第二十二話 攻撃

 帝国軍の姿は、俺を驚かせた。




 まず、人数がえげつない。


 十万人くらいいるんじゃないだろうか。




 だが、人数がえげつないことくらいは想定していた。それ以外に驚かせる要素があった。




 なんと、帝国軍はきれいに魔法陣の形に並んでいるのだ。


 


 外縁部に大楯をもった兵がならんでいて、その内側で何千人かのロープを頭上に掲げた人によって魔法陣が作られていた。


 中心には、比較的軽装な人たちが集まっていて、何やら杖のようなものを掲げている。たぶん、あの人たちが魔法陣に魔力供給をしているのだろう。


 ど真ん中にはテントがはってあった。あそこに幹部とかがいるのだろうか。




 すごい団結力だ。まるで、前世にテレビで見た集団行動みたいだ。きっとたくさんの訓練をつんでいるのだろう。




 俺は魔法陣の内容を知ろうと、分析してみた。


 大部分が俺の知らない形が使われていたが、一部の知っている形をみるに、どうやら防御結界みたいだ。




 屍兵のやつではないようである。


 ちょっと残念だけど、まあそりゃそうだよな。


 あんなに目立つように使ったらすぐ他国にコピーされちゃうし。




「すごいだろ」




 ダラスに声をかけられ、俺ははっとした。


 見れば他の三人も同じ反応。


 みんなで見入ってしまっていたようだ。




「はい。平時であればずっと見てしまうくらい壮観ですね」




 俺は魔法陣の知らない形の部分を記憶しながら答えた。




「今からあれに魔法を撃ちこむのかぁ……」


 


 イアが手を前にだして広げたり握ったりしている。




「父様から話は聞いてたけど、実際に見るとすごいな!」


 


 ラインは両手を握りしめて興奮している。




「ラーラスのものより大規模ね」




 フレイは腕を組んで感心している。


 それぞれがそれぞれの反応をしていた。




「いや~~軍隊ってのは遠くから見る分にはどこのものもきれいなんだよな。しかも帝国のやつは特に整ってるって言われてるし。まあその分訓練も過酷らしいが」




 ダラスの言う通りすごくきれいだ。


 まあこれから俺が魔法でぶち壊すんだけど。




「それで、いつ攻撃を始めますか?」




 俺は、魔法陣を一通り覚えたあと、ダラスに聞いた。




「ん? ああ、ロエルが準備出来次第初めていいぞ」




「分かりました。じゃあイアは万が一反撃が飛んできたときに迎撃する準備をしといて」




 イアが頷いたのを確認してから、俺は帝国軍に視線をもどした。


 とにかく大規模で目立つ魔法ねぇ……


 とりあえずまずは結界を壊しますか。




 俺は右手を前に突き出し、手の平を帝国軍に向けた。


 そして、真ん中の魔法師が集まっているところに狙いを定めつつ、魔力を操作した。




 属性は雷。さらに光と陰を付与しまくって火力と射程を上げていく。




 狙いの正確性と射程を重視したら、ビーム系統がやりやすいが、森の中の味方も巻き込んでしまうので使えない。


 ということで、矢を作ることにした。


 放物線をえがくようにとばせば森を巻き込まずに攻撃できる。




 イメージはケラウノス。


 ゼウスが使うギリシャ神話最強の雷の矢だ。




 そして魔法を組み終えた。


 詠唱したとしたら二十五節くらいになるだろう。


 つまり、神威魔法である。


 転移魔法陣ほどではないが攻撃魔法としては込めたことがない量の魔力を込めた。


 俺の右手は今にも爆発しそうなくらい光っていた。




「今から撃つから、俺の前に立たないでね」




 俺がそう言う前からみんなは右手の光にびびって下がっていた。


 これで巻き込まれる心配はないだろう。




「はあっ!」




 俺の右手から、一本の光の矢が放たれた。


 光の矢は衝撃波を周囲に発生させながら、帝国軍目掛けて放物線をえがいて高速で飛んで行った。


 途中、何本かの背の高い木に触れたりもしたが、それらは最初からなかったかのように消し飛んだ。




「どわっ!」




 俺は反動で思いっきり後ろに吹っ飛ばされたが、後ろで待機していたダラスが俺を受け止めてくれた。


 俺はダラスに抱えられながら光の矢を見つめた。




 やがて、もうすぐで帝国軍に着弾するというところで、光の矢は止まった。


 結界に受け止められたのである。


 不可視の壁に突き刺さる光の矢の下で、魔法師が慌てて魔力を補充しているのが見える。




 しばらくして、光の矢ははじけた。




 それと同時に、周囲に電流がほとばしり、結界を完全に消滅させた。


 余波で兵を吹き飛ばしたため、きれいだった魔法陣もぐちゃぐちゃだ。 


 結界の外にいた兵士は、地面に倒れ伏し、無事だった者もパニックになっている。




 …………




 自分で撃っておきながら、俺は魔法の威力に震撼した。


 精々結界を壊せたら万々歳で、一発で壊すのも厳しいだろうと思っていたので、こんなにも敵に被害を出すとは思っていなかった。




 しかも結界に減衰された上であれなのだ。


 結界を狙わなければ核兵器クラスの威力がでていただろう。


 これは気軽に撃ってはいけない。




 敵をビビらせるという目的は達成できたが、今日だけで一体何人殺してしまったのか……




「えい!」




 イアの声で俺は我に返った。


 顔を上げると、正面に何発もの火の玉が迫っていて、それをイアが水の障壁で迎撃している。


 敵の魔法師が反撃してきたのだ。




 まあ当然である。


 今は戦争中だし、あんなに派手に魔法を撃ったので、位置も簡単に特定されただろう。


 ここは日本とは違う。ぬるい考えではこちらが殺されてしまう。


 俺は気を引き締めなおした。

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