第十八話 報告
俺はダラスとともに領主様の館に来ていた。
門の所まで行き、顔なじみの門番に話しかける。
「こんにちは」
「おや? ロエル君じゃないか。それに、ダラスさんも。こんにちは」
「こんにちは。今、領主様の都合は大丈夫でしょうか? ちょっと報告したいことがありまして」
「わかりました。今、伺ってまいりますので、少々お待ちください」
そして門番は屋敷の中に入っていった。
しばらくして、門番が使用人を連れて戻ってきた。
「あまり長い時間でなければ大丈夫だそうです」
「報告だけなので、すぐ済むと思います」
「では、ここからはこちらの使用人について行ってください」
「ありがとうございます」
俺たちは、使用人の後ろについて屋敷の中に入った。
思えば中庭までのルートなら何度も通って覚えているけど、それ以外の部屋には入ったことがなかったな。
途中、ラインにでくわした。
「お、ロエルじゃないか。ここで見るとは、新鮮だな」
「ラインフォード様、お客様の前です。お行儀良くしてください」
「ロエルだし別にいいだろ」
「ダラスさんもいるではありませんか」
ラインが使用人と言い争っている。
俺とダラスは、微笑ましいものを見ているような感じで終わるのを待っていた。
すると、声を聞きつけたのか、フレイが俺たちの後ろからやってきた。
「あら、ロエルじゃない。それと、ダラス様もごきげんよう」
と言ってスカートの裾を掴んで挨拶した。
すごくフレイらしくない動きだ。
「ほら、フレイシア様はしっかりとお行儀がなっていますよ。ラインフォード様も見習ってください」
後ろでラインと使用人がこそこそやっている。
「今日は領主様に用があってきたんだ」
「そう、じゃあ邪魔したら悪いわね。ごゆっくり」
フレイは去っていった。
「ふ~ん、後でその用とやら教えろよ」
ラインも去っていった。
「お見苦しいところをお見せしました」
「「いえいえ」」
俺たちは再び歩き始めた。
しばらく歩くと、他より少し立派な部屋についた。
中に入ると、テーブルとその両サイドにふかふかの椅子が置いてある。
応接室みたいなものなのだろう。
「こちらの席についてお待ちください」
そう言って使用人は部屋から出て行った。
と思ったらすぐに戻ってきて、お茶とクッキーを置いた。
「それではごゆっくり」
また使用人は部屋から出て行った。
俺は出されたお茶とクッキーを口に入れた。
おいしい。
家で食べてるものとは違う。
クッキーも前世のものに比べれば劣るが普通においしかった。
多分高価なものなのだろう。
普通の領民にこの対応、領主様はいい人だ。
いや、俺とラインがなかがいいからか?
それともダラスと領主様が友人だからかも。
しばらく待っていると、領主様が部屋に入ってきた。
俺とダラスは立ち上がって頭をさげる。
「そんな固くならなくてもいい。友だしな。ロエル君もラインが世話になってるようだし」
「ははは、さすがにそういうわけにはいかないだろう」
ほんとダラスと領主様はどんな関係なんだよ。
そして領主様が向かいの席についたので俺たちも腰を下ろした。
「して、今日はどういう要件かね? 報告があるとのことだが」
「では単刀直入に言いましょう。帝国が攻めてくるかもしれません」
あれ? けっこう重大なことだけど領主様は落ち着いている。これはすでに知ってたか?
「ふむ。まあそろそろ仕掛けてくるだろうなとは思っていた。それで、そう思った理由は?」
「実はロエルからの情報なんだが。ロエル詳しく説明してくれ」
「はい。実は不審な者が森に入っていくのを見まして、気になって尾行してみたんです」
「なかなか無茶をするなぁ。それで?」
「そしたらその者たちは森の奥で別の者と会話を始めたので、それを盗み聞きしました」
「ほう。その内容は?」
「まず、師匠がこの村から出て行ったことについて話していました。師匠がいない今が攻めるチャンスだと。そして攻めるかどうかは皇帝の指示を待つとのこと。あとは帝国に栄光あれとか言ってましたね」
「なるほどな。やはりホルザーク公がいなくなるタイミングをうかがっていたか」
「まだその不審な者たちはこの村で情報収集を続けるようです。一応魔法でマーキングしましたがどうしましょう?」
「そんなこともしてきたのか……。まあまだ捕えたりはしなくていいだろう。攻めてくるにしても季節的に数か月先になるだろうしな。一応姿は確認しておきたいから後で教えてくれ」
「わかりました」
あとは少し世間話をして領主様への報告は終了。
ダラスは領主様とまだ話すことがあるようで部屋に残り、俺は部屋から出て行って帰ろうとした。
すると、部屋の外でラインが待っていた。
「ん? どうした?」
「言っただろ。後で用を聞くって。それで、なんの話をしてたんだ?」
ああそういえばそんなこと言ってたな。
でも、こいつに話したら絶対不審者捕まえに行こうとか言い出すやん。
よし、黙っておこう。
「いや、別に大した用じゃないぞ」
「大した用もないのにわざわざ父様を呼びつけるわけがないだろ。正直に話せよ」
くそ、大人しく引き下がれよ。
なんて返せば諦めてくれるかなぁ。
あっそうだ。
「実はお前についての話でな。お前のお行儀が悪いという話だ。まあ別に俺は領主様には何も言ってないがこれ以上聞くならいろいろ言っちゃうぞ?」
「……いろいろってなんだよ! 別に俺はお行儀悪くないだろ!」
「それはどうだか。さっきも使用人に怒られてたし」
「むぐっ!」
「まあそういうことだ。じゃ、今日はこれで」
俺は家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます