第6話 西のバカブ神その6(主に置いて行かれた旅人)
6・主に置いて行かれた旅人
その旅人は人を探し、国を出て一ヶ月が経っていた。
弓のように細い眉と細い瞳、細く長い黒髪を襟足で束ね、細身の身を包む武道家っぽい黒い服の出で立ちは、周りの人々にこの旅人を東の人間と思わせた。
そんな旅人の前に座り、通常の成人男性の三倍の料理をとても上品に食べている男がいた。
自分よりも数センチ程長身で、白い肌に小さな顔。紫の瞳と左の目尻に小さい黒子、耳を隠したクセのある紫の髪の男に、旅人は艶めかしさを感じていた。
夜の町を、人を探してぶつかってしまったお詫びにと入った店だったが、旅人はその食べっぷりから路銀の残りが脳裏をよぎり、バイトを覚悟していた。
そうはいっても、久しぶりの他人との食事は、旅人にとってはとても落ち着いて楽しいものだった。
それが出会ったばかりの人でもだ。
「で、どんな方をお捜しなんですか?
食事のお礼と言ってはなんですが、私も気を付けてみますよ」
食後の酒が来ると、二人はゆっくりとグラスを傾け始めた。
時間もだいぶ遅いのに、店は活気で賑わっていた。
「有難うございます。
僕みたいに黒髪で、長さは短髪です。
肌の色も浅黒、目付きの悪い黒い瞳、マントや服はだいぶ汚れていると思いますよ。
もう、もとの色は分からないでしょうね。
粗野でお金を稼ぐことは大好きなので、この町でもアルバイトしているんじゃないかと思うんですけどね~」
「肉体派?」
「頭を使うことは苦手ですね。
あ、月が半月以上膨らんでいないときは、見付けても近付かないでくださいね」
「危険人物?」
「ハッキリ言って、危険人物ですね。
噛みつかれますよ。
美人と餌をあたえないでくださいね」
「ハイハイ、覚えておきます。
でも、私も数日この町にいますが、まだ見かけてないかな」
「そうですか。
まぁ、あの人も時期が時期なので、宿屋で大人しくしていてほしいんですよね~」
そこまで言って、旅人は口を閉じた。
そうだ、さっき見た月は、今にも消え去りそうだった。
新月は終わったばかりのはずなのに…
「その人、貴方のなんなんですか?」
聞かれて、旅人は意識を会話へと戻した。
「一応、主です」
「…苦労してそう」
「物心ついた時からの付き合いですから。
で、もう一つお願いが…
この町で割のいいアルバイト、ご存知ないですか?」
「ご存知ですが…」
にんまりと口元を緩め、含みのある返答に、旅人は体を少し前に出した。
「何か、問題が?」
「いえね、最近この町で、旅人が姿を消しているらしくてね。
まぁ、旅人だから、いつ町から姿を消してもおかしくないんですが…」
「宿屋に荷物を置きっぱなしとか、連れに黙って消えたとか…」
「当たり。
だから、アルバイトする旅人も少なくなったみたいで、どなたでもウエルカム状態ですよ」
「こう見えても多少の心得はありますし、危なそうでしたら逃げますので、教えて下さい」
路銀を稼ぐのもそうだが、「探し人」が見つかるかもしれないと、旅人は身を乗り出した。
「あ・そ・こ」
そう言いって、指は旅人の斜め後ろをさした。
見てみると店の奥、角の薄暗い場所に、太陽みたいに輝く金色のくせ髪が見えた。
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