第十四話 買い物

「ねえ! この前のイベントでお小遣いが手に入ったし、みんなで買い物しない?」




 今日の訓練が終わり、みんなで柔軟体操しているときに、フレイがそんなことを言い出した。




「買い物っつったって何買うんだよ」




 ラインが立ち上がって伸びをした後に返事をした。どうやらそんなに乗り気ではないようだ。




「そんなの決まってないわ。たくさんのお店を見て回って、気になったものを買うの」




「なんだ、金を使いたいだけじゃないか」




「何言ってるの? 金は使うためにあるのよ。それにね、こういう突然領主から配られた金はすぐに消費しないと領内の流通が滞るの。だからこれは村のためでもあるわ。将来領主を継ぐんだからそれくらい考えなさい」




「えぇぇぇ? ……はい」




 ラインがフレイの論理に言い返せなくなった。うずくまって地面にのの字を書いている。


 さすが公爵令嬢、そういう知識もあるんだな。


 まあ今のは買い物に行く口実にしか見えないけど。




「イアはどう思う?」




 俺は俺の隣に座っているイアに意見を求めた。




「なんか面白そう。行ってみたい」




「さすがイアはラインと違ってこの楽しさが分かるようね! 買い物は大人の女性になる第一歩なのよ!」




「そうなると男の俺たちは関係ないことになるんだが」




「何言ってるの。 買い物する女のサポートをすることもいい男への第一歩よ。力だけあっても女はよってこないわ!」




 五歳ごときがなに言ってんだよ。一体公爵家はどんな教育をしてるんだ?


 まあイアも行きたいならいいか。


 よし、俺は立ち上がって伸びをした。




「それで、いつ出発する?」




「お、ロエルはのってくれるのね! それで、ライン以外は行くようだけどラインはどうするの?」




 うずくまっていたラインがぱっと顔を上げて叫んだ。




「ああ分かった! 行くよ!」




 その答えにフレイは満足げな表情を浮かべ、胸を張って言った。




「じゃあ一回解散してお昼を食べたら広場に集合ね!」




________




 俺は家で食事を済ませた後、銀貨をもって広場へ向かった。


 広場にはすでにイアが待っていた。




「ごめん、待った?」




「大丈夫だよ。今来たところだから」




 イアの横に立ってラインとフレイを待つ。


 今はみんなお昼ご飯を食べている時間なので広場に俺たち以外の村人はいない。


 無言の静かな時間がゆっくりと流れた。




「ねえ」




 突然イアが声を発した。




「ん? どうした?」




「私、ロエルに出会うまでこんな生活ができるなんて思ってなかったよ」




 急にどうしたんだ? 俺は黙って続きを聞く。




「前は村人みんなが怖かった。だからこの村が嫌いだった。でも、今はフレイやラインみたいな友達もできたし、この前のイベントでもたくさんの人たちに挨拶されたんだ。しかも今日みたいにみんなでお出かけなんて、前なら考えられなかったよ」




 ああ、なるほど、友達らしい行動に感情が高ぶっているのか。




「ロエルが私を助けてくれなかったら私は村を嫌いなままだった。ありがとね」




「それは違うよ。イアが自分に自信をもって、しっかりと人と向き合ったから誤解を解くことができたんだ。イアの頑張りの成果だよ」




 やっぱ自分に自信をもつって大事だよね。俺ももっと自信があれば前世でいろいろできたのかな。




「でも、きっかけをくれたのはロエルだよ。ありがとう、これからもよろしくね!」




 そう言ってイアは俺の方を見て笑った。最高に輝いている笑顔だった。


 それをみて俺は思わずイアの頭をなでて答えた。




「当然だろ。これからもそばにいるよ」




 ああ~五歳がなに言ってんだろ。


 でも、仕方ないじゃないか。


 俺は決してロリコンではないがこれは誰でもこう答えちゃうよ。




「うん! 約束だよ!」




 ________




 しばらくして、ようやくラインとフレイが広場にやってきた。


 ラインはいつも通りの恰好だが、フレイはちょっときれいなドレスで来ていた。




「二人とも、遅くなってごめんね」




「フレイの準備が遅すぎるんだよ」




「なによ。女の子の準備が遅くて何が悪いってのよ」




 到着するなり二人で言い争い始めた。


 あの~俺たちを放置しないでほしいんですが。




「二人とも落ち着いて、俺たちは別に気にしてないから。それにしても、フレイが身だしなみとかに気遣うのってなんか意外だな」




 すると、フレイの矛先がこっちを向いた。




「なによ、失礼ね。貴族として身だしなみを気遣うなんて当然だわ。逆にラインが気にしなさすぎなのよ」




「おいおい俺だってちょっとは考えてるからな」




 またラインとフレイでわちゃわちゃし始めた。


 イアの方を見てみると、めちゃくちゃ笑顔でその様子を眺めている。




「二人とも、やっぱり仲良しだね」




「「だれがこいつなんかと!!」」




「あははははははは」




 イアが二人を見て笑い始めた。




「……なんか馬鹿らしくなってきたわね」




「……そうだな」




 ラインとフレイが黙ったので、イアの笑いが収まるのをまって俺は話を進めた。




「よし、まずはどこに行く?」




 俺がみんなに問いかけると、フレイが胸を張って答えた。




「行先は決めてあるわ! 私についてきなさい!」




 ________




 俺たちは前にフレイとライン、後ろに俺とイアという形で二列になってフレイについて行った。


 村の広場から離れ、大通りに入った後、商店街にでも行くのかと思いきや細い道に入った。そして、とある建物の前で止まった。




「ここよ!」




 ん~これはなんというか……




「なんだよこの怪しい店は」




 ラインが俺の心中を代弁した。




「怪しくないわ! 冒険者のお店よ!」




 へえ~冒険者のお店かあ……どんなものが売ってるのか楽しみだな。


 でも……




「えっと、ここで買い物することはいい女への近道なのか? 服でも買いに行くもんだと思ってたんだが」




 またもラインが俺の心中を代弁した。 




「うるさいわね! 細かいことはいいのよ! イアだってここで買い物したいと思うわよね?」




 突然話題をふられて、ぼ~っとお店を見ていたイアが困惑している。




「……え? あっうん」




「じゃあ半数の賛成でこの店に決定ね! さあ! 入りましょう!」




 俺たちは店の扉を開けて入店した。


 店の中を見渡すと、外見とは違い結構整っている。なんなら他の店よりも前世にあったお店に近い。商品棚が何列か並んでいて、商品が陳列されていた。




「らっしゃい! ん? なんだガキかよ」




 俺が店内の様子に関心していると、奥から店主らしきがたいのいいはげたおっさんがでてきた。


 ちょっと威圧感がやばい。




「ガキって何よ。ちゃんとした客よ!」




 フレイが抗議する。なんてすごい勇気だ。




「ふ~ん。まっ商品を買ってくれんならなんでもいいか」




 俺たちは商品を見て回った。


 商品棚には、軽い武器やキャンプ用品などが並んでいた。冒険者の店というだけあって冒険用品を売っているのだろう。


 そんな中、一つの商品が俺の目をとめた。


 それは、ミサンガのようなものだった。




「お、坊主、それが気になんのか?」




 じっと見つめてたら店主に話しかけられた。




「ええ、他の商品と全然違うので。これも冒険で使うものなんですか?」




「まあお守りというか、仲間の証みたいなもんだ。それは魔道具になっていてな。それを付けると、連動したものをつけている仲間が死んだときに切れるようになっている。だから死亡確認とかにも使われるぞ」




「へえ~なにそれすっげえ!」




 説明を聞いたラインが食いついた。




「なあ、みんなでこれ買おうぜ!」




「たしかに仲間の証っていいわね」




「私たちの友情の証。憧れる」




 フレイとイアも賛同した。




「じゃあこれ買うか。値段はいくらですか?」




 俺はミサンガをもっておっさんに値段を聞いた。




「一つ小銀貨一枚だ」




 安いような高いような値段だな。まあ魔道具にしては安い方なのか?


 俺たちはそれぞれ銀貨をはらい、ミサンガを購入した。




「毎度あり!」


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