第二十一話 出撃
俺は、領主様の話に承諾した。
だが、出撃する前に聞くことがある。
敵兵についてだ。
「出撃の前に、一ついいですか?」
「なんだね?」
「ここまで来る途中に、何度か敵兵に遭遇しました。特に問題なく対処はできたのですが、敵兵がちょっと異常でして、あれはいったい何ですか?」
「え! ロエル、あれを見ちゃったのか!」
ダラスが目を丸くして驚いた。
まああれは自分の子供に見せたくないよな。
「はい、火魔法で瞬殺しましたけど」
「すごくきもちわるかった」
イアも隣でコメントしている。
領主様は少し考えこんだ。
「そうか……もうそこまで村に近づいた者もいるのか」
「ええ、まあ数人だけでしたから、本隊からはぐれて偶々たどりついちゃったんでしょうね」
フレイが補足した。
領主様は顔をあげた。
「ふむ、防衛の方の人員を増やしておこう。
……ああ! 人が足りん!
……ゴホン
それで、敵兵についてだったな」
一瞬取り乱したように見えた。
相当大変なようだ。
「実はあれは帝国の国家機密故、私もあまりよく知らないのだが、何かの魔法みたいだぞ」
魔法、前世で言うところの死霊魔法ってやつか?
なんか魔法って聞いたら興味出てきた。
どうにかやり方を盗めないだろうか。
「帝国はあれで、倒しても蘇り続け夜だろうと無休で動き続ける兵を量産している。
わたしたちはあれを屍兵と呼んでいるのだが、戦ってる側からしたら悪夢みたいなものだ。
帝国が大きくなったのもこの力によるところが大きい」
なるほど、つまり帝国は魔法で作ったゾンビ、もとい屍兵を使って持久戦でも仕掛けてくるのか。
だから領主様は俺に本隊を叩かせて先に敵を疲弊させようとしてるのかな。
「分かりました。ありがとうございます」
「これで話はすんだな」
「私からいいですか?」
フレイが発言した。
「何だね?」
「さきほども人手について悩んでいらっしゃいましたが、どうして援軍は来ないのでしょう?
王都からは来ないにしても、近隣の村と協力とかできたでしょうに……」
「…………」
領主様は黙ってしまった。
何か話せないような理由があるのだろうか。
「……すまない。これには理由があるのだが、士気にかかわる故、今は話せない」
「分かりました」
士気にかかわる理由か。
じゃあ見捨てられたりでもしたのかな?
「これでもう話はないな。ではロエル君、場所はダラスに伝えてあるからダラスについて行ってくれ」
「よしロエル、父ちゃんが守ってやるからな」
「分かりました」
ダラスが部屋を出たので、それに俺とイアが続く。
「俺たちも行くか」
「そうね」
「え? ちょ、ちょっと待て」
ラインとフレイもごく自然について行こうとしたら、領主様が止めた。
「イリアーナはともかく、なぜラインとフレイシア嬢まで行くのだ?」
「え、なぜって逆になんでロエルとイアは良くて俺たちはダメなんですか?」
「いや、お前はロエル君とイリアーナとちがって魔法は使えないだろ。フレイシア嬢に関しては怪我をされたらアレクシア様になんて言えばいいんだ」
まあ遠くから魔法ぶっぱするのにラインとフレイがいても何の意味もないよな。しかも二人は貴族の子供なわけだし、ついてこられたらダラスの心労が計り知れない。
「だって、領民と友達が戦ってるのに自分だけ安全なところにいるなんてできないですよ。それに、いつも父様は領民を守るために戦えと言ってますよね」
「ふふん、うちの父様なら、戦争中に引きこもってる方がホルザーク家の恥だと怒るわよ」
「…………」
おいおい二人とも、領主様だって疲れてるんだ。あまり困らせるなよ。
そして、この世界の貴族はどこも戦闘狂になる教育をしているのか?
「……もういい、好きにしろ」
「「イエイ!」」
ああ領主様、ストレスで自棄になっちゃった。
「ダラス! くれぐれも怪我をさせるなよ!」
「え~~~~!!」
ダラスに飛び火してるし。
まあダラスよ、強く生きてくれ。
ということで、俺たちはダラスに続いて出撃した。
大人一人に子供四人がついていく。平時であれば、遠足みたいだ。
________
俺たちはダラスを先頭にして、森の向こう側にいる敵の本隊を狙える高台を目指して森の中を走った。
突然、がさっという音が聞こえたと思ったら敵兵が飛び出してきた。
森の中に入ってからちょくちょく遭遇している。これで拠点をでてから五度目の交戦だ。
どうやら敵も味方も森の中に散らばっているらしい。
今回の敵兵はまだ屍兵化していなかった。
「はあ!!」
ダラスが右手に持った直剣を斜めに振り下ろした。
「ぬわ!」
敵兵は鎧を着ていたのにも関わらず肩からバッサリ切られ真っ二つになった。そしてダラスは出来たばかりの死体を蹴って道を開けた。
俺は横に飛ばされた死体に火魔法を放って塵一つ残さず焼却した。こうしないと後で復活されるからな。
さっきから戦闘はダラスが一撃で切り殺して俺が焼却するというワンパターンだった。
しばらく走って、目的地に到着した。
周りより少し高くなっていて、少し木が邪魔だが、森を抜けた先が見える。
ここからなら遠くの的も撃ちぬけるだろう。
ということで、俺は的、つまり帝国の本隊を探した。
それはすぐに見つかった。
見つかったというか、目を奪われた。
帝国の本隊の姿は、すごく俺を驚かせた。
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