悩み事の話

 ちょこと仲良くなり始めたのは高校二年生の頃だ。そのときの私はとあることで随分悩んでいたのだった。そしてそれを解決してくれたのはちょこだった。


「あのさ、最近悩んでることがあるんだけど」

「うん」

「私、影響されやすいんだ。それでなんか、自分ってものがないように感じるの。全部他人から影響受けたもので、私自身のものがないっていうか」

「なるほど……んー」

 移動教室のときにこんな重い話されても困るだろうなって思ったけれど、なんだか口をついて出てしまった。真面目に返答を考えてくれているちょこを待つ。

「影響されるっていうのはさ、君がいいなって思うからでしょ? いいなって思うからこそ影響されるっていうかさ。例えば僕の趣味はゲームだけど、だからって君が僕のようにゲームにはまるわけじゃない。影響されるものをちゃんと自分で選べている以上、どれだけ他人に影響されようが君は君だ」

「……そっか」

 目の前が開けた感覚がした。ちゃんと私というものがあるのだと、ちょこは示してくれた。重たい荷物を投げ捨ててもらったような、軽い気持ちになる。

 軽い気持ちになると同時に、隣にいるちょこにすごく驚いた。背が低い上に童顔で、しばしば中学生と間違われる彼女は、その実私よりも遥かに大人だ。


 この日以来、私は事あるごとに悩みをちょこに話した。どうでもいいような小さなことから、話すのを一瞬躊躇われるほど重たいものまで。それでもちょこはいつだって、真面目に、そしてきっぱりと返事をくれた。いつでも私の目の前の霧を振り払ってくれた。そんな彼女がどれだけかっこよく見えたことか。

 小さくて華奢な彼女は、私が知っている誰よりも男前だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょこと私の日常 青依 月 @Heart-is-diamond

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ