恋とか愛とかの話
「ちょこちゃんって好きな人いるのー?」
「いや、いないよ」
「またまたー! よく話してる男子いるじゃん!」
「いや……ただの友達だよ」
ちょこが数人の女子に質問攻めにされている。あらあら、と思って眺めていると、ちょこはどうやら上手いこと言って話を切り上げたらしい。
「大変だったね」
「なんでこの年代の人って恋の話が好きなんだろうか」
「なんでだろうねぇ」
うんざりしたようなちょこが面白くてくすくす笑う。ちょこは私をちらりと見てから、ふう、と小さくため息をついた。
「あたしは一度だって、人を真面目に好きになったことがないよ」
「……ん? え、嘘でしょ」
「ほんとだけど」
「え、だって、中学の時、一個上の先輩が好きだって言ってたじゃん」
「そうだね」
ちょこと私が通う学校は中高一貫校だから、中学の時のちょこのことも私は知っている。
「中二の時、二個上の先輩と付き合ってたよね!?」
「付き合ってたねぇ」
「それらは一体……?」
「んー……好きな人がいないとさぁ、色々めんどくさいじゃん? さっきもそうだったけど、いないって言っても当然いるみたいに言われるしさ」
「まあ、うん」
ちょこは心底うんざりした顔をしている。どうやら、好きな人がいるはずだという前提で話をされることを不愉快に思っているらしい。その気持ちはわかるけども。
「だからさぁ、決めるわけ。この人あたり好きになっとこうって」
「……ん?」
「まあ言ってしまえば、恋に落ちるのではなくて自分から落ちにいくというか、好きな人がいるという設定をつけるというか」
「えー……まじか」
まじ。と頷くちょこ。真面目に好きになったことがないってそういうことか。
「えっ、じゃあ付き合ってた先輩は?」
「あー……例の先輩には悪いことしたなぁって思ってるよ? ただ、付き合ってから豹変されなかったらもっと続いてた気もする……」
「あー……そういえば言ってたね。束縛やばかったんでしょ?」
「あはは……もう思い出したくもないね」
上を見上げて乾いた笑いを溢すちょこを見て、よっぽどだったんだな、と察する。
「だからさぁ、恋とか愛とかそういうの、すごいなぁって。他人を好きになったり、愛しく思ったりするのって全然当たり前のことじゃないし、私には荷が重いよ」
「ちょこってさぁ……なんていうか、生きるの下手くそだよね」
「っふふ、言ってくれるねぇ」
「だってさ、荷が重いなら、自分は恋なんていいやーって思っちゃえばいいのに」
「あー……だってみんな、恋するのが普通って顔してくるでしょ?」
だから、ね。そう呟いたちょこの、寂しげなのに綺麗な横顔を、未だによく覚えている。
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