少年期村生活編

第一話 秘密基地へご招待

 季節は春、村では畑に種まきをする作業が行われ、狩人は森へ動き出した動物を狩りに行った。


 そんな中、俺は今日もイアと元気に遊んでいた。


 いつも通り決闘しに来たラインを撃退し、魔法の練習に入る。




「とりゃ!」




 気の抜けた掛け声とともにイアが中位水魔法を放つ。




「ふむ、構築速度も安定感も威力も十分だ。


 そろそろ上位魔法にはいるか」




「上位魔法にはどんなのがあるの?」




「そうだなぁ、例えば俺がコクロウトに撃った高水圧ビームとかだな」




「すごい!」




「でもああいうのは村で撃つと危ないんだよな。


 どこかぶっぱしてもいい場所はないだろうか」




 俺は畑をえぐり我が家の壁をぶち抜いたのを思い出す。




「森じゃだめなの?」




「いや、イアはまだ上位魔法を撃ったことはないからな。


 もし暴発したりしたら森が消し飛ぶかもしれない」




 となると…


 いっそのこと地下研究所に連れてってしまおうか。


 地下研究所は今も拡張が続けられていて、もう地下三階までできていた。


 そして未だに両親にはばれていない。


 そろそろばれてもいいかなと思い始めているが、おもしろいのでばれるまでばらさないことにした。




「よし、イア。いまから秘密の場所に連れていく。


 くれぐれも大人にばれないようにしてくれ」




「秘密の場所? なんかすごい!」




 おお!イアはこのロマンがわかるようだ。




「よし、じゃあ俺について来て」




 そして俺は俺の家の裏にまわる。


 そして隠しておいた地下への入り口を開いた。


 そして中に入る。




「さあ、入ってきて」




 イアが入った後、俺は入り口を閉め、壁にある魔法陣を発動させ、再び入り口を隠すと同時に照明をつけた。


 体育館位の広さの地下研究所の全容が明らかになる。




「すごーい!! ロエルの家の地下、こんなことになってたんだ!」




「かなり作るのには時間をかけたよ。


 でも、おかげで魔法の研究が進んでいるんだけどね」




 イアは研究机の上にのっている魔法陣を見て言う。




「これは何の魔法陣なの?」




「それはまだ研究中なんだけど、完成したら転移魔法陣になる予定だ」




 そう、俺は最近は転移魔法陣の制作に取り組んでいた。




「転移魔法陣?」




「ああ。それが完成して世界中に普及すればどんなところにも一瞬で行けるようになる。


 例えば、町に置いておけば納税も一瞬だ」




「へ~すごいのをつくってるね~」




「まあでも本当に難しいから完成まで何年かかるか分からないんだけどね」




 そして俺は地下二階の実験場に行く。




「ここは防御結界が張られている。


 ここでなら上位魔法程度はいくらでも撃てるよ」




 俺は上位魔法のでっかい火炎放射を壁にうつ。


 壁は全く崩れることはなかった。




「さあ、イアも撃ってみよう!」




「うん!」




 そしてイアは俺の指示に従いながら魔法を構築する。


 一分ほど経って魔法が完成したようだ。




「てーい!」




 イアの手から高水圧ビームが放たれる。


 そして壁にぶち当たった。




「やったー!」




 あははあははとイアがくるくる回りながら大喜びする。




「中位魔法のときはそんなに喜んでなかったのに、どうしたんだい?」




「ふふふ、ロエルが私を助けるときに使ってたあの魔法がずっと憧れだったの!」




 ということらしい。




「ふーん。後は繰り返して構築速度を上げていくんだ。


 三秒以内に構築できるようになったら次は儀式魔法だ」




「はい! がんばります!」




 そしてイアは高水圧ビームを撃ちまくった。


 百回ほど撃ったとき、いきなりイアが魔法の発動に失敗した。


 そのままイアはうつ伏せに倒れてしまう。


 俺は慌てて駆け寄った。




「どうした! イア!」




「ん、大丈夫……ちょっと疲れただけ。」




 ふむ、もしかして魔力切れか?


 今まで俺もイアも魔力切れをしたことがなかったので、この世界の人が魔法を使いすぎると魔力切れすることを忘れていた。


 しかし、さすがに上位魔法を撃ちまくったらイアでも魔力切れするか。


 でも、俺は上位魔法どころか儀式魔法を乱射しても魔力切れを起こしたことはない。ほんとに俺の魔力総量はどうなってるんだろうか。




「ちょっと待ってろ」




 俺は地下三階の貯蔵エリアに行き、いくつか魔石を取ってきた。




「イア、これから魔力を吸い取ってくれ」




 イアに魔石を渡す。


 イアは魔石を握りしめて魔力を吸収しようとする。


 だが、他の物から魔力を吸収したことなどないイアはやり方がわからなかった。




「ロエル、吸い取れって言われてもやり方がわからないよ~」




「ほら、魔道具を使う時の逆バージョンみたいな感じだよ」




「む~~」




 がんばっているが全然吸収できてない。


 吸収する感覚を教えるには……


 そうだ!あれをつかおう!


 俺はまた貯蔵エリアへ行き、今度はとある魔法陣が刻み込まれたはんことインクをもってきた。




「今からイアに魔力を吸収する魔法陣を写すからそれで吸収する感覚を覚えてくれ」




「うん!」




 でも、どこに写そうか。


 はんこのサイズ的に手の平とかは無理だ。


 となると他の平なところといったら…




「ちょっと背中失礼しまーす」




 俺はイアの服をめくった。ひゃいっとか言ってるが気にしない。


 そして背中にはんこをおして魔石を乗っける。


 魔法陣は人体の上でも正常に機能し、魔石から魔力を吸い始めた。




「もう! 急に服をめくらないでよ!」




 イアが顔を赤くして抗議してくる。




「まあまあ気にしないで。


 そんなことより今は魔力を吸収する感覚を覚えるのに集中してくれ」




「もう!……」




 まだ言いたいことがありそうだが黙って集中する。


 素直でよろしい。




 しばらくすると、イアが復活した。


 魔石は最初の三分の一くらいのサイズになった。




「調子はどうだ?」




「すっごくいいよ。これならもう百発くらい撃てる気がする!」




「あんまり無理すんなよ」




 そしてイアはまた高水圧ビームの連射を始める。


 回数を重ねるごとにだんだん構築速度が上がってきた。


 今は一発十五秒くらいで撃っている。


 構築に慣れてきた結果、魔力効率もあがったのだろう。


 今度は百発撃っても倒れなかった。




「イア、そろそろ休憩をしよう」




「え~まだまだ撃てるよ?」




「お茶とおやつを用意した」




「休憩にしよう!」




 そして、俺たちは地下一階へ向かった。


 席について魔道具のティ―ポットに魔力をこめる。


 水の魔法陣でティ―ポット内に水が満たされ、火の魔法陣で温められる。それをイアが興味深げに見つめていた。




「それもロエルがつくったの?」




「ああ、でも使ってる魔法陣は基本魔法陣だけだから、アイデアさえあれば誰でも作れるよ」




 俺は別室からもってきた茶葉をポットにいれる。




「それは上からもらってきたの?」




「いや、この階の別の部屋で土魔法の実験のために栽培してるものだよ。決して体に悪いものではないから安心して」




「…それって大丈夫なの?まあいいけど」




 俺は氷の魔法陣でつくった簡易冷蔵庫からおやつをとりだす。




「じゃん!マリトッツォだ!」




 俺はパンに大量に生クリームをぶちこんだだけのマリトッツォのようなものをとりだした。




「わーい!待ってました!」




「さあ、食べようか」




 その瞬間にイアがマリトッツォのようなものにかぶりつく。


 そしてほっぺをハムスターのようにして幸せそうな顔をした。




「口に合ったみたいでよかった」




「おえうのおういはおいしいお」




「飲み込んでからしゃべりなさい」




 イアはしばらく咀嚼してから飲み込み、そしてお茶を一口飲んだ。




「ふぅ…おいしかった。ありがとう!」




「まだまだあるからどんどん食べてくれ」




 その後、あと三つほどあったマリトッツォのようなものはイアのおなかの中へ消えていった。


 女の子は甘いものはよく食べるね。


 そしてまた魔法の練習を再開し、暗くなってきたところで別れた。


 ちなみに、あれ以降この日はイアは倒れなかった。

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