第十九話 帝国襲来

 あれから、しばらく経った。




 不審者の容姿を教えた後は、特に俺がかかわることはなかったが、最近頻繁に避難訓練をやっているあたり、なんとなく状況が察せられる。


 そして、ついにその時がきた。




 カンカンカーン!




 俺が家で家族と朝ごはんを食べている時だった。


 村の各所に設置された警報の魔道具が音を発したのだ。


 狩人や衛兵などの戦闘が得意な者は広場に集まり、俺みたいな子供や戦闘が得意でない者は領主様の館に集められた。


 日頃の訓練のせいか、みんな行動が早い。




 続々と村人が集まってきて、屋敷内はぎゅうぎゅうだ。


 全ての村人の避難が終わると、領主様の妻、つまりラインの母親が屋敷内の壇上にあがった。


 ラインと同じくオレンジ色の髪の毛を肩のところで切りそろえた気の強そうな女性だ。




「みなさん! 今、我らが村に帝国の蛮族どもが攻めいってきています! しかし……」




 遠いのであまりよく聞こえない。


 ダラスは兵として行っちゃったけど無事に帰ってくるのかな……。ダラスは村の中ではかなり強い方だけど、心配だ。昨日がダラスの最後の晩餐だったとかなったら笑えない。


 セーラは衛生兵として教会の方へ行った。




 リリを背負いながら人ごみに紛れてぼーっとしてたらイアがやってきた。




「ロエルー-!」




 俺の名前を叫びながら飛びついてくる。その後ろではイアの母親がほほえんでいた。




「ちょ、ちょっと急にどうした?」




「うううう~~」




 リリを背負っていることもあって俺が後ろに倒れそうになるのを踏ん張ってこらえていると、イアのお母さんが話した。




「エリックとかが兵としていっちゃったから不安になっちゃったのかしらね。まあロエル君の近くにいれば落ち着くでしょ。じゃあ私は衛生兵のお手伝いしてくるからよろしくね」




 な、なんて無責任な。


 まあでも人が足りてないっぽかったし、仕方ないか。


 さっきから次々と大人が屋敷から出てっているし。


 これは俺たち子供も駆り出されるのは時間の問題か。




 つーかなんで援軍とかこないんだ?


 帝国が攻めてきそうってのはわかってたんだから他の村と共同で兵を集めたりとかできただろ。


 国対国の戦いなんだから王都とか大都市からも派遣しろよ。




 しばらくして、イアが泣き止んだ。




「落ち着いたか?」




「うん。ロエルはダラスさんとか心配にならないの?」




「いや、心配はしてるよ。でも信じてもいるからな。それに最悪死んでさえいなければ俺が回復魔法でなんとかできるし。だからイアも今は信じて待ってなさい」




「ふ~ん。ロエルは強いね」




 イアと話していたら、人ごみの中からラインとフレイがでてきた。フレイはなにか疲れた顔をしていて、ラインは目を輝かせている。




「はあ~やっと見つけた……」




「おお! こんなところにいたか! 探したぞ!」




 むむ! ラインのあの顔、さては何か企んでいるな!?


 今はリリもいるから面倒事はマジ勘弁なんだが。




「フレイにラインだ! おはよう!」




「よお~ライン。お前は領主様の息子だし、大変そうだな。邪魔したくないから失礼するよ。じゃあな」




「ちょ、ちょっと待ってくれ!」




 俺が速攻でその場から離れようとしたら、案の定止められた。


 ラインの手が俺の肩をがっちりホールドしている。




「どうしたロエル? 冷たいじゃないか。俺とお前の仲だろ?」




「…………」




「なあロエル、ちょっと提案があるんだが……」




「嫌だ! ぜったいこんな時にお前からくる提案とか碌なもんじゃないだろ!」




 俺は逃走を図るがラインが結構な力で掴んでいるので抜け出せない。


 本気出せば普通に抜け出せるがそんなことをすれば背中のリリが危ない。




「そんなこと言わずに聞いてくれよ」




「嫌だ。それに今はリリを守らないといけないんだ」




「それなら安心してくれ。家の使用人が責任をもって預かろう」




「ほら! やっぱり危険なことなんじゃないか!」




「な~に、ちょっと俺たち四人で帝国兵をぶっとばすだけさ。お前なら余裕だろ?」




 やっぱそういう話か。まさに正義感が強く好戦的なラインが考えそうなことだ。




「そんなこと勝手にしていいわけがないだろ」




「それなら問題ない。父様の許可は得ている。いや、むしろ父様からもお願いしていた」




 は? あのおじさん、いい人だと思ってたけどとち狂ったのか?


 きっと戦争となると相当仕事が忙しくなるんだろう。


 それともラインの嘘か? きっとそうにちがいない。




 俺が訝しんでいると、フレイが説明してくれた。




「あのね、ロエルって父様から魔法師の軍に匹敵するって言われるくらいの実力なのよね。それってつまり、現在この村で戦争において最強なのはロエルなの。次点でイアかな。最強が六歳とかすごく情けない話だけど」




「つまりそんな実力者を屋敷にただ置いておくわけにはいかないと」




 まあそうだよな。俺とイアが上級魔法を連発できるのは時々訓練を見ていた領主様もよく知ってるからな。


 でも、子供を戦力に数えるとは、そうとう人手が足りないようだ。


 まじで援軍とかないんだろうか?




 ふむ。




「イアはどう思う?」




「え、私? う~ん、お父さんの助けになるならいいかな。」




 なるほどね。イアは乗り気と。


 まあ遠くから隠れて攻撃すれば安全だし、やってみるか。




「仕方ない、やってやろうじゃないか」




「ロエルならそう言ってくれると思ってたぜ」

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