第二話 剣聖
イアと遊んでたら、ラインがやってきた。
「また決闘か、そろそろ懲りろよ」
俺は手に魔力を集めながら言う。
すると、ラインは慌て始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
今日は決闘じゃないんだ!」
どうやら他の用があるようだ。
「じゃあ何しに来たんだよ」
「いや、実はだな……
ちょっとお前に会いたいという方がいてだな……」
うわ、絶対俺に会いたいこいつの知り合いとかめんどいやつやん。
「面倒ごとはごめんだぞ」
「いや、多分会ってお前が損することはない……はず」
ふむ、どうしようか。
でもあのラインが下出にでているのをみるに俺に会いたい方というのはラインが逆らえない人だな。
となると騎士より上の階級か。
断ったほうが後で問題になりそうだ。
「とりあえず話は聞いておこう。
俺に会いたいというのはどんなやつなんだ?」
「いや、その、俺の師匠だ」
「お前の師匠と言われてもどんなやつか全く分からん。身分とか名前とかないのか?」
「いや……師匠は自分のことをあまり話さなくてだな……
めちゃくちゃ強いということと俺以外に女の子の弟子がいることくらいしかわからない」
「いやいや名前くらい聞いとけよ」
めちゃくちゃ怪しい人じゃないか。
でもあの負けず嫌いなラインがあっさり強いと認めるということはそれだけ圧倒的に強いということか。報復が怖いな。
「まあいいだろう。
ついていってやるよ」
「おお、お前ならそういってくれるって信じてたよ!」
よく言うよ。
「イアはどうする?ここで解散でもいいけど」
「ついていくよ」
「そう言ってるけどいいか?ライン」
「もちろんだ」
そして俺たちは領主の屋敷に向かった。
「ちょっとここで待っててくれ。
いま師匠を呼んでくるから」
俺とイアは中庭で待たされた。
招待したんだから茶ぐらい用意しろよな。
しばらく待っていると、ラインが黒いマントを羽織った長身で細身の男を伴って戻ってきた。
あれが師匠か……まじで怪しいやつだな。
「やあ、君がロクスウェル君かな?」
黒マントが話しかけてきた。
「はい、あなたが俺に会いたいというラインの師匠ですね。
今回はどういったご用件でしょうか?」
「いや、ラインから自分を毎度決闘で負かす相手がいると聞いてね」
「つまり、弟子のかたき討ちということですか?」
「とんでもない、単純に強い子に興味があるだけだよ。
ということで、僕と手合わせしないかい?」
「……結局かたき討ちじゃないですか」
「ははは、そうなってしまうね」
「まあ、いいでしょう。
ただ、木刀を家からもってくるのは面倒なので貸してください」
「それくらいいいとも。
ライン、もってきてくれ」
「はい!」
ラインが木刀を取りに走り出した。
俺は待っている間、手からいくつかの魔法を使って感覚を確かめる。
「……ウォーア!……フィーア!」
「へ~聞いてた通り魔法が上手だね」
「ええ、幼い時から練習してますので」
ラインが帰ってきた。
俺はラインから木刀を受け取る。
「よし、木刀もきたし、始めるか」
「そうですね」
黒マントは中庭の真ん中へ向かって歩き出す。
俺もついて行って黒マントから二十メートルほど離れた位置で止まった。
中庭の真ん中で俺と黒マントが向かい合うかたちになる。
「ライン、始まりの合図を頼む」
「はい!それでは開…」
「ちょっとまって!」
俺は開始の合図に待ったをかけた。
「おや?どうしたんだい?まだ何か足りないものが?」
「ええ、ちょっと準備の時間をください」
そして俺は長い長い詠・唱・を・開始した。
詠唱が進むにつれ、前にかまえた木刀が光りだす。
悪いね黒マントさん。
いつもなら適度にやってわざと負けるところだが今日はイアが見ているんだ。
イアの前では俺が手加減したらばれちゃうし、なによりイアに情けない姿を見せたくないんでね。
ちょっと勝たせてもらうよ。
「おいおい、開始前に詠唱するとか卑怯だろ!」
「いいじゃないか、ライン。
彼は魔法師なのだからそれでいいのだよ」
「し、師匠がそう言うなら」
イアは不思議そうに俺を見ていた。
やがて、俺の詠唱が終わる。
俺の木刀は今にも爆発しそうなほど輝いていた。
「よし、準備オーケーだ」
「じゃあ今度こそ始めるぞ。開始!」
試合が始まった。
皆が何が起こるのかと輝く木刀を見ている。
俺は木刀を頭の上に掲げた。
それに合わせて皆の視線も上に向かう。
当然黒マントも例外ではない。
俺は皆の注目を集めている木刀を……
真横に捨てた。
黒マントの視線が木刀を追う。
そして一瞬だが俺が黒マントの視線から外れた。
その一瞬を無駄にしないように俺は足にこっそり集めた魔力を開放し、儀式氷魔法を放った。
俺の左足を起点に地面が放射状に凍っていく。
そして黒マントも巻き込み、腰当たりまで凍らせた。
俺は止まることなく中位土魔法を連射。
マシンガンのようにとめどなく鋭利な岩が俺の手から放たれる。
だが、黒マントは凍っているため動けない。
岩は全弾ヒットした。
土煙が黒マントを覆う。
きっとあの中は悲惨なことになっているだろう。
だが、俺は連射をやめない。
こういう時はやめた瞬間に土煙から無傷ででてこられて逆転されてしまうのだ。
故に俺は勝利が確定するまで、つまり審判のラインが俺の勝利宣言をするまで攻撃を止めない。
ついに呆気にとられていたラインが我に返った。
「ちょっとお前! やりすぎだろ!」
「やめてほしくば俺の勝利宣言をしろ!
勝利が確定するまで、俺は攻撃をやめない!」
「わかった、わかったから!
この勝負ロクスウェルの……」
「ちょっと待った! ライン!」
土煙から声がした。
え?まさか、え?
パ―――ン
木刀が一閃され、土煙が散る。
そして中から全く無事の赤髪のイケメンが出てきた。
「ふふふ、今まで君を所詮子供に過ぎないと侮っていた無礼を許してほしい。
だが、ここからは本気でやろう。
俺はラーラスの剣、剣聖アレクシア・ホルザーク!
ホルザーク家の名において、決闘を申し込む!」
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