第十三話 イベント終了

 俺は、ファビットの死体をもって広場に戻った。


 あの後も、もう一つ群れを同じ方法で壊滅させたので死体の数は百十二匹分になっていた。


 ちなみに半分以上が子供個体だ。


 小銀貨十一枚獲得だね。


 死体は数が多すぎるので土魔法で作った箱の中に入れていた。




 広場には、師匠が腕をくんで待っていた。




「おっ、やっと戻ってきたか」




「まだみんなは来てないんですか?」




「ロエルが一番乗りだぞ。それで、何匹狩ってきたんだい?」




 俺は箱を開けながら言った。




「百十二匹ですね。ほとんど子供ですけど」




 師匠は箱を覗き込んで目を見開いた。




「へえ~ずいぶんと狩ってきたね。群れでも見つけたのかな?」




「はい」




 俺は師匠にファビットを狩った方法を伝えた。




「……ずいぶんと手の込んだことをしたね。もうこれを本業にして生きていけば? 死体もすごくきれいだし」




「ラーラス最強の人に剣を教わってすることがウサギ狩りって、無駄使い感半端ないですね」




「はは、それもそうだね」




 そんなことを話しながら待っていると、イアとフレイが戻ってきた。


 なんだかイアは嬉しそうだがフレイは落ち込んでいる気がする。




「おかえり、どうだった?」




 俺は二人に声をかけた。




「最初はかわいそうだったけど、慣れたら宝さがしみたいで面白かったよ!」




 イアがたくさんの氷漬けにされたファビットの死体を見せながら言った。


 ぱっと数えてみると十五匹くらいかな。




「はあ……魔法はいいわね。触らないでいいし、血も出ないし」 




 二人の姿をよく見てみると、イアは少し土がついた程度できれいだったが、フレイの方はところどころに返り血がついていて、ちょっとグロかった。


 たぶん、イアは魔法で遠くから仕留め、フレイは近接戦闘をしたのだろう。




「あ~フレイは大変だったんだね」




 俺はフレイの服に錬金術のような土魔法を使い、血の汚れだけ服から抜き取った。




「ありがと、やっぱ魔法はいいわね……」




 師匠がフレイの前に立ち、フレイの肩を掴んで話しかける。




「フレイよ。ウサギ程度を殺すのにビビっていたら戦場で人なんて殺せないぞ。それどころがもっと大型の魔獣すら殺せない。よし、回復魔法を使えるロエルもいるし、これからは流血もする訓練をしよう」




「ええ~~!? やっぱり父様は狂人よ!」




 なんかすごい物騒な話が聞こえるんだが。


 回復魔法にも限界はあるからな? 死んだり四肢切断とかしたりしたらさすがに治せないからな?




 その時、ラインが帰ってきた。




「よお! みんなは先に帰っていたのか」




「「「「………………」」」」




 ラインの恰好は、なんというか酷かった。服は返り血で赤どころが黒くなっているし、髪は土まみれ、担いでいる槍に関しては先端に肉片みたいなのがついていた。


 正直近寄りたくない。




「ロエル、勝負のことは忘れてないよな。お前は何匹狩ったんだ? ちなみに俺は……」




「くさい」




「ごばふっ!!」




 イアの手から放たれた水魔法がラインに直撃。


 不意打ちで全く受け身をとっていなかったラインは派手に吹っ飛び十メートルくらい先に墜落した。


 イア、グッジョブ!


 俺とフレイはイアに親指を立てた。


 師匠はほほえんでいた。




「急になにすんだよ!!」




 ラインが起き上がって抗議する。


 俺はそれに対し即答した。




「だってお前、くさいんだもん」




「「うん」」




 イアとフレイも同調する。




「……俺、泣いていいよな。泣いても許してくれるよな」




 なんか本気で落ち込み始めたので俺はさっきフレイに使った魔法をラインにかけた。


 ラインから汚れが取れていく。




「おお! お前の魔法ってなんでもできるな! 一家に一台ほしいくらいだ」




 せっかくきれいにしてやったのに人を便利家電のような扱いをしやがって。




「で、結局ラインは何匹狩ってきたんだ?」




「よくぞ聞いてくれた。聞いて驚け!」




 もったいぶった後、ラインは袋に入れたファビットの頭を掲げて言った。




「二十四匹だ!」




 う~ん、反応に困るな。


 俺みたいな変な手段を使わずに駆け回って狩ったにしては多いんだろうけど、俺の四分の一以下だからな。


 まあすごく頑張っただろうことは伝わってくるんだけど。




「あ~なんかごめん」




 俺は考えた末にとりあえず謝った。




「え? なんで急に謝るんだよ?」




「ライン、ロエルが狩った数はね、百十二匹だ」




 師匠が容赦なく現実を突きつける。




「へ?」




「だから、ラインのダントツ負けってことよ。まあ今回はちょっと同情するわ。諦めなさい」




 フレイがさらに追い打ちをかける。




「あはは、やっぱロエルはすごいね。ラインに四倍も差をつけるなんて」




「ぐはっ!!」




 ラインがぶったおれた!!


 イアの言葉がとどめとなってしまったようだ。


 ライン逝くな! お前はまだ死んでいい人間ではない!






 こうして、この日のイベントは終わった。


 最後に、みんなの狩った数が集計されて順位がだされた。


 一位は当然俺、ではなくなんと、パン屋のおっちゃんだった。


 どうも俺にわたしたにおい団子を村のいたるところに仕掛けていて夕方ごろに片っ端から狩っていったらしい。


 その狩った数は驚異の三百四十!


 この後におい団子の注文が殺到したことは言うまでもない。


 イベントの報酬も含めてパン屋のおっちゃんは大儲けしたことだろう。


 ちなみに二位は謎の黒マントで三位が俺だった。

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