第二十話 帝国兵

「じゃあ早速父様の所に行こう!」




 ラインの号令に従い、俺たちはリリを使用人に預けた後、領主様のいる森近くの拠点を目指した。


 一応のため、全員俺特製の隠ぺいの魔法陣付きマントを装備している。


 屋敷を出て、二列になって走った。




 村人のほぼ全員が屋敷か森にいるため、村を歩いているのは見張りのわずかな衛兵しかいなく、静まりかえっていた。




 途中、村をでて森の近くを通った時に予想外なことが起きた。


 突然森の中から男が飛び出してきたのだ。


 俺たちと男は少しの間互いに見つめあった。




 男の見た目は鎧を着ていて、右手に槍を持っていた。


 鎧に描かれた紋章はラーラスのものではない。


 それはつまり……?




 男は帝国の兵士だ!




 たぶん本隊からはぐれてしまったのだろう。


 男は慌てているように思えた。




「わああああああああ!!」




 突然男が叫びをあげて襲い掛かってきた。


 俺たちに降りかかる明確な殺意。


 訓練の時とは全然違う。




「「「「きゃああああああ!!」」」」




 俺たちも悲鳴をあげた。




 俺は思わず、男に向けて高水圧ビームを放った。


 高水圧ビームは鎧をあっさり貫通した。


 男を通して向こう側の景色が見える。




「あ?」




 ドサリ




 男は一瞬固まった後、崩れるように倒れ、痙攣の後に動かなくなった。


 男を中心に、地面が赤く染まっていく。




 …………




 やってしまった。


 俺たち四人は驚きで動けない。


 初めて人の死体を見たのだ。この年齢で。


 魔獣の死体は大丈夫でも人となると精神的ショックがやばい。 




 しかもやったのは俺である。


 戦争だから仕方ないとはいえ、殺人の経験など前世を含めてもない。


 俺は必死に吐き気を押さえた。




「……いこうか」




 ラインの声で俺たちは我に返った。


 そうだ、早く領主様のもとへ行かないと。




 南無阿弥陀仏……


 せめて安らかに眠ってくれ。




 俺たちは死体の横を通って前に進んだ。




 が、そう簡単に事はすすまなかった。




「ゔゔゔゔ」




 突然後ろで声が聞こえ、俺たちは振り返った。


 そこでは、衝撃的で不思議なことが起こっていた。




 なんと、さっきの男がもぞもぞと動き出したのだ。


 まさか、生きていたのだろうか。


 いや、体に穴は開いたままなのだ。


 さすがにこの世界でも体の真ん中に穴が開けば死ぬだろう。




「ひっ」




 フレイが小さく悲鳴をあげた。


 俺たちは恐怖で再び動けなくなった。




 男は体の穴からいろんなものを流しながら立ち上がった。


 目に光はない。とても生きているとは思えない。


 これは、ゾンビという奴だろうか。




「きゃああああ」




 イアが上位風魔法を放った。


 渦を巻く風の刃が男を切り刻む。


 男はばらばらになり、もはや人型ですらない。




 だが、そんな姿になっても、各パーツがミミズのように暴れていた。


 すさまじい生命力である。


 上位魔法でも完全に滅することができないようだ。


 相性もあるかもしれないが。




「これでもくらえ!」




 俺は儀式雷魔法をそれに放った。


 俺の手から放たれたプラズマビームは、それを消し炭にした。


 燃やせば倒せるようだ。


 肉が焼けたにおいがあたりにまった。




「はあ……はあ……」




 身体的なけがは全くないが、精神に絶大なダメージを受けた。


 初の殺人だけでもきついのに、殺した人が復活して襲ってくるとか、まじでやばい。


 帝国兵はみんなこんな感じなんだろうか。




 試しにフレイに聞いてみた。




「わ、わかんないわよ! 帝国に何か秘術があるってのは教わったけど……もしかしてそれかしら」




 へ~~


 帝国の秘術だったらなんて悪趣味なんだ。


 作った奴はサイコパスにちがいない。




「は、早く行こうぜ。父様に聞けば何かわかんだろ」




 ラインは早くこの場から離れたいようである。


 俺もそれには同意なので、素早く移動を再開した。 




 ________




 しばらくして、拠点に到着した。




 拠点までの道のりで、さらに三回ほどゾンビと遭遇したが、上位火魔法で瞬殺してきた。


 顔がなかったり、下半身だけだったりして、すごく気持ち悪かった。




 拠点は、森と村の間にある砦だ。


 周りをケーセネス家の私兵が囲って守っている。


 その中の一人にラインが話しかけた。




「父様はどこだ?」




「おや? ライン様じゃないですか。ロエル君を連れてきたんですね。エルフォード様は奥にいらっしゃるから、ついて来てください」




 その人は顔なじみの門番さんだった。




「よろしくお願いします」




 門番さんに連れられて、俺たちは砦の奥に入った。


 螺旋階段を上り、四階の大きな部屋の前で門番さんは止まった。


 そして、扉をノックする。




「失礼します! ライン様がお見えです!」




「入れ!」




 中から領主様の声が聞こえた。


 門番さんが扉を開けてくれたので、俺たちは中に入った。




「よく来てくれた」




「お、ロエル、やっと来たか」




 なんと、中にはダラスもいた。




「え? 父さん? なんで?」




「まあとりあえず座ってくれ」




 領主様に促されたので俺とイアが領主様の正面の椅子に座り、ラインとフレイが領主様の隣に座った。




「こんにちは。ラインに呼ばれたので参りました。ラインから話は聞いています。相当人が足りていないようですね。それで、俺は具体的に何をすればいいんでしょうか」




 俺は早速本題に入った。


 今も森では戦っているのだから時間は大切だ。




「話が早くて助かる。君には後ろで控えている敵の本隊を攻めてもらいたい」




 え、敵本隊を壊滅させろと?


 さすがに厳しくね?


 遠くから大規模魔法撃つにしても敵だって何か対策してるだろ。




「えっと、まあ最善は尽くしますけど、なかなか厳しいと思いますよ?」




「なに、別に無理に敵にダメージを与えなくてもいい。とにかく派手で大規模な魔法を撃ってもらえればいいんだ」




「なるほど。つまり威嚇ということですか?」




「まあそういうことだ。こちらに凄腕魔法師もしくは魔法師軍がいると思わせてほしいのだ。ついでに補給を妨害してくれると嬉しい。敵が一時的でも下がってくれたら万々歳だ」




 まあ敵もいきなり大魔法が飛んで来たら警戒するだろうしな。


 大量虐殺になるかもしれないので気はすすまないが、ビビらせるくらいなら多分できる。




「分かりました。やってみます」

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