第十三話 初めての友達

 村の中をしばらく歩き、子供の家に無事到着した。


 裕福でも貧乏でもない一般的な住居だ。




「ここが君の家かな?」




「…ん」




「じゃあ今度こそお別れだね。またね。」




 俺は家に帰ろうとした。


 が、まだ子供は俺のことを放してくれない。




「…まだなにか?」




 そろそろめんどくさくなってきた。


 それに早く帰って、セーラに死体の説明をしないと。


 きっと今頃混乱しているはずだ。




「…お礼…したい…」




 ああなるほど。一応命の恩人だしな。




「いやいや、困ってる人がいたら助けるのは当然だから。お礼とかは別にいいよ。」




 そう言ったが子供は放してくれない。


 意地でも家に招くつもりのようだ。


 俺は諦めておとなしく招かれることにした。




 家の中にはいると、子供は俺を放って走り出した。


 このまま帰ってしまおうか、とも考えたがそれはかわいそうだと思ったので子供についていった。




 やがて、子供は一つの部屋に入った。


 俺もそれに続く。


 部屋の中には、ベッドがあり、その上で女性が寝ていた。




「お母さん!!」




 子供が叫んで女性に駆け寄る。


 どうやら子供の母親のようだ。




「…あら、イアじゃない。どうかしたの?」




 子供はイアと呼ばれているらしい。




「あのね!お母さんのために薬草をとってきたの!」




 なるほど、イアの母親は病気のようだ。


 だから、一人で森にいたのか。




「え!?じゃあ一人で森に行ったの!?


 大丈夫だった!?魔獣に襲われたりしてない!?」




「襲われたけど、あの人が助けてくれたんだ!」




 イアが俺を指さしたので、母親は俺に気づいたようだ。


 とりあえず挨拶する。




「こんにちは。ロクスウェルと申します。


 森の中で襲われているイアさんを発見したので保護させてもらいました。」




「ロクスウェル…?


 ああ!セーラさんとこのロエルくんね!


 まだ幼いのにしっかりしてるね。」




「いえいえ、母さんの教育のたまものです。」




「本当にうちのイアと同い年とはおもえないね~」




 おいおい悪気はないんだろうが自分の子供を下げるのはよくないぞ。


 布袋にさえぎられてわからないがイアが落ち込んだように見えた。


 そんな俺の視線に気づいたのか。


 イアの母親はイアについて話しはじめる。




「布袋なんてかぶっているから驚いたでしょう。


 ごめんね。イアはひとみしりなんだ~


 よかったらなか…ゴホッゴホ」




 最後まで言い切るまえにイアの母親はせき込んでしまう。




「お母さん!!」




 イアが心配そうに叫ぶ。




「ごめんね~心配かけて。」




「今薬草飲ませるからおとなしくしてて!」




 そう言ってイアは薬草を手に取る。


 でも、薬草の使い方なんて知っているのだろうか。


 案の定、イアは薬草をもったまま固まっていた。




 はあ…仕方ないなあ。




「ちょっと貸して。」




 そう言って俺はイアから薬草を受け取る。


 ふむ、ヒルリ草か。かなり一般的な薬草だ。


 これならセーラに教えてもらった知識でなんとかなる。




 俺は土魔法ですり鉢と棒をつくり、その中に薬草をいれて、かき混ぜながら水を加えたり、温めたりした。


 そして、回復薬が完成する。




「回復薬です。飲めば良くなると思います。」




 母親は驚いていたがすぐに納得した顔をうかべる。




「そういえばセーラさんは薬師だったね。」




 その後は薬をのんだ副作用で寝てしまった。




 ____




「…ありがと」




 母親が起きていた時はあんなにはっきり喋っていたイアがまた静かになってしまった。


 本当に重度のコミュ障のようだ。


 まあ前世はボッチだった俺もその気持ちはわかる。


 え?今もボッチだって?


 ナンノコトカワカラナイナ。




「このぐらい、いいよいいよ。


 それより、さすがにそろそろ帰るからね。」




「ヤ~~」




 俺が帰ろうとすると、イアが飛びついてきた。


 そして腕をつかんで離さない。


 べつに鍛えているので力的に振り払ったり引きずってく事もできるがけがをされると後味が悪い。


 それに、俺を追っかけた結果迷子にでもなったりしたら最悪だ。




「あのね、俺は母さんに魔獣の説明をしないといけないんだ。


 そうしないと心配させてしまう。


 君が母親を大事にするように俺も母さんが大事なんだ。」




 何とか説得を試みる。




「でも…まだお礼なんもしてない…」




「だから、お礼はいいから。」




 突然ドアが開いた。




「ただいま~いい子にし…てうお!」




 イアの父親が帰ってきた。




「…イアが家に同年代を連れ込むとは…!


 ああ!父さんはうれしいぞ!」




 なんか勝手に泣き出したのでとりあえず自己紹介。




「こんにちは、ロクスウェルと申します。


 森でお子さんが襲われているとこ…」




「お父さん!!」




 イアに途中で遮られた。




「あのねあのね!


 森で大きなオオカミに襲われたんだけどね!


 そこにいるロエル?君が助けてくれたの!


 それにそれにね!


 お母さんのためにお薬も作ってくれたの!」




 さっきまでの静かさは何だったのかと思えるほど突然元気になった。


 イアはパパっ子のようだ。


 いや、母親にも病気じゃなければ同じようなことをしてたのかな?




「そうかそうかロエル君か。


 ん?ロエル君?


 君ってダラスさんとこの息子かい?」




「父さんをご存じでしたか。


 はい、そうです。」




「ご存じも何も同期だからね。


 話に聞いていた通り、本当にしっかりしてるね。」




「いえいえ、父さんの教育のたまものです。


 ところで同期となるとあなたも狩人ですか。


 でしたら近々大きな仕事がくるかもしれません。」




 きっと俺が魔獣のことを報告したら調査隊が組まれるだろう。


 衛兵だけでは頭数が足りないし、森だと狩人のほうが有利なので狩人は招集されると思う。




「ふむ、それはイアを襲ったという魔獣の件でかい?


 そんなに魔獣は強大だったのかい?」




「ええ、僕五人分くらいの大きさで、ブレスも吐いてきました。


 死体を回収したので詳しい容姿については父さんから説明されると思います。」




「死体を回収したって…!倒したのか!


 か~~~さすがダラスさんの息子さんだ!」




 どうやらダラスは結構尊敬されているようだ。




「ところで話は変わるんだけど…」




 とつぜんかしこまってちょいちょいと手をふってくる。


 近くに来てほしいようだ。


 俺が近づくと、俺の肩をもってイアに背を向けた。


 そして小声で話しかけてくる。




「…イアがずっと布袋をかぶってる理由、気にならないかい?」




「…まあ、気にならないといったら嘘になります。


 ですが何か重い事情があるようなので聞きません。」




 俺が速攻で話をきると、父親は慌てた。




「まあそんなこと言わずに聞いてくれよ。


 実はイアの顔は事情があって他の人とかなり違くてね。


 それが原因で村人から避けられてしまうんだ。


 だから対策として顔を隠してるんだよ。」




 ほら!やっぱり重い!




「…それで俺にどうしろと?」




 父親はよくぞ聞いてくれた!という顔をして、




「実はそういうこともあって友達ができなくてね。


 見たところイアは君になついているようだから友達になってあげてほしいんだ!」




「…別にそれぐらいいいですけど…


 それ父親が頼んでいいことなんですかね」




「つまりイアから言えばいいということだね!」




「いえいえそういうわけでは…」




「イアー!ロエル君が友達になってくれるそうだぞ!」




 だめだ全然聞いてない。


 友達ができないのこいつのせいでもあるんじゃね?




 俺が呆然としているとイアがもじもじし始めた。


 そして覚悟を決めたように




「あの、ロエル、君。よろしくお願いします。」




「…ロエルでいい。俺もイアって呼ぶから。」




 こうして半ば強引に俺に初めての友達ができた。


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