がだ」


ボアルネ筆頭将軍はいよいよ腰を上げ、剣の柄に手を掛ける、


「ここは、近衛の仕事です」


ギース近衛隊長がすっと立ち上がりボアルネ筆頭将軍を抑えると、部屋の四隅に控える近衛兵に目配せする、


「ギース、そのままで良い」


皇帝が口を開いた、満足そうにげっぷを一つ吐き、新たな血に塗れた顔を袖で拭う、頭の無い少女の亡骸はいまだその手を離れず、魂の抜けた頭は皿の上に無造作に転がっている。


「貴様ら、ハイランダーか?」


皇帝の眼が一瞬輝き使者を射竦める、使者はその眼光に囚われ、すっと全身から力が抜け落ちた。


「はい、我々はハイランダーでございます」


と先程の狂騒が嘘のように従順に答えた、混乱も恐怖も無い無感情な一言に皇帝は、


「そうか、しょうがあるまい、二人を捕縛し教会の地下に送れ」


それだけ言って再び亡骸にしゃぶりついた。


「畏まりました」


ガネス秘書官は呆っと立ち尽くす使者を近衛兵に命じ拘束する、二人は抵抗する事無く人形のように連行されていった。


「なんの、茶番だまったく」


ボアルネ筆頭将軍は一連の騒動にあからさまな不快感を隠さずワインを煽る、


「失礼致しました、本日の朝議会の予定は以上になります、他懸案事項等ある方は発言をお願い致します」


ガネス秘書官は冷静に会議の纏めに入った、発言は無く会議の終わりを宣誓する。


「本日の議事録は午後一番に各秘書官へお届け致します、異議修正があれば本日の夕刻までに皇帝秘書室へお願い致したく思います。それでは、解散致します」

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