第11話

「殿下、そのままで構いませんのでとりあえず人目のつかないところに移動しましょう」

「……」


ブリューゲル公爵が話しかけるが彼は微動だにしない。


そのままでいいって⁉︎どうしてですか?

私はこの密着状態から抜け出したいのに⁉︎

そしてなんでさっき名前で公爵様のこと呼んでたのに?なんで無視するの?


「あー…、たぶん今の状態だと嬢ちゃんの言葉しか聞かないと思うぞ?」


えっ⁉︎そうなの⁉︎

男の話によると薬が影響しているらしい。憶測だが私の言葉なら受け入れる可能性があるという。

さっきの私の頼みは聞いてくれなかったから本当なのかなぁ…


ブリューゲル公爵は額に手を当てて

「…メイアール令嬢。申し訳ないが殿下に私の言ったことを伝えてはもらえませんか?」

「…わっわかりました…」


正直、私が王太子様に頼んでここから移動してくれるかはわからないけど腕をポンポンと叩いて頼んでみる。


「あのー…、移動しませんか?」

「…っ、わかった」


よかった。聞いてくれた。

と安心した次の瞬間身体がフワッと抱き上げられさっき見ていた風景が変わっていた。


やっと状況を理解した時には、私はお姫様抱っこされており、見上げると王太子様の顔があった。


ち、近すぎる⁉︎

なんとか抜け出せないかともがくが、意味がなかった。


「なっ!嬢ちゃんの頼み事は聞いただろ?」

捕らえられた男が楽しそうに言ってるけど、そういう問題ではない。私はこういうのは望んでないよ⁉︎


それは公爵様も一緒だったようで目を丸くして驚いている。

王太子様はそのままスタスタと歩き出してしまったのでわたしは慌てて、


「じっ自分で歩くので降ろしてくださぁい!」

と叫んでもガッチリとホールドされたまま歩いていく王太子様。


いったいどこに連れて行かれるの⁉︎

流れるような感じだったので、一瞬呆けていた公爵様も理性を取り戻して


「!メイアール令嬢。イグニスの間と殿下に伝えて下さい!」


公爵様が場所を伝えてくれた。

それとなく王太子様に伝えてみたのだが、向かってる場所はわからない。


後ろから2人も着いてきてくれているようなので、王太子様と2人っきりになるということは避けられそうだけれどこの状態他の人に見つかったらマズイと思う。


この中庭は生垣があるから人目にはつかないけれど、ここをぬけたら王宮の回廊だ。

ちょうどパーティー会場と休憩室がある場所なので人通りがある。

貴族社会は噂話が広まるのが早いので誰にも見つからず乗り切りたいところだが大丈夫だろうか?


今の王太子様に周りを気にしてくださいと言っても無駄なような気がする。

案の定、一度も立ち止まることもなく生垣を抜け、回廊を進んでいった。


幸い人通りはなく誰にも会わずに回廊を進んでいき、私が連れていかれたところは全体が茶色で統一された部屋。

テラの間だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る